蛇ノ谷村で不可解な事件が起こっているその頃、鷺島市では、笹南侑衣梨がバディを組む先輩刑事・鷹松優姫の様子を不審に思い、密かに尾行を開始。夜の繫華街で優姫が加藤段十郎と密会している現場を目撃する。しかし城戸瑚夢の妨害に遭い、優姫と段十郎を見失ってしまった。
※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。
夜襲! 常闇の用心棒ヘル=ギガース
夜の街を、一台のバイクが疾走していた。
漆黒のアスファルトを切り裂くように走る専用バイク――ヴァルダー・ラプター。その車体に跨がるのは、白銀のパワードスーツに身を包んだ戦士、重機装士ヴァルダーである。

ヘルメット状の頭部に輝くアイセンサー。全身を覆う強化装甲。人間の限界を遥かに超える身体能力と、亜斗夢重工の技術の粋を集めた数々の装備を駆使して戦う、正義のスーパーヒーローだ。
その正体は、皆上遼馬という一介の大学生。
幼い頃から特撮ヒーローやロボットアニメをこよなく愛してきた彼は、ひょんなことから日本有数の大企業・亜斗夢重工の社長、綾瀬秀太郎が極秘裏に立ち上げた「スーパーヒーロー事業部」に迎えられた。そして今、国際平和防衛組織ブレイバーズの一員として、さまざまな事件や脅威に立ち向かっている。
もっとも、その正体を知る者は限られている。
ヴァルダーが所属するブレイバーズは、アスカロン財団と並び立つ国際的な平和防衛組織。その活動は世界各地に及んでおり、遼馬もまた、亜斗夢重工の社長直轄という特殊な立場を生かしながら、さまざまな任務に参加していた。
そして現在、彼が向かっているのは埼玉県鷺島市のさらに北方、土砂崩れによって外部との交通が遮断された蛇ノ谷村である。
村内では、鷺島国際大学のテニスサークル「Seabreeze Aces」の学生たちが合宿中だった。ところが、道路を塞ぐ土砂崩れによって村が孤立し、学生たちの安否も懸念されているという。
救助活動のため、ヴァルダーは一刻も早く現地へ向かおうとしていた。
そのとき、ヘルメット内部の通信装置から声が響いた。
『遼馬君、聞こえるか?』
「秀太郎さん?」
聞き覚えのある声に、ヴァルダーは一瞬だけ意識を通信へと向けた。
相手は綾瀬秀太郎。亜斗夢重工の社長にして、スーパーヒーロー事業部の創設者。そして、ヴァルダーこと皆上遼馬にとって、任務を指揮する司令官であると同時に、かけがえのない同志でもあった。
なにしろ二人は、特撮ヒーローやロボットアニメについて語り始めると止まらない。
社長室で新作特撮番組の演出について熱弁を振るい合い、往年のロボットアニメの名シーンについて意見を戦わせることもしばしば。社長と大学生という立場の違いを忘れ、すっかり趣味仲間になってしまうのだ。
その一方、秀太郎の娘であり、遼馬の恋人でもある綾瀬早弥香は、そんな二人をいつも呆れ顔で眺めていた。
父親公認の交際相手であることはともかく、彼氏と父親が揃ってヒーロー談義に夢中になってしまうのは、彼女にとって少々複雑な問題なのである。
だが、今は趣味の話をしている場合ではなかった。
『今、ブレイバーズ本部から連絡が入ったのだが……どうやら今回の土砂崩れ、ただの事故ではなさそうだぞ』
「えっ? それってどういうことですか!?」
遼馬は思わず声を上げた。
ラプターのエンジン音が夜の街に響く。
『現在、蛇ノ谷村に潜入している諜報員から報告があったそうだ。村内には、数々の凶悪な犯罪を犯した二人組の指名手配犯が潜伏しているらしい』
「指名手配犯……!」
『それだけではない。村営キャンプ場で合宿していたテニスサークルの学生たちも、数人が行方不明になっているそうだ』
「何ですって!?」
遼馬の声に緊張が走った。
土砂崩れによる交通遮断。それに乗じるように潜伏する凶悪犯。そして、消息を絶った学生たち。
それぞれの情報を頭の中で組み合わせれば、嫌でも一つの可能性が浮かび上がってくる。
