空き巣

TEAM FRIENDSの事件簿
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※この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※掲載されている画像の無断転載を禁じます!
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※一部、原文から改変しております。

作:yuri8225 様

ヤバイ、これヤバイって。
 そんな意味の取れない言葉が沙織の頭の中をぐるぐると回っていた。
 家に帰ってきた、ただそれだけ。
 そんな普段通りの行動のどこが悪かったというのか。
 誰か、教えて欲しい。
 部屋の鍵が掛かっていなかった時点で疑うべきだったのだ。
 きゃらきゃらと笑いながら開いたドアの先、もしもすぐに気付いていれば逃げられたのだろうか。
 いや、今更考えてももう意味はないのだけれど。
 玄関を抜けて部屋まで入ってはじめて、異常な状況に気付いた、ときにはもう遅かった。
 人間は本当に恐ろしい目に遭うと声が出ないのだと、沙織は十九年目の人生ではじめて知った。
 自分たちの部屋に空き巣が潜んでいたのだという事実をようやく理解したのは、縛られてからだった。
 どうやら、帰宅のタイミングが最悪だったらしい。
 手足を拘束され、口には猿轡。

イラストは、キレウサギ様。

 とりあえずなにが来ても耐え切れるように、楽天的になりたい思考を押さえて、あえて最悪な方向に思考を散らしてみる。
 そうすれば、実際にそうなったときのショックを少しは軽減できるだろう。
 ――――――。
 一気に眼前がブラックアウトした。
 実際に異常をきたしたわけではなく、精神的なものだろうことは瞭然だったけれど、突然視力を奪われたせいで沙織の体は震えが止まらなくなる。
 ドン、と左肩に小さな衝撃を感じた。
 触れたところから伝わる暖かな体温に、凍りかけた心がそっと溶けた。
 ぼやけてはいるものの回復した視界に、心配そうな顔の愛実が映る。
 目許を緩めて、精一杯笑ってみせた。
「畜生、こんな時間に帰ってくるなんて聞いてねぇぞ。顔、見られちまったしな。こんなことしちまったし。畜生、どうすりゃいいんだよ」
 部屋をノシノシと歩き回りながら、小太りの空き巣は同じ言葉を何度も繰り返している。
 どうやらこの空き巣にとっても、沙織たちの帰宅は予想外のものだったらしい。
 最初からふたりが目当てでなかったことに、とりあえずは安堵した。
 口さえ自由なら、誰にも言わないから助けてください、なんて命乞いもできるのに、しっかりと塞がれた口ではそれもできない。
 空き巣が沙織たちの方を見た。
 視線が彷徨って、それから一箇所に留まる。
 なにを、見ているのだろうか。
 その視線の先を探した沙織は、拘束されたせいで満足に動けない愛実のプリーツスカートが乱れていることに気付いた。
 まさか、と追いかけた空き巣の視線は、明らかにそこを向いている。
 愛実は気付いているのだろう、俯けた頬が赤く染まっているのがわかった。
 ふと、空き巣の視線が再び彷徨った。
 チリリ、と太ももに熱を感じた。
 空き巣を見ると、その視線は沙織の方を向いているのに、目は合わない。
 沙織の目よりも少しだけ下に向くその目を見て、背筋がゾクリと泡立った。
 見られている。
 ショートパンツから伸びた、両脚を。
 何故、今日に限ってこんな格好をしてしまったのだろうか。
 一瞬浮かんだその思考は、いつも同じような格好をしているという事実に打ちのめされた。
 好きな服を着ているだけだった。
 けれど、少しだけ締りのなくなった空き巣の顔に気付いてしまった。
 男を誘う格好だったのだと。
 手が伸びてきた。
 身を固める沙織を嘲笑うように、不躾に頬に触れられる。
 ゴツゴツとした、男の手だった。
「このことを、誰かに話すか?」
 ぶんぶん、と首を横に振る。
「俺が出て行ったら、警察に連絡するんじゃないか?」
 もう一度、激しく首を振った。
 早く、早く、解放されたかった。
「本当か?」
 横に振りかけて、慌てて縦に振り直す。
 けれど空き巣は、そんな些細な間違いを許してくれるつもりはないらしい。
「嘘なのか! 適当に返事をしているだけなんだな?」
 ゆっくりと穏やかなその声が、更に沙織の恐怖を煽ってくる。
 頬にあった手が、怪しく蠢く。
 指の腹で撫でられて、肩が跳ねる。
 沙織はほとんど擦り切れそうな勇気と負けん気をかき集めて、キッ、と空き巣を見た。
 それ以上やったら、それこそ警察に届けるとばかりに。
 それが正しい選択かはわからない。
 逆上される可能性だって多いにある。
 それでも、沙織は必死に空き巣を見た。
 空き巣は少し考える素振りを見せた。
 頬にあった手は離れて、彼自身の顎に添えられる。
「誰にも言わないんだな?」
 頷く。
「警察にも届けない」
 頷く。
 隣の愛実も同じ行動をしていることが、気配でわかった。
「わかった」
 驚くほどあっさりと、空き巣は身を引いた。
 後ろ手に縛られたままの沙織の手に、なにかが握らされる。
「縄は自分たちで解け。解いた瞬間叫ばれちゃあ困るからな」
 そんな言葉に、手の中にあるものを撫で回して、それがカッターであることを知る。
「じゃあな、お嬢さんたち」
 そう言って、空き巣は本当にノシノシと部屋を出て行った。

END

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TEAM FRIENDSの事件簿旧ブログからの転載
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コメント

  1. 旅鴉 より:

    まさに恐怖で青ざめた顔をしているって感じの良い挿絵ですね~
    文から伝わる緊張感が素晴らしいSSですよね、臨場感が伝わってきます!

    こんな健康的なフトモモを目の前にしたら、思わずムラムラしちゃいますよね~
    恐怖に抗いながら、懸命に男を睨みつける沙織ちゃん、ゾクゾクしますね~(変態か!

    そして、彼女達に手を出さずカッターナイフを渡して帰る紳士…って恰好つけてもアンタ泥棒だよね、じゃあなじゃねーよ!

    • > そして、彼女達に手を出さずカッターナイフを渡して帰る紳士…って恰好つけてもアンタ泥棒だよね、じゃあなじゃねーよ!

      おかめ党・鉄の掟その一
      「誘拐犯は紳士たるべしっ!!」
      人質にはいろいろと恐がってはもらいますが、
      おかめ党首領は血を見るのが嫌いなのです。

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