作:旅鴉様
侑衣梨、突然拉致される。
婦人警官・笹南侑衣梨に再び魔の手が伸びる、
非番の日、プライベートで出かけていた帰り道、突然横を通りすぎたワンボックスカーが彼女の進路を塞ぐように止まる。
「ちょっとなに…うぐぅっ⁉」
侑衣梨が声を上げるよりも先に、後ろから何者かに羽交い絞めにされ、口を塞がれる。
(そんな…いつの間に、全く気配すら感じなかった…)
その何者かは足音1つ立てずに侑衣梨の背後に立っていた、いったい何時から後をつけられていたのか、警察官である彼女に全く気取られることもなく。
そしてワンボックスカーの後部座席からも、2人の男が飛び出してくる。
ろくな抵抗も出来ないまま、後部座席に放り込まれる侑衣梨、侑衣梨を乗せたまま車はそのまま走り出した。
「ちょっとあなた達いったい…んんっ‼ んんむぅーーっ‼」
口を覆っていた手が離れた瞬間に口を開こうとする侑衣梨の口に素早く布切れが詰められる、そしてその上をガムテープが塞ぐ。
更にシートにうつ伏せにされた侑衣梨の手と足を、別の男達が手慣れた手つきで縛り付けていく、この手際の良さから、この道のプロだということが伺える。
完全に身動きが出来なくなった侑衣梨に対し、リーダー格の男が声を掛ける。
「笹南侑衣梨さんだよな、とあるお方がアンタに会いたがってる、悪いが一緒に来てもらうぜ」
「んむむぅ!んむぅうう‼」
ろくに抗うことも出来ずに誘拐された侑衣梨、塞がれた口から洩れる呻き声は走る車の外へは届くことはない。
後部座席に転がされた、芋虫のように身を捩る侑衣梨、ギシギシと軋む音を立てながら縄が身体を締め付ける、どうすることも出来ないまま時間だけが過ぎていく。
その間外の景色はどんどんと変わっていく、気が付くとそこは深い森の中だった。
森の中で
「ほら着いたぜ、迎えが来るまでここで大人しくして貰うぜ」
車は森の奥にある廃墟へと辿り着いた、元は何かの宿泊施設だったのか随分と大きな建物だった。
「んんっ‼んんーむぅっ‼」
無駄な抵抗と解っていながらも、男達の手から逃れようともがく侑衣梨だったが、男は容赦なく侑衣梨を後部座席から引っ張り出すと、その身体を肩に担ぎ建物の中へと運んで行く。
建物の中の一室に連れて来られた侑衣梨は、その部屋のソファーに座らされる。
「あとで迎えにくる、それまで良い子にして待っているんだな、おいしっかりと見張ってろよ、いつもの癖でスケベ心出して手を出したりしたら、冗談抜きで死ぬぞ…いいな!」
「りょ…了解っす…」
リーダー格の男は部下の男にそう言って釘を刺し別の部下を連れて部屋を後にする、それに直立不動になりながら30度位の角度で頭を下げる男。
(どうしよ…見張りもいるなんて…どうやってここから逃げ出せば…)
そう思い見張り男の方へ目を向ける侑衣梨、だが見張りの男は縛られ動けない侑衣梨に安心しきっている様子で、早速スマホを取り出し弄り始めた。
「なんだよここ!電波微妙じゃん、くっそー!さっきから既読スルーしっぱなしだし、そろそろコメ返さねーとキレるだろうな…おい、ちょっと離れるが大人しくしてろよ!」
そう言い残し、見張りの男は部屋から出て行く。
(これってチャンスなのよね…あの感じだと直ぐに帰ってくるだろうからその間にせめて何か行動しないと…)
そう思い辺りを見回す侑衣梨、すると足元に光る物が見えた、それはガラスの破片のようだった。
(これ使えるかも…)
侑衣梨は縛られ不自由な足を懸命に動かし、足先でガラス片を掴むとそれを慎重に持ち上げ、それをソファーのマットに乗せた。
「おい、しっかりと見張ってるか!」
その時、リーダー格と一緒に部屋に出た筈の男が戻ってくる、慌ててガラス片を身体の後ろに隠す侑衣梨。
「…っておい!あの野郎どこ行った!?」
男は侑衣梨の方に向き、怒鳴るように聞いてきた、ぶんぶんと首を振り「知らない」と仕草で答える侑衣梨。
ちょうどそこへ見張りの男が戻ってくる。
「てめぇーこの野郎!早速持ち場離れやがって!」
「あ、悪い悪い、スマホのアンテナがやばくて、いやぁ~合コンで仲良くなった子からさっきからメッセがバンバンきてて…」