「偶然……ってわけじゃなさそうですね」
『ああ。現時点では断定できないが、土砂崩れそのものが何者かの仕掛けた罠である可能性も考えられる』
「もしそうなら、村の人たちや学生たちが危ない……!」
遼馬はハンドルを握る手に力を込めた。
彼にとって、ヒーローとは単に悪者を倒す存在ではない。
助けを求める人がいるなら駆けつける。目の前で誰かが苦しんでいるなら、決して見捨てない。
それこそが、彼が子供の頃から憧れ続けてきたヒーローの姿だった。
『遼馬君。これから向かう先では、どのような罠が待ち構えているか分からん。相手が指名手配犯だけとは限らないからな。十分に用心してくれたまえ』
「了解!」
力強く答えるヴァルダー。
「何が待っていようと、必ず学生たちを見つけ出します! そして、村の人たちも守ってみせます!」
『頼もしい返事だ。君ならそう言ってくれると思っていたよ』
「それじゃあ、通信を切ります!」
『ああ。健闘を祈る』
通信が終了する。
ヴァルダーはアクセルをさらに開いた。
ヴァルダー・ラプターのエンジンが唸りを上げ、車体が一気に加速する。
夜の街を抜け、蛇ノ谷村へ。
待ち受ける脅威が何であろうと、助けを求める人々がいる限り、彼は立ち止まるわけにはいかない。
――しかし。
その決意に応えるかのように、夜の闇の中から新たな脅威が姿を現そうとしていた。
* * *
鷺島市の繁華街。
ネオンの光が濡れた路面に反射し、行き交う人々の姿を色鮮やかに照らし出していた。
その大通りを、ヴァルダー・ラプターが駆け抜けていく。
その瞬間だった。
ビルの屋上付近、街灯の届かない暗がりから、一つの巨大な影が飛び出した。
常人離れした跳躍力。
まるで重力を無視したかのように高所から降下してきたその影は、ラプターの進路を正確に見定めると、空中で身体をひねった。
そして――。
ドゴォォォンッ!!
「うわあァァッッ!!」
強烈な蹴りが、ヴァルダーの車体を横合いから直撃した。
ラプターの前輪が大きく跳ね上がり、車体がバランスを崩す。
ヴァルダーはとっさにハンドルを切ったが、突然の衝撃を完全に受け流すことはできなかった。
「くっ……!」
バイクが路面を滑り、火花を散らしながら転倒する。
ヴァルダーは車体から投げ出され、地面を転がった。
ゴロゴロゴロッ!
何度か路面を転がった末、ようやく停止する。
「ぐっ……! いったい、何が……!」
すぐさま身体を起こし、周囲を警戒するヴァルダー。
幸い、パワードスーツに大きな損傷はない。だが、突然の襲撃でラプターを転倒させられたことは事実だった。
ヴァルダーは立ち上がると、少し離れた場所に横倒しになっている愛車を確認した。
「ラプター……!」
無事かどうかを確かめたいところだが、今はそれどころではない。
彼はゆっくりと振り返った。
街路の中央に、一人の巨漢が立っていた。
赤と黒を基調とした、屈強な全身タイツ状の戦闘服。その上からでも分かる、鍛え上げられた肉体。頭部には悪魔を思わせる角の生えた覆面を装着し、素顔を完全に隠している。
ただ立っているだけなのに、周囲の空気が重く感じられるほどの威圧感だった。
巨漢は、ヴァルダーを見下ろすようにして低く笑った。
「フフフ……。さすがに、この程度では仕留められんか」
ヴァルダーは身構えた。
先ほどの蹴り。
あれほどの高さから飛び降り、バイクを直撃してなお、相手には疲労の色すらない。
尋常な相手ではない。
「貴様、何者だ!?」
ヴァルダーが鋭く問いただす。
巨漢はゆっくりと両腕を広げ、誇らしげに名乗った。
「俺の名は、ヘル=ギガース!」
その声が、夜の繁華街に響き渡る。
「常闇のレギーナ=ノクタ様にお仕えする用心棒よ!」
「レギーナ=ノクタだと!?」
その名を耳にした瞬間、ヴァルダーの脳裏に、数日前の戦いの記憶が鮮明によみがえった。
漆黒の闇。
冷たい眼差し。
