プリンセスの休日 第4話

重機装士ヴァルダー

都内のホテルに滞在中のアストリッド王女を狙って襲撃して来た刺客を撃退した、加藤段十郎とリネア=フリーデン=ヴァイサーは、ヴァレンタイン綾子から亜斗夢重工の三枝万蔵を紹介される。

※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。

Aパート

 朝の光が、来島邸の広い玄関先をやわらかく照らしていた。

朝の来島邸玄関前での来島陽依(左)と来島士門(右)父娘の画像生成AIイラスト@cryravens.bsky.socialによる投稿 — Blueskyは、旅鴉様提供。

 白い半袖セーラー服に身を包んだ来島陽依は、鞄を肩にかけ、振り返る。

「じゃあパパ、行ってくるね」

「うん、気を付けていっておいで」

 衆議院議員・来島士門は、穏やかな笑みを浮かべて娘を見送った。

 その声は優しく、どこにでもいる父親のそれだった。

 陽依は小さく手を振り、門を出ていく。

 やがてその姿が見えなくなるまで、士門はじっと見送っていた。

 ――そして。

 ふっと表情から温かみが消える。

 そのまま踵を返し、邸内へと戻っていった。

 書斎。

 重厚な扉を開けた瞬間、空気が変わる。

 そこにはすでに、二つの影があった。

 一人は、長い髪を背に流した侍――風祭兵庫介。

 もう一人は、壁際に静かに佇む女。黒装束に身を包み、気配すら希薄な――弥御影一族の上忍、白夜叉の伽羅。

 士門はゆっくりと部屋の中央へ進み――

「……散々な結果だったようだな!!」

 机に手をつき、吐き捨てるように言った。

 怒気が、空気を震わせる。

 だが。

「いや、誠に面目ない」

 兵庫介は、まるで風に揺れる葦のように軽く頭を下げただけだった。

 その表情に、焦りは微塵もない。

「とはいえ――」

 ゆっくりと顔を上げ、口元に薄い笑みを浮かべる。

「どこかの誰かが、“王女を生かしたまま拉致し、日本国外へ移送したのちに始末する”などという回りくどい注文をなさらなければ、もう少し円滑に事を運べたのですがな」

 明らかな嫌味。

 士門のこめかみに、ぴくりと血管が浮かぶ。

「……しくじったのは私のせいだと言いたいのか?」

 低い声。

 だが兵庫介は、にやりと笑った。

「ハハハ、滅相もない」

 その軽さが、余計に神経を逆撫でする。

 士門は一歩踏み出し、言い放つ。

「いいか?」

 その目には、清廉潔白な政治家の顔とは別の、冷たい野心が宿っていた。

「もしアストリッド王女が明確に日本国内で死んだとなれば――」

 一語一語、噛み締めるように続ける。

「誰が交渉責任者になっても角が立ち、ルミナイト・オルガニウムの権益を巡るヴァルクルンドとの交渉に支障が出る」

 拳を強く握る。

「それでは私の手柄にならん!」

 書斎の空気が、ぴんと張り詰める。

「だから王女は――あくまで国内で”失踪”した後、日本国外で息の根を止める必要があるのだ」

 その言葉には、ためらいが一切なかった。

 人の命も、国の未来も、すべてが“駒”として並べられている。

 その背後にあるのは、さらに大きな陰謀だった。

 実はヴァルクルンド王国本国では今、第一王位継承者アストリッドの暗殺を目論む宮廷革命の企みが、水面下で進行していた。

 その首魁たる公爵と内通した士門は、日本という舞台を利用し、すべてを自らの功績へと変える算段を描いていた。

 もし王女が来日中に“遭難”すれば――

 これまで対ヴァルクルンド外交を主導してきた政敵・ヴァレンタイン綾子は、責任を取らされる形で失脚。

 その後釜として交渉を引き継ぐのは、自分。

 そして王女を失ったヴァルクルンドでは公爵派が実権を握り、新たな政権との間で有利な貿易協定を締結する。

 そのすべてを、“自らの手柄”として。

「……今朝のしくじりで、王女の警護は一段と厳しくなるだろう」

 士門は鼻で笑う。

「このままでは、吉野のご老人へもあまりよい報告は出来そうにないな?」

 吐き捨てるように言い、踵を返す。

「ではな」

 それだけ言い残し、書斎を出ていった。

 再び、政治家としての顔に戻り、国会へ向かうために。

 ――静寂。

 部屋に残されたのは、兵庫介と伽羅。

 数秒の沈黙の後。

