BRAVERS EDITION　episode.146

ブレイバーズの錦織佳代、クリストフォロ=エヴァルド=コルティノーヴィス3世（クリス）、寺瀬詩郎の3人は、アスカロン財団との定期会合のために、財団本部オメガ=タワーズを訪れる。佳代たちを出迎えるアルマ=ブラックバーンだったが…。

※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。

交渉の席 ― 不協和音の序曲

　オメガ・タワーズ二階、会議室。
　壁一面に巨大なスクリーン、天井からは無数の光ファイバーが垂れ下がり、まるで人工知能の神経網のように輝いていた。
　楕円形のテーブルを挟み、ブレイバーズとアスカロン財団、二つの旗印を背負った人間たちが向かい合って座る。

　ブレイバーズ側の席には、
　穏やかに微笑む金髪の少年科学者――クリストフォロ＝エヴァルド＝コルティノーヴィス三世（クリス）。
　冷静に書類を整える秘書官――錦織佳代。
　そして緊張の色を隠せないまま、黙って俯く青年――寺瀬詩郎。

　一方、アスカロン財団側は、
　白衣をひらりと翻し椅子に斜めに腰かけるアルマ＝ブラックバーン。
　そして、隣でいかにも堅物といった風情の三十代半ばの男、アーノルド＝フックス副本部長。

　交渉と言っても、本来であれば形式的なものにすぎなかった。
　――両組織間の技術提携協定の更新。
　これまで何度も繰り返されてきた、定型文の再確認のはずだった。
　水面下では方針の違いからギスギスした関係が続いているブレイバーズとアスカロン財団ではあるが、完全な関係断絶をするわけにもいかず、出来ることなら互いを繋ぐパイプラインは維持しておきたいというのが、牧村光平とレイチェル=アスカロンら双方首脳の考えだ。

　だが、空気は早くもきな臭くなっていた。

「……そもそもブレイバーズは、“開かれた組織”を標榜しているはずだ」
　フックスがテーブルを軽く叩くようにして口を開いた。
「それなのに実態はどうだ？　技術を秘匿し、我が財団より優位に立とうとしているのではありませんか？」

　佳代の眉がわずかに動く。
　クリスは落ち着いた声音で答えた。

「そんなことはありません、フックス副本部長。誤解です。
　牧村長官は、同じ地球の平和を守る組織同士として、今後も貴財団との協力関係を維持したいと心から願っています」

「綺麗事だな、少年」
　フックスの唇が歪んだ。
「ブレイバーズが地球連邦軍と一緒になって、ナミビアの“オメガ・ヴェール基地”に関する情報を報道管制していること――我々が知らないとでも思ったか？　随分と舐められたものだな」

　詩郎の指先が小さく震え、佳代が静かに口を開いた。

「確かに、国家機密に関することは守秘義務上、貴財団にもお伝えできません。
　ですが、それは情報戦で優位に立とうなどという意図からではなく、国家間協定に基づく正当な手続きです」

　理路整然とした返答。
　しかしフックスは、佳代の言葉の途中で鼻を鳴らした。

「言い訳に聞こえるな。――それに、そこにいるその男は何だ？」
　指先が詩郎を鋭く差す。
「我が財団が“危険人物”としてマークしている男を交渉の場に同席させるとは、挑発以外の何物でもない！」

　その言葉が突き刺さる。
　詩郎は唇を噛み、顔を伏せたまま何も言わなかった。
　クリスが抗議しようと立ち上がりかけた、その時。

「まあ、いいじゃないか」
　アルマが椅子を軋ませて前のめりになる。
「牧村長官が寺瀬詩郎をこの場に寄越したってことは、うちに対して何も後ろめたいことがないって意思表示だろ？　逆に言えば、ブレイバーズは誠実に対応してるってことだ」

「ブラックバーン君、君は黙っていろ！」
　フックスの声が怒鳴り声に変わる。
「私は副本部長だぞ！　この交渉の場で――」

「お前こそ黙れ、副本部長」
　アルマの声は冷たく鋭かった。
　視線を真っすぐに突き刺し、言葉を畳みかける。
「本部長のファインズ博士から、今回の交渉の全権を委任されているのはこの私だ。
　お前はオブザーバーとして同席しているだけ――その程度の立場、分かってるよな？」