そして、常闇の名を冠する謎めいた女の姿――。
「まさか、貴様……!」
ヴァルダーは拳を握りしめた。
忘れるはずもない。
数日前、彼が激闘を繰り広げた、あの強敵の名を。
* * *
回想――光と闇の魔法少女
――数日前、深夜。
ビルの屋上を、夜風が吹き抜けていた。
周囲には無数のビルが立ち並び、遠くには街の明かりが宝石のように輝いている。その屋上の一角で、白銀のパワードスーツを身にまとった戦士、重機装士ヴァルダーは、片膝をついていた。
装甲のあちこちには傷が刻まれ、呼吸を整える間もなく、彼は目の前の敵を見上げている。
その相手は、黒と紫を基調とした衣装に身を包んだ少女だった。
長い黒髪をなびかせ、頭には小さなリボン。フリルをあしらったスカートに身を包んだ姿だけを見れば、どこかの魔法少女アニメから飛び出してきたようにも見える。
だが、その手に握られた禍々しい魔法の杖と、全身から放たれる不吉な魔力は、彼女が決して普通の少女ではないことを物語っていた。
常闇のレギーナ=ノクタ。
闇の魔法を操る、謎の悪の魔法少女である。
「どうしたブリキ野郎、てめえの力は所詮その程度か!?」
「くっ……!」
ノクタは杖を肩に担ぎ、倒れかけたヴァルダーを見下ろして嘲笑った。
「ったく、期待外れもいいところだぜ。こんなポンコツ相手に、アタシがわざわざ出向いてやったってのによ!」
「何を……!」
ヴァルダーは歯を食いしばり、どうにか立ち上がろうとする。
だが、ノクタは容赦しなかった。
「ルミナちゃんの貴重な活躍の機会を奪いやがって。てめえのようなガラクタは、ここでスクラップにしてやるぜ!」
「何を訳の分からないことを言っている!?」
ヴァルダーにしてみれば、まったく意味不明な言いがかりだった。
そもそも、自分はノクタの言う「ルミナちゃん」とやらに何をしたというのか。
自分は自分の任務を遂行していただけだ。それなのに、なぜ正体不明の黒い魔法少女から一方的に敵視され、挙げ句の果てにはスクラップにされなければならないのか。
しかし、ノクタは説明する気などさらさらないらしい。
「黙んな! とどめだ!」
ノクタが杖を振り上げた。
その先端に、どす黒い紫色の魔力が渦巻く。闇の粒子が集まり、巨大な魔法弾を形成していく。
「消し飛びやがれぇっ!!」
紫黒の魔力が、ヴァルダーめがけて放たれた。
逃げ場はない。
ヴァルダーが身構えた、その瞬間――。
「させないわっ!」
凛とした少女の声が響いた。
次の瞬間、ヴァルダーの目の前に、桃色の光が弾けた。

キィィィンッ!!
巨大な魔法陣が展開される。
幾重にも重なった幾何学模様が桃色の光を放ち、その中心に浮かぶハート形の宝石がきらめいた。
直後、ノクタの放った闇の魔法弾が、魔法陣に激突した。
ドゴォォォンッ!!
激しい衝撃音とともに、紫色の魔力が周囲に飛び散る。黒い稲妻のようなエネルギーが魔法陣の表面を走ったが、桃色の障壁はびくともしなかった。
魔法陣の向こう側に立っていたのは、桃色の衣装をまとった一人の魔法少女。
のツインテールを風になびかせ、白いフリルと大きなリボンをあしらった衣装に身を包み、手にはハート形の装飾が施された魔法の杖を握っている。
正義の魔法少女――星彩のルミナだった。
「星彩の…ルミナ……!」
ヴァルダーも噂でその存在は聞いていたが、初めて直に見る光の魔法少女の姿に驚きと安堵の入り混じった声を漏らした。
「もしかして、ノクタの言っていた”ルミナちゃん”って……!?」
一方、攻撃を防がれたノクタはというと――。
(ああっ! ルミナちゃん♡)
それまでの凶悪な表情が、嘘のようにぱあっと明るくなった。
頬を紅潮させ、目を輝かせる。その顔には、つい先ほどまでヴァルダーをいたぶっていた悪の魔法少女とは思えないほど、純粋な喜びが浮かんでいた。
(来てくれたんだね、ルミナちゃん! やっぱりアタシに会いたかったんだろ? そうなんだろ!?)