「……おのれ、言わせておけば……!」

 伽羅の声が低く響く。

 その瞳には、鋭い怒りが宿っていた。

「兵庫介様。いくら吉野の御前様の言いつけとはいえ……いつまで我らは、あのような小物の下で働かねばならぬのですか!?」

 その言葉は、明確な侮蔑を含んでいた。

 兵庫介は、くつくつと喉を鳴らして笑う。

「まあそう怒るな」

 ゆっくりと歩き、窓の外に目を向ける。

「王女が日本国内にいる限り――」

 その目が、妖しく細められる。

「まだ、いくらでもやりようはある」

 フフフッ……と低い笑い。

 その背後には、さらに古い影が横たわっていた。

 南北朝の動乱。

 滅びたはずの南朝の残党。

 そして、いまなお吉野の山奥に潜み、現代に影響を及ぼす“吉野の老人”。

 その正体も目的も、誰も知らない。

 ただ一つ確かなのは――

 この国の裏側で、歴史の亡霊たちが、今なお蠢いているということだった。

Bパート

 横浜市郊外。

 住宅街の一角に建つ「久我鍼灸整骨院」。その奥に続く母屋の玄関先に、一人の少女が静かに立っていた。

 黒髪を団子にまとめ、無機質なほど整った顔立ち。緑のカンフー服に黒のショートパンツという、どこか場違いな服装。

 周翠琳。

 その瞳は、何かを見ているようで――何も見ていないようでもあった。

「あっ、翠琳さん! いらっしゃい!」

 勢いよく玄関の戸を開けたのは、久我美輝。高校二年生の少年だ。

「久しぶりじゃのう」

 奥から顔を出したのは祖父の久我明徳。

 翠琳は、ゆっくりと二人に視線を向ける。

「……明徳先生、ご無沙汰しております。美輝も、元気そうで何より」

 抑揚のない声。表情もほとんど動かない。

 だが、それがかえって不思議な存在感を放っていた。

「そんなところに突っ立っておらんで、まずは上がりなさい」

「……いえ。たまたま近くを通りかかって、挨拶にと立ち寄っただけなので、どうかお構いなく」

 淡々とした拒否。

 しかし明徳は気にした様子もなく、にやりと笑う。

「遠慮はいらん。茶でも出そう」

「……では、遠慮なく」

 あっさり折れる。

 その温度差に、美輝は思わず苦笑した。

 やがて三人は居間へ。

 明徳は「少し待っとれ」と言い残して台所へ向かい、場には翠琳と美輝の二人だけが残った。

 静寂。

 時計の針の音だけが、やけに大きく響く。

 翠琳は、ぼんやりと部屋の一角を見つめている。

 何を考えているのか――まったく読めない。

 その沈黙に耐えかねて、美輝が口を開こうとした瞬間。

「……美輝」

 先に、翠琳が言った。

「実は、今日は君に用があって来た」

「えっ、僕に……?」

 意外そうに目を丸くする美輝。

 翠琳は、ゆっくりと視線をこちらに向けた。

「……重機装士ヴァルダーのことについて、話を聞きたい」

「えっ!?」

 その一言で、美輝の顔色が一瞬で変わる。

周翠琳に問い詰められて動揺する久我美輝は、Dreamina: Create realistic talking avatars with AI avatar generatorで生成しました。

 血の気が引き、明らかに動揺した様子で視線を泳がせる。

「な、な、何のことかなぁ~? 僕、ヴァルダーなんて知らないよ💦」

 わかりやすい。

 あまりにもわかりやすい動揺。

 翠琳は無表情のまま、淡々と続ける。

「……とぼけないで。隠しても無駄」

 間を置かずに、次の言葉を落とす。

「皆上遼馬がヴァルダーの正体だということは、とっくに財団の方でも調べはついてる」

「そ、そうなの……?」

 一瞬ぽかんとした後――

「な、なんだ……分かってたのか……」

 ふぅ……と、心底安心したように胸を撫で下ろす美輝。

 完全に油断した、その瞬間。

「……ごめん」

 翠琳が、ぽつりと言った。

「実は、カマをかけた」

「えっ!?」

 美輝の動きが止まる。

「それってどういうこと!?」

 翠琳は相変わらずの無表情で、淡々と説明する。

「あの事件に関わった関係者の中で、一番それっぽい人間の名前を適当に挙げて、一芝居打った」

 ”あの事件”とは、暗黒大博士が企てた陰謀に耀斗仁威と瑪愛莉の兄妹が巻き込まれた、例のデモンスブルー事件のことだ。美輝や遼馬も、図らずもそれに関わった当事者の一人だった。