「またてめーは素人女に手を出してんのか、お前悪の組織に属してる自覚あんのか!」
「いやお前こそ悪の組織って堂々と言うなよ…心配しなくても職業は調査会社の人間ってことにしてるよ」
「いや怪しすぎるわ、もっとマシな職業使え!そもそも一般人と合コンすんな!てめぇ組織や…隊長に迷惑かけたら殺すぞマジで…」
「解ってるって…隊長に迷惑かけるぐらいならてめぇで始末つけるっての、俺もそんなに馬鹿じゃねーっての」
(いや馬鹿よ…仮にも警察官誘拐しといてその目の前で何の話をしてるのよ…)
手を動かせたら思わず頭を抱えていただろう、どこかこの人間たちには緊張感ってゆうものが感じられない、それだけ仕事に慣れているのか、それとも自分が舐められているのか、そんな事を考えながら侑衣梨は背後の手を懸命に動かし、ガラス片を使い縄切っていた。
「俺は隊長の手伝いに戻るから、今度こそしっかり見張ってろよ、くれぐれも女に手を出すなよ、いいな!」
「解かってる!あと俺に命令すんな!俺に命令していいのは隊長だけだ!」
そう言いながら部屋を出て行く男に中指を立てる見張りの男。
「でもまあ、そんな状態で逃げれるわけねーよな、もう暫くするともっと良い所に行けるから、それまで仲良く待ってようぜ」
そう言って、見張りの男が侑衣梨の傍まで近づいてくる。
「婦警さんも非番の時はこんな格好するんだな~、へぇ~綺麗な脚してんね」
そう言いながら男は、ショートパンツから伸びる侑衣梨の太ももにそっと手を置く。
「んっ⁉んーぅっ‼んんんー‼」
その手から逃れようともがく侑衣梨、男は構わずその太ももを撫でまわす。
「手を出すなって言われても要するにまああれをすんなって事だし、これぐらい良いよな~、アンタも退屈だろ?」
その時、突如男の頭が両端から何者かの手に掴まれる、その手はなんと男の前方から伸びていた。
ゴッ‼
男の鼻っ柱に侑衣梨の頭突きが炸裂する。
「ぐぁっ⁉て…てめぇ何で縄が…」
その一撃に驚き、直ぐさま飛びのこうとする男、だがその隙を逃さず侑衣梨は縛られたままの両足で追撃の蹴りを放つ。
グボッ‼
「…ッ‼」
その蹴りは運悪く、男の股間に炸裂する、悶絶してその場に倒れ込む男、侑衣梨は急いで足縄も解く。
「よくもやってくれたわね、この変態!」
そしてトドメの一撃を男の見舞う侑衣梨、そして完全に動かなくなったのを確認して男の持ち物を確認する。
「確かにスマートフォンの電波は微秒…早くここから出て移動しないと、それと…」
男のジャケットの下にはガンホルダーがあった、その中に収められている拳銃も取り出す侑衣梨。
「グロック17か…上等な銃ね…どんな組織なのかしら?」
そう呟きながら、侑衣梨はショートパンツに銃を差し込むように収めると、そっと部屋の扉を開き外の様子を伺う。
(今なら大丈夫そう…早く逃げないと、今度捕まったらもう逃げられない)
建物の廊下を歩いていると奥の方から声が聞こえてくる。
『間もなく現地に到着します、品物の準備をお願いします』
地声ではなさそうだ、無線か何かで話しているような声だ、どこからかの通信だろうか。
(品物って…私だよね…マズい、早くここから出ないと)
急ぎ外へと出た侑衣梨、建物の外は見渡す限りの深い森だった。
(とりあえず今の状況を誰かに知らせないと…直ぐに思いつく番号は…やっぱり優姫先輩かな…)
森を彷徨いながら奪ったスマホのモニターを覗く侑衣梨、暫く歩きようやく電波が安定する所まで辿り着いた。
鷹松優姫のスマホに、見たことない番号から電話がかかってくる、恐る恐る通話ボタンを押す優姫。
「もしもし…」
『あ、優姫先輩、良かったとってくれた…』
声の主は後輩の婦人警官、笹南侑衣梨だった。
「ちょっとアンタどうしたの⁉今日非番よね、それにこれ誰の電話⁉」
『ごめんなさい、詳しい詳細は端折ります!端的に言うと誘拐されました!』
「はぁ⁉」
侑衣梨の唐突な宣言に、思わず間抜けな声を上げる優姫、だが優姫は侑衣梨がこんな馬鹿な冗談を言う人間ではないことは知っている。