……もっとも、ルミナ本人は、そんなことを少しも望んでいなかったのだが。
ノクタの本性は、正義の魔法少女・星彩のルミナを異常なまでに愛好する、いわゆる「拗らせファン」である。
彼女にとって、ルミナは単なる宿敵ではない。何よりも尊く、誰よりも輝かしい、憧れの存在なのだ。
ルミナが戦う姿を見たい。自分だけを見てほしい。できることなら、いつまでも自分と戦い続けてほしい。そして最終的に自分はルミナに激闘の末に倒される…。
そんな歪んだ願望が、ノクタを突き動かしていた。
しかし、その異常なまでの愛情を、ヴァルダーもルミナも知らない。
少なくとも、今の二人には、ノクタは世界征服でも企む悪の魔法少女にしか見えていなかった。
そして、喜びに頬を緩ませていたノクタは、ハッと我に返る。
「……ゴホンッ!」
わざとらしく咳払いをすると、再び険しい表情を作り、杖を構え直した。
「よ、よく来たな! お前もこのアタシを倒しに来たってわけか!」
声が少しだけ上ずっている。
ルミナはそんなノクタをまっすぐに見据えた。
「ヴァルダー、ここは私に任せて、ひとまず撤退を!」
「すまない……! 恩に着るぜ……!」
ヴァルダーは悔しそうに拳を握りしめた。
本当なら、自分の力で決着をつけたかった。だが、ここで負傷している自分が無理をすれば、かえってルミナの足を引っ張る可能性がある。
彼は短くうなずくと、戦線を離脱した。
その背中を一瞬だけ見送ったルミナは、改めてノクタへと向き直る。
桃色の魔法陣が消え、代わりに彼女の杖が淡い光を放ち始めた。
ノクタもまた、杖を握り直す。
今度こそ、彼女の顔からふざけた笑みが消えていた。
……いや、よく見ると口元がわずかに緩んでいるのだが、本人は必死に隠しているつもりらしい。
「あなたが……最近、街で騒ぎを起こしている魔法使いね!」
「そういうお前が、噂の星彩のルミナか」
「人々を苦しめるあなたを、これ以上好きにはさせない!」
「へえ……言うじゃん」
ノクタの口元が、愉快そうに歪む。
「だったら、その正義とやらがどこまで通用するか、試してみようか!
見せてやる! 常闇のレギーナの真の力を!」
光と闇。
桃色の魔法を操る正義の魔法少女と、紫黒の魔力を操る悪の魔法少女。
二人は互いの杖を構え、夜空の下で激突した。
――こうして、ヴァルダーとノクタの戦いは、星彩のルミナの介入によって決着を先送りにされたのである。
* * *
現在――ヘル=ギガースの襲撃
「するとお前は、あのレギーナ=ノクタの手下か!」
回想から意識を引き戻したヴァルダーは、目の前に立つ巨漢を鋭くにらみつけた。
「ということは、やはり蛇ノ谷村の土砂崩れもお前らの仕業だな!?」
対するヘル=ギガースは、腕を組んだまま、低く笑った。
「さあな。俺はここで貴様を足止めするように、お嬢から命令を受けているだけだ。他のことは何も知らん」
「何も知らない、だと……?」
「そういうことだ。余計な詮索はやめて、俺の相手をしてもらおうか」
ギガースは、両腕をゆっくりと広げた。
赤と黒の戦闘服に覆われた巨体が、街灯の光を受けて不気味な影を落とす。
ヴァルダーは奥歯をかみしめた。
蛇ノ谷村では、学生たちが行方不明になっている。指名手配犯が潜伏しているとの情報もあり、土砂崩れが人為的に引き起こされた可能性さえある。
その状況で、自分がこんな場所で足止めされているわけにはいかなかった。
「何としてでも、ここは通させてもらうぜ!」
「フフフッ……出来るかな?」
ギガースが不敵に笑う。
次の瞬間、ヴァルダーは地面を蹴った。
「うおおおおっ!」
白銀の装甲が夜の街を駆け抜ける。

ヴァルダーは一気に間合いを詰め、右拳をギガースの胴体めがけて叩き込んだ。
ドゴッ!
しかし、ギガースは微動だにしなかった。
「なにっ!?」
「軽いな」
ギガースはヴァルダーの拳を受け止めたまま、余裕たっぷりに言い放つ。
「そんな攻撃で、この俺を倒せると思っているのか?」
「くっ……!」
ヴァルダーは拳を引き、素早く後方へ跳び退いた。
直後、ギガースの巨腕が唸りを上げて振り下ろされる。
ドゴォンッ!