 ほんのわずかに、目が細くなる。

「……そう。やはり皆上遼馬が……」

「ひ、ひどいよ翠琳さぁん!!」

 美輝、絶叫。

 顔を真っ赤にして頭を抱える。

「完全に引っかかったじゃん僕! 遼馬さんになんて言い訳しよう…!?」

 だが翠琳は、まるで反省した様子もなく、悪びれもない。

 むしろ“何が問題?”と言わんばかりの無感情さだった。

 その時。

「ははは」

 笑い声とともに、明徳が湯のみを盆に乗せて戻ってきた。

「翠琳、あまり美輝をいじめんでくれんか?」

 どうやら一部始終を聞いていたらしい。

 しかし、その表情に驚きはない。

 むしろ楽しんでいるようですらある。

「じいちゃん!?」

 美輝が振り向く。

「もしかして……遼馬さんがヴァルダーだって、前々から知ってたの?」

 明徳は湯のみを置きながら、ふっと笑った。

「本人から直接聞いたわけではないがな」

 ゆっくりと腰を下ろす。

「まあ、薄々とな……」

 その声音には、長年の経験からくる確信のようなものがあった。

 美輝はがっくりと肩を落とす。

「……なんだよもう、みんなして……」

 完全に一人だけ出し抜かれた形だ。

 一方、翠琳は湯のみを手に取り――

「……いただきます」

 相変わらずの無表情で一口すする。

 その様子は、先ほどの一件などまるでなかったかのようだった。

 静かな居間に、湯気だけがゆっくりと立ち上っていた。

Cパート

 都内――ヴァルクルンド王国代表団が滞在する高級ホテルの一室。

 控室として用意されたその部屋は、落ち着いた照明と重厚な調度で統一されているが、今はどこか張り詰めた空気に包まれていた。

「……そうか、分かった」

 ソファに腰掛けた加藤段十郎が、携帯電話を耳から離す。

「よくやってくれたな、翠琳。じゃあ、また連絡する」

 通話を切ると、短く息を吐いた。

 その様子を見ていたリネアが、一歩近づく。

「加藤さん、翠琳からは何と?」

 段十郎は携帯をポケットにしまいながら、口の端をわずかに吊り上げた。

「ビンゴだそうだ」

「……!」

 リネアの目が、わずかに見開かれる。

 周翠琳の“カマかけ”は見事に成功した。

 重機装士ヴァルダーの正体――それが、皆上遼馬という一人の大学生であることが、ついに確定したのだ。

 だが。

「……どうします?」

 リネアは冷静さを取り戻し、静かに問いかける。

「三枝さんに、この事を教えましょうか?」

 段十郎は、すぐには答えなかった。

 軽く首を回し、天井を見上げる。

「さぁて……」

 その口調には、あからさまな迷いと――そして微かな面倒くささが滲んでいた。

「そいつはどうしたもんかな……」

 脳裏に浮かぶのは、つい数時間前の出来事。

 ***(回想)***

 同じホテル内の一室。

 ヴァレンタイン綾子の紹介で引き合わされた男――三枝万蔵。

 青い背広にオレンジのネクタイ、どこか軽薄な笑みを浮かべたその姿は、この場の空気から微妙に浮いていた。

「……つまり」

 段十郎は腕を組み、半ば呆れたように言った。

「そもそもヴァルダーってのは、お宅の会社の社長のヒーローオタク趣味の延長線上の産物だって言いたいのか?」

「そうですねん」

 三枝はにこにこと営業スマイルを崩さない。彼の話によると、ヴァルダーの装備のメカニックには、明らかに亜斗夢重工の持つ最先端の特許技術の数々が使われている形跡があるというのだ。

「経営者が会社を私物化して、自分のヒーロー趣味に公金を湯水の如く注ぎ込んどる。いくら創業家の人間とはいえ、許されることやおまへんやろ?」

 身振り手振りを交えて、やけに熱弁する。

「せやから、うちのボスである氷室が社長の不正を暴くために立ち上がった、っちゅう訳ですわ」

 ――なるほどな。

 段十郎は内心で呟く。

(結局は、よくある社内の権力闘争だろ……)