「そこはどこ!?無事なの!?」
『どこかと言われると…森に囲まれた廃墟となった建物としか…とりあえずは無事です…ただ自分が逃げ出した事はもう気づかれているでしょうから…』
「とにかく無事で良かった、その電話は切らないで、発信元を見つけ出して直ぐに助けに行くから、それまで何とか身を隠して!」
『解りました…何とか頑張って…あぅっ‼』
突然、侑衣梨の声が悲鳴に変わる。
「どうした!?侑衣梨…ねえ!返事して‼」
侑衣梨のスマホを持つ手は、後ろから忍び寄っていた男によって捻り上げられていた、握っているのはリーダー格の男だった。
「まだこんな所でのんびりお電話してたのか、森の奥に入られてたらどうしようかと思ってたが」
腕を捻られた痛みに、スマホを地面に落としてしまう侑衣梨、スマホからは優姫の侑衣梨を呼ぶ絶叫に近い声が聞こえてくる。
「思った以上にじゃじゃ馬だったようだな、さあ遊びは終わりだぜ出発の時間だ」
男は侑衣梨の腕を後手に捩じり上げようとする、だが侑衣梨は自ら身体を捻り、柔道の受け身をするような形で男の腕を払う。
「ほぉ~一応婦人警官だったな、少しは出来るようだな」
「あまり舐めないで!」
すぐさま反撃に転じる侑衣梨だったが、森の落ち葉に足をとられ本来の動きが出来ない、それに対して男の動きは素早かった、こうゆう状況での戦いに慣れているようだ。
「普段は市街でしか捕り物をしない婦警さんには山の中での戦いは難しいか、俺は傭兵だった頃に反吐が出るほど経験してきたけどな。
そう言い男は、侑衣梨の打撃を躱しその腕を取り、足を払って地面に倒す、侑衣梨も素早く受け身をとり、転がるようにして男との間合いを取る、そして…
「あの馬鹿…銃も盗られてたのか…」
地面に片膝を立てたまま、隠し持っていた銃を抜き、その銃口を男に突きつける侑衣梨。
「動かないで、拳銃には地形のハンデはないわよね」
銃を突きつけられながらも、男は臆する様子もなく顔に笑みを浮かべながら言った。
「撃てるのか、滅多に銃を撃つことがない日本のお巡りさんが」
「だから舐めないでって言ってるでしょ」
「本気なのか…本気で殺す覚悟はあるのか、この状況で急所を外すなんて余裕はないぞ」
男の手が、ジャケットの内側へと伸びる。
「動かないでって言ってるでしょ!」
「そんなこと言ってる暇があるなら撃ちなよ」
そう言いながら男はゆっくりと、侑衣梨との間合いを詰める。
いよいよ引き金に指をかけようとした侑衣梨、その瞬間両サイドから2つ影が侑衣梨に襲い掛かった。
「しまった…っ⁉」
前の男に集中するあまり、周囲の注意を怠っていた、気づかない間に接近してきた男達に捕まえられた侑衣梨は、まともな抵抗も出来ぬまま銃を奪われ、身体を地面に押さえつけられた。
「てめぇ‼さっきはよくもやってくれたな!大事なところがまだ疼くぞコラァ‼」
「自業自得だ馬鹿‼いいからとっととふん縛るぞ!」
「嫌っ…離して…うぐぅぅっ‼」
必死に抵抗し声を上げる侑衣梨、だがその口には容赦なく猿轡をされ、手足は再びきつく縛り直される。
その様子を見ながら、リーダー格の男は侑衣梨の目の前に落ちている銃を拾い上げる。
『もしもし!侑衣梨⁉どうしたの⁉何が起こったの⁉』
未だにスマートフォンからは、侑衣梨を呼ぶ優姫の声が聞こえていた。
パンッ‼
深い森の中に銃声が鳴り響き渡る。
地面に落ちていたスマートフォンが、銃弾をくらって砕け散った。
「ああああああああああああああ‼」
続いて森の中に、男の悲鳴が鳴り響く、見張りをしていた男が地面に膝をつきながら頭を抱えていた。
「俺のスマホが…女の子の連絡先が…」
「お前がやったミスを良く考えろ、本来だったらあの弾丸でヘッドショットされて森の腐葉土に埋められても文句は言えないんだぞ」
もう1人の男が、嘆く男の頭を背後から引っ叩く。
「まあ次同じとこやらかしたら、そうするかもな…今回はこれでチャラだ、それよりとっとと女を運べ、そろそろ来るぞ」
リーダー格の男が空を見上げる、それに合わせるかのように上空から空気を切り裂くような轟音が近づいてくる、それとともに吹き荒れる突風が森の木々を揺らす。