ヴァルダーが立っていた路面に亀裂が走った。
間一髪で攻撃をかわしたヴァルダーは、体勢を立て直すと、再びギガースへと突進した。
拳と蹴りが交錯する。
白銀の戦士と赤黒の巨漢。
夜の市街地を舞台に、激しい肉弾戦の火蓋が切って落とされた。
* * *
高層階のバー――二人の密談
その頃。
高層ビルの上層階に位置する高級バーでは、落ち着いたジャズの音色が店内に流れていた。
大きな窓の向こうには、鷺島市の夜景が広がっている。
間接照明に照らされたカウンターには、磨き上げられたグラスが並び、バーテンダー兼ソムリエが慣れた手つきでカクテルを作っていた。
そのカウンター席に、二人の男女が並んで座っている。
一人は、黒いスーツ姿の男――加藤段十郎。
もう一人は、落ち着いた装いの女性――鷹松優姫である。
二人の前にはワイングラスが置かれ、琥珀色の照明がその表面に美しい光を映していた。

優姫はグラスを軽く傾け、段十郎の横顔をうかがう。
「ところで、段十郎さん」
「何だ?」
「最近、巷を騒がせているあの魔法少女のことなんだけど……」
何気ない世間話のような口調だった。
しかし、その目は決して笑っていない。
優姫が話題にしたのは、近頃世間で活躍している正義の魔法少女、星彩のルミナ。
鮮やかな魔法と華麗な戦闘スタイルで悪党を撃退し、若者を中心に人気を集めている謎のヒロインだ。
だが、彼女には一つ、気になる噂があった。
――星彩のルミナは、アスカロン財団と何らかの関係があるのではないか。
その正体や活動の実態について、財団が情報を握っているというのである。
もちろん、確たる証拠はない。
だが、優姫は警察官だ。情報の裏に隠された真実を探ることこそ、彼女の仕事だった。
「彼女の正体について、何かご存じないかしら?」
優姫はさりげなく問いかける。
段十郎はグラスを手に取り、ウイスキーを一口含んだ。
それから、何でもないことのように答えた。
「トップシークレットだ」
「……やっぱり、何か知っているのね?」
「さてな」
段十郎は意味ありげに笑った。
優姫は目を細める。
「教えてくれてもいいじゃない」
「知りたかったら、うちの身内になるか?」
「……なによ、その口説き文句?」
優姫は呆れたように笑った。
しかし、段十郎は冗談を言っているだけとも思えなかった。
彼は以前から、優姫の捜査能力や判断力に一目置いている。警察官としての経験に加え、状況を冷静に見極める洞察力、そして必要とあらば危険を恐れず行動する度胸。
そうした能力は、秘密裏に活動するアスカロン財団のエージェントにとっても、十分に魅力的なものだろう。
つまり、段十郎は優姫を財団にスカウトしようとしているのかもしれない。
それが彼個人の判断なのか、それとも財団上層部の意向なのか。
今のところ、優姫には判断がつかなかった。
「本気で言っているの?」
「さあ、どうだろうな。少なくとも、アンタのような人材を放っておくのは惜しいと思っている」
「ふふっ。ずいぶんと買ってくれるのね」
「実力のある人間は、どこにいたって目立つもんさ」
段十郎はグラスを置き、優姫の目を見た。
「それに、アンタはただの警察官じゃない。普通の捜査官なら見落とすような違和感にも気づく。そういう人間は、そうそういない」
「……褒めても何も出ないわよ?」
「なら、返事だけでも聞かせてもらおうか」
「気が早いわね。私は今の仕事に誇りを持っているの」
「分かっているさ。だから、今すぐ返事をしろとは言わない」
段十郎は、どこか楽しそうに笑った。
「ただ、選択肢の一つとして考えておいてくれればいい」
優姫はすぐには答えなかった。
グラスの中で揺れるワインを見つめながら、何かを考えているようだった。
その様子を、少し離れたテーブル席から窺っている二人の人物がいた。
* * *
監視任務――神向寺冴佳の胸中
「……あのぉ、冴佳さん」
テーブル席の片側で、音羽真吾が小声で話しかけた。
「もう帰りませんか……?」
彼の視線の先には、カウンター席で談笑する段十郎と優姫の姿がある。

真吾はアスカロン財団の諜報部に所属する若手エージェントだ。今日の彼の任務は、財団の日本支部長秘書である神向寺冴佳に同行することだった。
ただし、今のところ任務らしい任務は何もしていない。
飲み物を注文し、少し離れた席から二人の会話を眺めているだけだ。
冴佳は真吾の言葉に、すぐさま反応した。
「音羽さん。諜報員としては、あれは観察対象でしょ?」
「は、はい……」
「もしかしたら、財団に引き抜けるかもしれない人物なんですから」
「……って言うか」
真吾は困ったように眉を下げた。
「あの人、冴佳さんの高校の同級生ですよね……? 観察するまでもなく、知った仲では……」
「…………」
冴佳の笑顔が、ぴたりと止まった。
「音羽さん?」
「は、はいっ!?」
「あなた、今、何か余計なことを言いませんでした?」
「い、いえ! 何も!」
真吾は背筋を伸ばした。
神向寺冴佳。
アスカロン財団日本支部長・日置善和の秘書を務める才色兼備の女性であり、財団内部のさまざまな情報や人脈に通じた人物でもある。
そして、彼女と優姫は高校時代からの友人だった。
今でも仕事帰りに待ち合わせて、一緒に飲みに行くことがあるほどの仲である。
だが、冴佳にはもう一つ、誰にも簡単には打ち明けられない事情があった。
彼女は、加藤段十郎に密かな好意を抱いているのだ。
その段十郎が、よりによって高校時代からの友人である優姫と、あんなに親しげに話している。
冴佳にとっては、見ているだけで気が気でない光景だった。
――ちょっと、優姫。
――近すぎやしない?