 どこにでもある話だ。

 規模がデカいだけで、中身は変わらない。

 三枝はさらに続ける。

「スーパーヒーロー事業部の詳細はトップシークレット。社長、会長、副社長の三人しかアクセスでけへんのですわ。氷室も専務の立場では手ぇ出せんで、正直困っとるんです」

 肩をすくめる仕草も、どこか芝居がかっている。

「それで?」

 段十郎は興味なさげに視線を向ける。

「俺たちに何をしろと?」

 その問いに答えたのは、三枝ではなく綾子だった。

「亜斗夢重工のような我が国を代表する企業が、日本政府を飛び越えてブレイバーズのような国際機関と結託して好き勝手に動くのは好ましくありません」

 紅茶を手に、静かに言う。

「王女護衛のついでの片手間で構いません。そちらでもそれとなくヴァルダーの正体を探ってください」

「……俺たちライトシーカーは何でも屋じゃないんだがな?」

 段十郎の声音には、わずかな苛立ち。

「そもそも王女護衛とヴァルダーの正体に、何の関係がある?」

 綾子は微笑む。

「おそらく、向こうの方から関わって来ると思いますよ」

「根拠は?」

 リネアの問いに。

「ありません」

 即答。

「強いて言うなら、長年の政治経験で培われた“勘”です」

 その言葉に、段十郎は無言になった。

 三枝は横でにこにこ笑いながら、軽く頭を下げる。

「なんとかお願いしまっせ」

 ――軽い。

 あまりにも軽い。

 段十郎は、内心でため息をついた。

 ***(回想終わり)***

 現実に引き戻される。

 段十郎は小さく肩をすくめた。

「……まずはレイチェルお嬢の指示を仰いでからだな」

 決定は保留。

「あの“ザ・俗物”って感じのサラリーマン親父に教えてやるかどうかは、その後だ」

 遠慮のない評価。

 リネアも、わずかに頷く。

「そうですね……」

 そして、ほんの少しだけ表情を曇らせた。

「私も、あの三枝さんという人はあまり好きにはなれませんでした……」

 言葉を選びながら続ける。

「悪い人ではないとは思うんですが……」

 段十郎は苦笑する。

「まあ、ああいうのはどこにでもいる」

 そう言いながらも、その目はどこか鋭い。

 静かな部屋の中で。

 二人は、次に動くべき局面を見据えていた。

(つづく)


コメント

  1. 旅鴉 より:

    陽依ちゃんを送り出す来島士門、自分で作った絵ではありますが…誰やねんコイツ…誰やねんこいつってぐらい良い顔してますね…
    そして書斎に戻ると待っていたのは風祭兵庫介と、弥御影一族の上忍、白夜叉の伽羅。
    白夜叉の伽羅は忍びなので、変装とか得意だろうけど、兵庫介目立ちませんか、堂々と銃刀法違反してますし、職質されませんか…?

    まあなにはともあれ、早速今回の襲撃の失敗の件で空気が悪くなってる…どこまでも偉そうな来島士門に伽羅さんキレ気味…来島その時がきたら刺されそう…
    まあ、利用できるうちは言う事聞いてくれそうですけどね…

    そして、久々に久我家にやってきた周 翠琳、何しに来たかと思ったら、美輝くんにヴァルダーのことを聞きに、何とか誤魔化そうとする美輝くんだが、カマかけられてあっさりとその正体の遼馬くんのことをバラしてしまう、いや、そんな芸当出来たんだな翠琳ちゃん…
    まあ、明徳爺ちゃんは気づいてたっぽいですけど…流石長い人生を送ってきただけのことはありますね~

    その報告を受けた加藤だが…その事を、三枝に喋るかどうか…検討中、確かに、社内のくだらない権力闘争に巻き込まれるのは面白くないですし…そもそも、三枝に協力するのってなんかやですよね…人のやる気を無くさすタイプですよねアイツ…

    なんか今回の件に乗っかってるヴァレンタイン氏もなんだかな~って感じがしますね、政治家の勘ってなんだよ、そんな勘の良い政治家ばかりならもっと…
    何だかライトシーカーの2人はやる気なさそう、困ったときはレイチェルさんですね…

    • 旅鴉 より:

      ちょっとまたSS、もうすっかりAI先生に頼ってますね…

      ✦ 始まりの光、セピア色の境界線、そして…始まりの闇

      佐々倉紫乃にとって、世界はいつだってモノクローム、あるいは色褪せた「セピア色」の退屈な檻だった。
      会社経営の母親からは「大人になりなさい」と息の詰まる優等生の型を押し付けられ、父親はロックスター気取りで勝手に家を出て行った。家政婦の体調を気遣うフリをして自室に引きこもり、裏で孤独に株の短期トレードを動かすだけの日常。そんな彼女の凍りついた心を唯一生かしていたのは、内に秘めた「魔法少女」への烈しい憧れだけだった。
      あの日も、そうだった。
      学校帰りの夕暮れ時。紫乃は普段の完璧なお嬢様としての私服――清楚な白ブラウスに黒のフレアスカートを纏い、人目を忍んでお気に入りの魔法少女グッズ(当時はまだ、ルミナではない別の物語のアイテムだった)をそっと鞄に隠し、家路へと就いていた。
      いつもの、退屈で、近づきがたいと囁かれる、孤独な帰り道。
      ――だが、世界の破滅はあまりにも唐突に、無粋な形で訪れる。
      「う、うわあああッ! どけ! 邪魔だァァァッ!!」
      突如として駅前の路地裏に響き渡ったのは、狂ったような男の絶叫と、引き裂かれるような悲鳴だった。
      刃物を片手に発狂し、周囲の人間を無差別に襲い始めた通り魔。群衆がパニックに陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うなか、あろうことかその男の血走った眼光が、立ち尽くす紫乃を正確にロックオンした。
      「テメエ……っ! そこで何澄ましたツラしてやがるッ!!」
      迫り来る、鈍色(にびいろ)に光る凶刃。
      身体が恐怖で硬直する。けれど、紫乃の脳裏を過ったのは、悲鳴ではなく酷く冷めた諦念だった。
      (あーあ……アタシの人生、こんなくだらない場所で終わるんだ……)
      実の親にすら本当の自分を見てもらえず、退屈で、しみったれた大人の都合に振り回され続けた、つまらない人生。
      (本物の、奇跡を起こす魔法少女に……出会えることもなく、アタシはここで消えるんだな……)
      諦めて静かに目を閉じようとした、その刹那だった。
      ――キィィィン、と。
      夜空の星屑を一度にハジき割ったかのような、あまりにも清廉で美しい金属音が、セピア色の世界を爆音で震わせた。
      「そこまでよ、悪しき刃! ――星彩のルミナ、見参ッ!!」
      「……え?」
      紫乃が驚愕に目を見開いた瞬間、目の前に舞い降りたのは、夕闇を黄金に染め上げるまばゆいピンクと白の衣装、そして宙にしなやかになびく可憐なツインテールだった。
      通り魔の凶刃を、自慢の星の杖(スターライト・ワンド)で完璧に弾き返した少女――「星彩のルミナ」が、そこに凛と立っていた。
      その瞬間、紫乃の網膜の中で、世界のすべてが一気に鮮烈な「色彩」を取り戻した。
      (あ……あ、ああ……っ!)
      尊い。美しい。気高い。
      内に秘めた純粋な想いだけで奇跡を纏い、誰かを護るために戦う本物の魔法少女。
      あまりのきらめきと神聖さに、紫乃の脳内ボルテージは一瞬で限界突破した。胸の奥がゾクゾクと震え、脳の血管がハジけ飛びそうなほどの歓喜が全身を駆け巡る。
      (きれい……なんて、尊いの……っ。ああ、もうアタシ、このままあの男に刺されて人生が終わっても、悔いなんて1ミリもねえわ……ッ!!)
      死の恐怖すら超越した最凶の限界オタクがそこに誕生した瞬間だったが、当の魔法少女は、ただの「恐怖で腰を抜かしてぼーっと見惚れている可憐なお嬢様」だと完全に勘違いしていた。
      ルミナは迫る男の猛攻を華麗にいなしながら、必死の形相で紫乃へと叫んだ。
      「危ないから! あなたは早く、安全な場所へ逃げてぇーーっ!!」
      (はぅあッ……! アタシを……アタシを護るために、そんな主人公100%の超絶カッコいいセリフを……っ!!)