「っ……このガキ、覚えていろ！」
　フックスは顔を真っ赤にして立ち上がり、椅子を乱暴に引いて出ていった。
　ドアが勢いよく閉まる音が、会議室に響く。

　しばしの沈黙。
　次いで、アルマがふぅと息を吐き、テーブルの上に肘をついた。

「すまないな。不愉快な思いをさせた。あの莫迦は昔からああだ」

　佳代は苦笑を浮かべ、クリスが小さく尋ねる。

「アルマさん、あの人は……？」

「“技術開発研究部副本部長”を務めている――いや、正確には“務めていた”かな」
　アルマは片眉を上げる。
「女性がらみのスキャンダルで一時降格、停職処分になった。ファインズ博士たちの取りなしで復帰したけど、権限のほとんどは私に移譲された。……まあ、逆恨みしてるってわけだ」

「なるほど……」
　佳代が頷く。
　クリスは苦笑し、詩郎は小さく息を吐いた。ようやく空気が和らいだ気がする。

　アルマは椅子に深く腰を下ろし、脚を組む。
「気にするな。あんな輩、研究の世界にだっていくらでもいる。権限を失えば牙を剥く。それだけの話だ」
　そして、軽く指先でテーブルを叩いた。
「さ、交渉の続きといこう。莫迦のせいで時間を無駄にするのはごめんだ」

　その口調は傲慢。だが、その瞳には確かな知性の光があった。
　フックスのような雑音に惑わされることのない、冷静な炎のような輝き。

　ブレイバーズとアスカロン財団――
　再び手を取り合えるかもしれないその瞬間へ、アルマ＝ブラックバーンは静かに導こうとしていた。

黒百合、再び。

　――オメガ・タワーズ地下最深部。
　地上三百メートルの超高層を誇るこのビルの、誰も知らぬさらにその下。
　そこには、国家にも公開されない“闇の監獄”が存在する。

　重厚な防音扉が何重にも連なる通路の先。
　冷たい金属の壁と、青白い蛍光灯の明滅する空間。
　そこが、超S級ヴィラン――人類に災厄をもたらした者たちの棺とも言える、監獄ブロックである。

　その中の一室。
　厚さ三十センチの強化ガラス越しに見える独房の中で、一人の女が拘束されていた。

　艶やかな黒髪を肩まで垂らし、唇には毒のような紅を差している。
　両手両足には鋼鉄の手枷と足枷、さらに鎖で床と繋がれているにもかかわらず、彼女の姿勢には一片の怯えもない。
　むしろ――退屈をもてあました女王のような余裕を漂わせていた。

　女の名は――黒百合（ダークリリィ）。
　以前にブレイバーズによって捕らえられ、アスカロン財団に身柄を移された凶悪犯。
　彼女の微笑みは、氷より冷たく、炎より妖しく光る。

