文秋砲

人気アイドルの失踪

『文秋砲』とは、大手週刊誌『週刊文秋』が放つスキャンダルスクープのことである。その文秋砲が、人気アイドル・琴川玲奈が今売り出し中の若手俳優Ｔと交際している事実をスッパ抜いた。琴川玲奈ファンの間では「真のファンならば彼女の恋を応援すべし！」「玲奈ファンは紳士たれ！」とする冷静な者と、「玲奈に裏切られた！」「ありえね～！」と嫉妬し激怒する者とに二分される状況に。そして恐れていた事態が起こってしまった…！

「ムウゥゥン…ムウゥ…」
「玲奈ちゃん、君がいけないんだぞ。俺を差し置いて、あんなふしだらな男と付き合うだなんて…」

ほとんどストーカー同然の熱狂的で過激なファンが、玲奈を拉致に及んだのである！
手足を縛られ、口もガムテープで塞がれ、男の運転する車のトランクルームへと乗せられた彼女の運命や如何に！？

闇のプロダクションとは！？

『アイドル誘拐物語』作：旅鴉様

週刊誌に俳優Tとのスキャンダルを取り上げられたことで、逆上した熱狂的なファンによって拉致され監禁された琴川玲奈。暗い部屋の中で手足を椅子に縛り付けられ、口をテープで塞がれた彼女は、この状況から逃れようと懸命にもがいていた。
だがきつく縛られた縄は軋む音をたてるだけでビクともしない。

「ムムゥ～ッ！ンムゥゥｰｰｰッ!!」

必死に声を上げるも呻き声にしかならず、厚い壁の向こうに届くことはなかった。

（このままじゃ私…何とかしないと…）

そう思い、自分を縛める縄に力を込めようとした玲奈だったが…

ガチャ

音を立てて部屋の扉が開く、現れたのは玲奈を誘拐した熱狂的ファンと…

「ンンーッ！ンムムゥッ!!」

（そんな…嘘…なぜ…亜弥が…!?）

男に引きずられるように姿を現したのは、玲奈とアイドルデュオを組んでいるパートナー、椎穂亜弥だった。
亜弥も玲奈と同じように手を縄で後手に縛られ口をガムテープで塞がれ、呻き声を上げながら、男の手の中でもがいていた。

「良い子にしてたかな玲奈ちゃん、喜んでよ君のパートナーを連れてきてあげたよ、随分懸命に君のことを捜してたからね、こっちから招待してあげたよ、これで寂しくないよね？」

（この人狂ってる…）

改めて男の狂気を目の当たりにして、背筋を震わせる玲奈。
そんな玲奈の表情を卑しげな笑みを浮かべ見つめながら、男は彼女の横に新たに椅子を並べ、そこに亜弥も座らせ同じように縛り付けた。

（ああ亜弥…私のせいであなたまで…）

自分と同じように捕らわれの身となった亜弥を見つめ、心の中で詫びながら涙を流す玲奈、そんな彼女の表情を見て「あなたは悪くない」っと言っているかのように首を振って応える亜弥。
「感動のご対面だね～、俺は玲奈ちゃん推しだけど、やっぱり２人揃った方が映えるね～、そして縛られた姿が並んで見られたのがまた感動的だよね」
そう言って、縛られた２人のアイドルを交互に見つめながら、厭らしく舌なめずりをする男。

「ンンーッ！ンンムゥゥｰｰｰｯ！」

そんな男の態度に、声をならない悪態をつく亜弥。

「おやおや、亜弥ちゃんも玲奈ちゃんと同じく悪い子のようだね、オシオキが必要かな？」

そう言って亜弥に迫ろうとする男、体を縮めるように身構える亜弥。

「ンンムゥゥーッ！ムウゥングウウゥｰｰｰ!!（やめて！亜弥には手を出さないで！）」

縛られた体を無理矢理持ち上げようとしながら、亜弥を庇うように男に向かって叫ぶ玲奈。

「どうしたの玲奈ちゃん？亜弥ちゃんを助けたいの？だったら…あんな野郎と別れて俺だけのものになってくれる？」

男の言葉に思わず目を逸らしてしまった玲奈、俳優Tとの関係ははなから何事もなく、ただのフェイクニュースなのだから別れるもなにもない、ただこの男のものになる、それは嘘であっても我慢出来ないぐらい嫌なことだった。

「なるほど…それが玲奈ちゃんの答えか…だったらもういいや」

男はそう言って溜息をつくと、突然デジカメを取り出し、縛られた２人に向かってシャッターを切った。
突然のことに驚く２人、それに答えるように男は言う。

「この画像はまず君のマネージャーに送るよ、そしてもう１つ…」

言葉を止める男に不安げな表情を浮かべる玲奈と亜弥、その様子を見て下卑た笑みを浮かべ男は言葉を続けた。

「闇のプロダクションってところがあるみたいだからね、そこに画像を送らせてもらうよ、一応向こうには話を持っていってたからね、この証拠画像を見せれば高い仲介料払ってくれると思うよ、君たちはそこに移籍することになるのさ、所謂新たなステージでデビューってことだ、そこで俺は改めて君達のファンクラブ第１号だ！」

「ンムゥッ!?ンムムムゥゥゥッ!!」

「ムゥッ!!ムグゥゥゥｰｰｰッ!!」

男の言葉に怯えながら、半ば暴れるようにもがく２人。闇のプロダクション…明らかに怪しい響きだ、このままでは最悪な未来しか待っていないことは容易に想像出来る。

「じゃあ俺は話つけてくるからここで２人で仲良く待っているんだね、そうだね～、ついでだから君らの美人マネージャーも一緒に移籍させてあげてもいいよね、クククク…」

そう言い残し、男は部屋を後にする、残されたのは暗闇と静寂だけだった。

そして２人に増えた捕らわれのアイドル達、このままでは再び表舞台でスポットライトを浴びることなく、別の意味での地下アイドルとしてファン(？)達に、握手以上のサービスを強いられることとなるだろう。

「ンムゥゥーーーッ!!ンンムゥーー!!」

「ングゥッ!!ンンムゥーッ!!」

口を塞がれたアイドル達は暗闇の中、歌の代わりに呻き声を響かせていた。

（助けて…誰か…助けて!!）

無力なアイドル達は心の中で助けを求め叫び続ける、その思いは届くのか…次ぎに部屋の扉を開けるのは助けなのか？それとも絶望なのか…？それはまだ彼女達には解らない…。

END

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