      結局、紫乃はその後の戦闘の記憶が飛ぶほどルミナの輝きに魂を奪われ、文字通り文字通り、這う失神寸前の体で日常へと帰還した。
      それからの日々は、すべてが変わった。
      ルミナは、色んな意味で佐々倉紫乃の「救世主」だった。退屈なセピア色の日常に、命を懸けて追いかけるべき絶対的な「絶対光(メインヒロイン)」という至高の色彩をくれたのだから。
      それからずっと、彼女は――星彩のルミナだけを熱狂的に、偏執的に追い続けていた。
      公式の配信ログを1コマずつ一時停止して表情筋の尊さを研究し、アスカロン財団の公式グッズは2秒で決済し、ルミナを輝かせるためなら裏で株を動かして軍資金を毟り取るトップヲタのストーカーへと上り詰めた。
      ……だが。
      追いかけ、見守り続けるうちに、紫乃のオタクとしての美学は、さらに歪んだ深みへと覚醒していくことになる。
      星彩のルミナとの運命的な邂逅を果たしてからの紫乃は、文字通り彼女の「影」として、その眩しすぎるきらめきを貪るように追い続けていた。
      しかし、毎夜のように繰り返される戦闘ログを自宅のベッドで検証するうちに、紫乃の限界オタクとしての脳裏には、ある「物足りなさ」が澱のように溜まり始めていた。
      (――ルミナちゃん、強すぎるんだよね。……いや、違う。ルミナちゃんに飽きたわけじゃない。神回なのは間違いないんだけど……でも、ピンチがなさすぎるの。魔法少女っていうのは、傷ついて、泥に塗れて、それでも絶対に諦めないで立ち上がるからこそ、その光が極限まで美しく輝くのに……!)
      自分の思考のあまりの歪みっぷりに、紫乃はハッと我に返って頭を振った。
      (いや、アタシは何を考えてるわけ!? 尊いルミナちゃんが傷つくことを望むなんて、ファンとして最低の不純物じゃん……! でも、やっぱり、傷つくほど傷つくほど……魔法少女は、それはそれで最高にエモくて美しいんだよクソがッ……!!)
      ジレンマに頭を抱え、身悶えしていたその時だった。
      いつものようにルミナの出没しそうなトラブル多発地帯を特定し、人気の絶えた深夜の裏路地を歩いていた紫乃の脳内に、突然、艶っぽい大人のお姉さんのような念話(テレパシー)が直接響き渡った。
      『――とか思ってるでしょ?』
      「……っ!?」
      紫乃は驚いてハッと辺りを見回した。
      月明かりに照らされたゴミ箱の脇に、金色の魔眼を怪しく明滅させた、一匹の黒猫が佇んでいる。
      『そうよ……わたしが……って、ちょっと待ちなさいな! なんで無視して歩き出すのよ!』
      「チッ、化け猫の相手をしてる暇はねえんだよ」
      お気に入りの上品なブラウスの裾を翻し、紫乃は冷ややかな目を丸メガネの奥に潜ませて歩調を速める。
      『ちょっと、驚かないの!? 喋る猫よ!?』
      「ハッ、笑わせんじゃねえよ。魔法少女が街中でビームぶっ放して戦ってる世界で、今更喋る化け猫ごときに驚くかよ、脳みそ飾りかッ!」
      『最近の子は胆が据わってるというか……ひどく醒めてるわね。まあ、それがあなたの元々の冷徹な性格かしら、佐々倉紫乃さん?』
      その言葉に、紫乃の足がピタリと止まった。
      「……あ? テメエ、アタシの本名(私生活)を知ってて近づいたのか? 何が目的だコラァッ!!」
      『うふふ……やっとお話を聞く気になってくれたかしら。ほら、こんな時間にこんな人気のないところを1人でお散歩なんて、大好きなルミナを探してたみたいだけど、とんだところに迷い込んじゃったわね?』
      ルナフィリスの念話と同時に、路地の暗闇から、酒臭い息を吐きながら二人の男がぬっと姿を現した。
      「お嬢ちゃん、こんなところで1人で何やってんの?」
      「可愛いねぇ? 君、いくつ? ちょっと俺たちとお話しようよ」
      (おいおいマジかよ……アタシまだ中坊(13歳)だぞ。何考えてんだこのロリコン不審者どもがッ!!)
      『あらら……大ピンチねぇ~?』
      脳内で面白そうに喉を鳴らす猫を睨みつけ、紫乃は静かに鞄の奥のポケットへ手を伸ばした。