――それに、随分と親しく話しているじゃないの……!
心の中で、どす黒い嫉妬が渦巻く。
だが、そんな感情を表に出すわけにはいかない。
何しろ、自分は財団の人間であり、今夜はあくまで諜報活動の一環としてここにいるのだから。
そう。これは監視任務。
段十郎と優姫の接触を観察し、必要に応じて情報を収集するための、れっきとした業務なのだ。
決して、好きな男性と友人が親しくしているのが気になって仕方ないからではない。
断じて、そうではない。
「……冴佳さん?」
「静かにしてください、音羽さん。観察の邪魔です」
「は、はい……」
真吾は、これ以上何を言っても無駄だと悟った。
若手諜報員として、先輩の指示に従うのは当然である。
しかし、心の中では、どうしてもこう思わずにはいられなかった。
――これ、ほんとに任務なんだろうか……。
冴佳は再びカウンター席へ視線を戻した。
優姫が笑っている。
段十郎も笑っている。
二人の距離は、やはり近い。
冴佳の眉間に、ぴくりとしわが寄った。
――優姫……覚えてなさいよ……!💢
* * *
地上の監視者たち――瑚夢とリネア
一方、ビルの外。
夜の街を行き交う人々の中に、二人の女性の姿があった。
一人は、ゆるいボブカットの黒髪に、身体よりもかなり大きなオーバーサイズのパーカーを着た小柄な少女。
城戸瑚夢。
アスカロン財団の諜報部に所属するくノ一であり、先ほど侑衣梨の尾行を妨害した人物でもある。
そしてもう一人は、瑚夢の隣に立つ、美しい長い銀髪の女性だった。
透き通るような銀髪に、整った顔立ち。夜の街灯に照らされたその姿は、思わず道行く人が振り返ってしまうほどの美しさを備えている。
彼女の名は、リネア=フリーデン=ヴァイサー。
加藤段十郎とコンビを組む、ライトシーカーのエージェントである。
瑚夢はスマートフォンを操作し、画面をリネアへ向けていた。
そこには、バーのカウンター席に並んで座る段十郎と優姫の姿がリアルタイムで映し出されている。
どうやら、店内の様子を何らかの手段で確認しているらしい。

「だからこれは……仕事ですよ~、リネアさ~ん……」
瑚夢は、困ったような笑みを浮かべながら説明した。
しかし、リネアの視線はスマートフォンの画面に釘付けだった。
「へぇ~。その割に、やけに楽しそうですねぇ~?」
「い、いや、ほら! 加藤さんも、ああやって~、ご機嫌をとりながら情報収集を……💦」
「ふ~ん……」
リネアの声が、わずかに低くなる。
瑚夢は慌てて言葉を続けた。
「そ、それに、優姫さんは警察の人ですから! 財団にとっても重要な接触相手というか、協力関係を築けるかもしれないというか……!」
「ふ~ん……💢」
「…………」
瑚夢は口をつぐんだ。
どうやら、何を説明しても逆効果らしい。
リネアは画面を見つめたまま、じっと黙り込んでいる。
その表情は一見すると冷静だったが、銀髪の隙間からのぞく耳が、ほんの少し赤くなっていた。
段十郎と優姫が、楽しそうに談笑している。
それだけの光景が、なぜかひどく気に障る。
リネア自身、その感情をどう表現すればいいのか、よく分かっていなかった。
ただ、相棒が自分以外の女性と親しげにしているのを見るのは、あまり愉快ではない。
それだけは、確かだった。
「……加藤さん、あんな顔もするんですねぇ」
「えっ?」
「いえ、何でもありません」
リネアはそっぽを向いた。
瑚夢は、そっとスマートフォンを自分の胸元へ引き寄せる。
――ああ、これは面倒なことになりそうだなぁ……。
財団のエージェントたちの間で、今夜ひそかに巻き起こっているのは、任務上の情報戦だけではなかった。
優姫と段十郎の接触をめぐって、複雑な感情が静かに火花を散らし始めていたのである。
* * *
繁華街の路上――侑衣梨、困惑する
「もうっ、先輩ったら、いったいどこ行っちゃったのよォ~!」
その頃、繁華街の別の通りでは、笹南侑衣梨が息を切らしながら走り回っていた。
優姫と段十郎を見失ってから、すでにしばらく時間が経過している。
大通りを確認し、路地をのぞき込み、近くのビルの入口まで調べてみたが、二人の姿は一向に見つからない。
「せっかく、あんなに頑張って尾行してたのにぃ……!」
そもそも、なぜ自分は先輩を尾行することになったのだったか。
最初は、優姫が連日、退勤後に誰かと会っていることを不審に思っただけだった。
それが、相手が加藤段十郎だと分かった途端、どういうわけか心配になり、気づけば必死になって後を追っていたのである。
「……いや、別に先輩が誰と会おうと、私には関係ないんだけどさぁ……」
そうつぶやきながらも、足は止まらない。
「でも、あの加藤段十郎よ!? 何考えてるか分からないし、アスカロン財団の人だし! 先輩が変なことに巻き込まれたりしたら……!」
自分に言い聞かせるように声を上げた、そのときだった。

ヒュッ――!