バラバラとけたたましく音を立て近づいてきたのは、一機のヘリコプターだった。
「さあお迎えが来たぜ、今度はここよりもっと綺麗な場所で我が主が、お前が来るのを首を長くしてお待ちかねだ、今度は空の旅を楽しませてやるよ笹南侑衣梨さん」
「ンンーッ‼ンンムゥグーゥッ‼」
侑衣梨の悲痛の叫び声はヘリコプターの轟音によって掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。
再び捕らわれて…。
「我が居城おかめ城にようこそ、僕の名はおかめ御前、君のことを歓迎するッスよ笹南侑衣梨君」
最初の監禁場所から更に山奥へと飛んだヘリコプターは、深い霧の中へと突き進む、そして霧が晴れ姿を現したのは、本当にここは日本なのかと疑いたくなるような西洋風の大きな城だった。
その屋上へと着陸するヘリコプター、侑衣梨は男に担がれたまエレベーターで地下深くの部屋まで連れて来られた。
手足を縛られ猿轡を噛まされたまま、暗い部屋の床に転がされる侑衣梨、その部屋で待っていたのは自らをおかめ御前と名乗る、まるで魔神の王のような格好をした奇妙な人物だった。
体型と口調から性別が男であることだけは何となく解かるのだが、それ以外はまるで伺い知ることが出来ない。
「あの『悪運野郎』は相変わらず良い仕事するッスね、出世欲のない現場主義ってのが少し面白味に欠けるとこッスけどね」
そう言って溜息をつきながら、侑衣梨を見下ろす能面男ことおかめ御前。
「んんっ‼んんむぅっ‼」
今から自分はどんな目に遭わされるのか、その恐怖から目から涙を流しもがく侑衣梨。
「そんなに怖がらなくてもいいッスよ~、君のことは大事に扱うッス、何故なら君にはこれから僕の大切な駒になって貰うんッスから♪」
そう言ってケラケラと笑うおかめ御前。
(駒…いったい何を言っているの…何故私がこんな悪の組織の手先なんかに…)
「んんんっぐんんむぅっ‼んむぅぐうむぅぐんんん‼」
「あなたなんかの手先になるもんですか!」怖気づきそうな心を奮い立たせ、言葉にならずとも目の前のおかめ御前にそう言い放つ侑衣梨、おかめ御前はクククと喉を鳴らすように笑いながら返す。
「君の意志など関係ないッスよ~、君は嫌でもそうなっちゃうんッスよ~、やり方は色々あるッスけど、それぐらいは選ばせてあげてもいいッスね、まあ折角可愛い女の子を捕まえて縛り上げてるッスから、君の意志があるうちに色々と楽しませて貰うッスけどね~♪」
侑衣梨の背筋に冷たいものが走る、おかめ御前の言葉がこれから自分の身に起きるであろうことを嫌でも予感させる。
(嫌…私どうなるの…怖い…誰か助けて…)
今までに無いほどの恐怖と絶望、身も心も捕らわれた虜囚はただ震えることしか出来なかった。
ここから先の続きは、皆様のご想像にお任せします。
コメント
今だから言えること…ずっと誤魔化してまいりましたが…
ずっとおかめの御前様の「おかめ」と「御前」の間に「の」を入れるのを忘れておりました、長きに渡るご無礼お許しくださいm(>__<)
…とりあえず、悪運野郎もこっちに来たようですし、幹部たちの手足となる戦闘員として活躍してくれることを願うばかりですね(誤魔化すんじゃねーよ!
いえいえ、どうかお気になさらず。
「おかめの御前」でも「おかめ御前」でも、どちらでも好きな方でお呼びくださいませ(^^)
最期の侑衣梨ちゃんのイラストが素敵すぎますね💛ああ、助けてあげたくなる・・・
おかめの御前さま久しぶりに直々の降臨ですね。相談ですが、当方のストーリーの中にモニター越しなどでご登場いただくことは可能だったりしますでしょうか?w
う~ん、「おかめの御前」は、「流血」「拷問」「服を脱がせるなど過度な肌の露出」は大嫌いですので、そのキャラ設定さえ守っていただければたぶん大丈夫かと…。
おそらく「おかめの御前」も「おかめ党」も、(あくまで設定の中の話ですが)大首領JUDO殿とその配下の皆さんのことは快く思っておりませんので、その点はご留意ください。