　そのときだった。
　天井の監視カメラが一瞬だけノイズを走らせ、蛍光灯が一度だけ瞬く。
　そして――独房の中に、どこからともなく男の声が響いた。

　「……黒百合ダークリリィ」

　低く、冷たい声だった。
　それでいて、どこか知性と権威を感じさせる響き。

　黒百合は、ゆっくりと首を傾げた。
　「誰かしら？」

　「振り向くな。　そのまま静かに聞いていろ」

　静寂の中、金属音がひとつ、かちゃりと鳴る。
　彼女の鎖が微かに揺れた。

　「……随分と命令口調ね。ここはあなたの部屋じゃないけど？」
　黒百合の唇が、愉快そうに歪む。

　「もうしばらくしたら――お前をここから出してやる」

　その言葉に、黒百合の黄金の瞳が、暗がりの中でわずかに光った。
　「……ほう？」

　「どういうつもり？　あなた、いったい何者？」

　「質問は許さない。」
　声の主は静かに言い放った。
　「お前は、私の指示通りに動け。再び娑婆の空気を吸いたいならな」

　黒百合は少しだけ黙り込み、そして――ゆっくりと、艶やかな唇の端を上げた。
　鎖が鳴り、静かにうなずく。

　「……いいわ。その代わり、退屈させないでちょうだい」

　「もう少しだけ辛抱していろ。また連絡する」

　そして声は、ふっと消えた。
　蛍光灯の明かりが一度明滅し、再び通常の光に戻る。

　独房には、黒百合だけが残された。
　しばらく静寂が続いた後、彼女はくすりと笑う。

　「フフフ……ようやく、面白いことになりそうね」

　薄闇の中、その笑みはまるで黒い花が咲いたようだった。
　そしてその花は、近く訪れる“脱獄劇”の序章を静かに告げていた――。

裏切りの予兆

　――ニューヨーク、マンハッタン南端。
　摩天楼の一角にそびえる黒曜石のようなビルディング。
　その外壁には「長城集団公司（グレートウォール・コーポレーション）」の名が金文字で掲げられている。
　だが、その名の裏に潜む真実を知る者は少ない。
　実体は香港黒社会の盟主――竜門会（ロンメンフイ）。
　そのニューヨーク支社は、国際犯罪の中枢でもあった。

　最上階、厚い防音ガラスで外界と隔絶された執務室。
　重厚な黒檀のデスクの上に整然と並ぶ資料とパソコン。
　その奥に座る男が、一枚の契約書に目を通していた。

　黒く艶のある長髪を後ろで束ね、鋭い切れ長の目には冷たい知性が宿る。
　細縁の眼鏡が蛍光灯の光を反射し、影をその端整な顔に落としていた。
　――王有才（ワン＝ヨウツァイ）。
　竜門会最高幹部「竜生九子」の第三位。
　穏やかな声の奥に、氷のような残忍さを潜ませる男。

　その静寂を破るように、デスクの電話が短く鳴った。

　王はペンを置き、受話器を取る。
　「……私だ」

　スピーカー越しに、冷ややかな男の声が響いた。
　「Mr王、こちらの手筈は全て整った。」

　その声に、王の唇がわずかにほころぶ。
　「ご苦労だった、フックス君。いろいろと手間をかけたな」

　「構わんさ」
　フックスの声には自嘲にも似た響きがあった。
　「俺は、俺を正当に評価する組織に仕えるだけだ。アスカロン財団は、俺の価値を見誤った」

　王はわずかに目を細めた。
　「裏切り者というのは、時に最も有能な協力者になる……。それに、君のような男は使い方次第で宝にも毒にもなる」

　電話の向こうで、くくっと低く笑う声がした。
　「そう言ってもらえると光栄だ。――で、黒百合を脱獄させた後、俺はどう動けばいい？」

　王は指先で机を軽く叩きながら、緩やかに言葉を紡ぐ。
　「そこまでしてくれたら、君はあとは高みの見物をしていればいい。あの女は一度自由になれば、誰の指示など必要としない。
　黒百合（ダークリリィ）――あれは破壊そのものだ。好きに暴れさせておけ」

　そして、少し間を置き、声の調子をわずかに低める。
　「ただし……今、オメガ・タワーズに来ているブレイバーズの三人が邪魔になるようなら――その処置は、君に任せよう」

　「……了解した」
　フックスの声がわずかに凍りつく。
　「では、また連絡する」

　通話が切れる。
　受話器を置くと、王はしばし無言のまま椅子の背にもたれた。
　静かな呼吸の中で、彼の目が鋭く細められる。

　やがて、机上のパソコンを開き、ひとつの画像ファイルをクリックする。
　モニターに映し出されたのは、白衣を羽織った若い少女――アルマ＝ブラックバーン。
　明るい茶色の髪、オッドアイ、そしてあどけない顔立ち。

　しかし王の瞳には、怒りとも執念ともつかぬ熱が宿っていた。

　「アルマ＝ブラックバーン……」
　彼は低く、まるで自分の心に刻みつけるように呟く。
　「前回は取り逃がした。だが――今度こそは逃がさんぞ」

　クリック音とともに、画面が暗転した。
　その反射で、一瞬だけ彼の眼鏡に映った光は、まるで蛇が舌を覗かせたかのように鋭く閃いた。

（つづく）

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