「えっ?」
視界の端を、白い何かが横切った。
次の瞬間。
ドゴォォンッ!!
「きゃあああっ!?」
目の前の路面に、巨大な物体が叩きつけられた。
激しい衝撃音。
路面に散る小さな破片。
侑衣梨のすぐ眼前を、白い人型の何かが吹っ飛んでいったのだ。
ほんのわずかでも位置がずれていたら、まともに直撃していたかもしれない。
侑衣梨はその場に立ち尽くした。
「……えっ!?」
目を見開き、地面に倒れている物体を凝視する。
白い装甲。
人間のような手足。
そして、頭部に輝くアイセンサー。
「な、なに!? 何なの!? 今の!?」
彼女の頭は完全に混乱していた。
まさか、ロボット?
いや、人型のパワードスーツ?
そもそも、どうしてそんなものが夜の繁華街で吹っ飛ばされてくるのだ。
しかも、その白い人型の正体は――もしかして噂の重機装士ヴァルダー?。
「……う、ううっ……!」
ヴァルダーは路面に片手をつき、どうにか上半身を起こそうとしていた。
全身に衝撃が走る。
装甲のおかげで致命傷こそ免れているものの、ギガースの攻撃は想像以上に重かった。
「くそっ……なんてパワーだ……!」
ヴァルダーは歯を食いしばり、立ち上がろうとする。
しかし、その前に、重々しい足音が近づいてきた。
ドスッ……ドスッ……。
赤と黒の巨体が、ゆっくりと歩いてくる。
ヘル=ギガースだった。
彼はヴァルダーを見下ろした後、ふと、そのすぐそばに立ち尽くす侑衣梨へと視線を向けた。

「…………」
「ひっ……!」
侑衣梨は思わず後ずさった。
目の前にいるのは、悪魔のような角を生やした覆面の巨漢。
どう見ても、まともな人間には思えない。
「な、何よ……!?」
声が震える。
ギガースは無言のまま、彼女へと近づいてきた。
ヴァルダーが、倒れた姿勢のまま叫ぶ。
「やめろ! その人に触れるな!」
侑衣梨危うし!
だが、ギガースは足を止めると、意外にも落ち着いた声で言った。
「お嬢さん、危ないから下がっていなさい」
「…………へっ?」
侑衣梨は、ぽかんと口を開けた。
ヴァルダーもまた、動きを止めた。
「……は?」
今、何と言った?
お嬢さん?
危ないから下がっていなさい?
目の前の男は、先ほどまでヴァルダーを容赦なく殴り飛ばしていた悪のヴィランではなかったか。
その巨漢が、一般市民の安全を気遣っている。
侑衣梨は、目の前の状況を理解できずにいた。
ギガースは彼女をかばうように、ヴァルダーとの間に立ったまま続けた。
「ここは危険だ。戦いに巻き込まれたくなければ、早く離れなさい」
「えっ、あ、はい……?」
思わず返事をしてしまう侑衣梨。
いや、待て。
何かがおかしい。
ものすごくおかしい。
悪の怪人が、なぜ自分のような通行人を気遣っているのだ。
そして、なぜヴァルダーが、この男に吹っ飛ばされているのだ。
そもそも、この巨漢はいったい何者なのか。
侑衣梨の頭の中で、疑問符が次々と増殖していった。
そんな彼女をよそに、ギガースは再びヴァルダーへと向き直った。
「さて、ヴァルダー。戦いの続きと行くか」
巨漢が拳を握る。
ヴァルダーはよろめきながらも立ち上がり、拳を構えた。
「……上等だ! 調子に乗んなコラァッ!!」
次の瞬間、ヴァルダーは地面を蹴った。
ギガースが迎え撃とうと腕を振り上げる。
しかし、ヴァルダーは正面から突っ込むと見せかけ、素早く身を沈めて相手の懐へ潜り込んだ。
「そこだっ!」
鋭い蹴りが、ギガースの首の後ろ――延髄付近を捉えた。
ドガッ!!
「ぐぁっ!!」
さすがのギガースも、思わずうめき声を漏らす。
「延髄蹴りとは……!」
巨体がわずかに揺らぐ。
ヴァルダーはその隙を逃さず、間合いを取った。

侑衣梨は、二人の姿を交互に見ながら、ついに我慢の限界を迎えた。
「ちょっともう……!」
彼女は頭を抱え、夜の街に響き渡るほどの声で叫んだ。
「街中で何やってんのよ、アンタたち!?」
その叫び声も、激しい戦闘音にかき消されそうになる。
目の前では、白銀のパワードスーツの戦士ヴァルダーと、赤黒い悪魔のような巨漢が再び拳を交えている。
ほんの少し前まで、彼女の最大の関心事は、優姫が加藤段十郎とどこで何をしているのかということだった。
それが今では、正義の戦士と謎の巨漢による、現実離れした戦闘に巻き込まれかけている。
先輩の密会を追いかけていただけなのに。
どうしてこんなことになったのか。
「……もう、意味分かんないんだけどぉぉぉっ!!」
笹南侑衣梨の悲鳴が、夜の繁華街にこだました。
そして、その頭上では、ネオンの光が何事もなかったかのように輝き続けていた。

「おい、ヴァルダーじゃん、何か凄いのと戦ってんぜ!!」
「まじかよ、なんかガチでプロレスやってんよ!!」
野次馬の観衆も集まり始める中、黙って見ていられずお節介焼きを発揮してしまったのか、戦う両者を必死に止めようとする侑衣梨。
「あーもう、何か野次馬も集まってきた、本当にやめなさいよ!!💢💦」
段十郎と優姫のイチャイチャ動画を見せられたばかりで苛々していたリネアも、瑚夢と一緒に騒ぎに気付いて来てみれば…
「何なんですか、あれは…?」
「さあ……」
(つづく)
コメント
蛇ノ谷村の異変の知らせを受けて急行するヴァルダーの前にレギーナ・ノクタの配下ヘル・ギガースが‼ギガースの名乗りにレギーナ・ノクタとの対戦の過去を思い出すヴァルダー…。ノクタにとっては完全に星彩のルミナの前に現れたいらぬ前座扱いだったようで…。そしてこの後のルミナ縛りにつながっていくのがなんとも…。
初登場だからというわけではないようですが、何かギガース悪目立ちしているような…。まあヴァルダーが蛇ノ谷村に来れないように牽制するのが今回の使命なわけですからノクタの期待以上にその役目を果たしたと言えますね。
侑衣梨ちゃんのヘッポコな尾行をまいて加藤段十郎に接触した優姫さん、狙いは星彩のルミナの正体だったようで知りたければアスカロン財団の一員になれと…。この駆け引きの行方は…。
そして、この風景にジェラシーを募らせる冴佳さんとリネアちゃん、こちらもまた怖いことになりそうで…。
> まあヴァルダーが蛇ノ谷村に来れないように牽制するのが今回の使命なわけですからノクタの期待以上にその役目を果たしたと言えますね。
後になってノクタから「おいギガース! 蛇ノ谷村にヴァルダーが現れたぞ! どうなってやがる!!💢」と詰め寄られ、きちんと与えられた任務を果たしていたのに「えっ! そんなはずは…💦」と困惑することになるであろうギガース涙目ですね。
ルミナ以外はアウトオブ眼中のノクタにとって、いちいちヴァルダーとブラックヴァルダーの色の違いなんて気にしない(ヴァルダーとブラックヴァルダーが別人だと分からない)でしょうから。
> 狙いは星彩のルミナの正体だったようで知りたければアスカロン財団の一員になれと…。この駆け引きの行方は…。
優姫先輩がアスカロン財団に引き抜かれそうだと知った侑衣梨ちゃんが「先輩が警察を辞めるかもしれない!」と動揺して、果たしてこの後どんな行動に出るか…?
『連続誘拐 閉ざされた村の夏』編が完結した後も、まだこの件は尾を引いて一悶着は続きそうです。
> そして、この風景にジェラシーを募らせる冴佳さんとリネアちゃん、こちらもまた怖いことになりそうで…。
ところで冴佳さん、あなたの担当している星彩のルミナが今、蛇ノ谷村で事件に巻き込まれているんですけど、そちらの方はいいんですかね…?💦