      (う~ん……特製の改造スタンガンは持ってるけど、流石に男2人相手か。少しちょっと、物理的に厄介(無粋)な状況だな……)
      『ちょっと待ちなさいな、スタンガンを改造して持ち歩いてるの……!? 恐ろしい子ね、あなた……』
      (さて、どうやってこのゴミ虫どもを切り抜けるか――)
      『ねえ、アタシが助けてあげよっか?』
      (どうやってだよ、化け猫。今更猫の手を借りろってかッ!?)
      紫乃が内心で毒突いた瞬間、黒猫は音もなく跳躍し、紫乃の白ブラウスの肩へと素早く飛び乗ってきた。
      「お、どうしたの? 随分懐いてるじゃん、その猫」
      「君の飼い猫? 可愛いねぇ、お姉ちゃんごと俺たちの車に――」
      (そんなんどうでもいいだろクソが、それ以上アタシに近づいたら――)
      「おいおい、そんなに睨むなよ、危ないじゃん」
      「俺たち、君と楽しくお話したいだけなんだけどなぁ?」
      (中坊相手に何を楽しく話そうってんだよドヘンタイどもが……! おい化け猫! 早くしろ、どうやってアタシを助けるんだよッ!?)
      『それをそいつらに向けるだけ。そして、あなたの脳内で、網膜が焼き切れるような激しい「稲妻」を放つイメージを強く持つの!』
      (おいおい化け猫、テメエはスタンガンの基本的なメカニズム(使い方)も知らねえのかよッ!? 相手の皮膚に直接ブチ押し付けないと意味ねえんだぞ!!)
      『良いから今すぐスイッチを入れなさい! 化け猫の言う事を信じなさいな!』
      (おい、何も起こらなかったらアタシの神聖な貞操がマジでヤバいんだけど……!! 解ってんの、テメエ!?)
      『いいから! それこそ危機迫ってるんでしょ!?』
      「おいおい、さっきから何をごちゃごちゃ1人で喋りかけてるわけ? 猫と会話してんの? ……可愛いけど、ちょっとヤバい子なのか?」
      「あーもう面倒だ、腕掴んで連れてっちゃおうぜ」
      男たちの汚い手が、紫乃の華奢な肩へと伸びる。
      「――あーもう、知らねえッ!! わかったわよッ!!」
      紫乃はお嬢様の仮面を完全に脱ぎ捨て、ヤンキー口調の絶叫と共に、手の中の改造スタンガンのスイッチを全力で押し込んだ。
      化け猫の指示通り、脳内で――すべてを噛み砕く、青白き傲慢な稲妻のビートを強くイメージしながら。
      次の瞬間、スタンガンの小さな電極から放たれたのは、パチパチという玩具のような放電ではなかった。
      鼓膜を震わせる爆音と共に、空間を裂く本物の「雷撃の奔流」が狂暴に迸り、闇夜を一瞬で真っ白にフラッシュさせたのだ。
      「ぐあああああああッ!!?」
      「いてええええええッ!! な、なんだこれぇぇっ!?」
      男たちの肉体が激しく感電し、悲鳴を上げながら路地裏の地面へと無様に悶絶し、ぶっ倒れる。
      紫乃は煙を上げるスタンガンを呆然と見つめた。メガネの奥の瞳が、驚愕で丸くなる。
      「――何よこれ、全くわけがわからない……」
       煙を上げるスタンガンを握り締めたまま、紫乃は自分の震える手のひらを見つめていた。路地裏に転がった二人の男は、まだピクピクと痙攣しながら白目を剥いている。お気に入りの白いブラウスの袖が、残った電撃の余波で小さくパチリと爆ぜた。
      『それこそ今更ね。ルミナを散々見惚れて追いかけといて』
       肩の上の黒猫が、金色の魔眼を細めて喉を鳴らす。
      「なんで……今、ルミナちゃんの話が……っ」
      『これがルミナの力の根源。こうやってルミナに力を与えた存在がいるのよ。今の私のようにね……』
      「これが、ルミナちゃんの力……?」
       息を呑む紫乃に、ルナフィリスはふっと妖艶な念話を重ねてくる。
      『まあ、今のは試供品みたいなもんだけど。本当にあのレベルの魔法を使うには……本契約して貰わないといけないんだけどね。私の目的はそれよ』
      「どういう意味?」
      『私と契約して、魔法少女に――』
      「おい、なんだその死亡フラグは」
       一瞬にして、紫乃の丸メガネの奥の瞳から光が消えた。ドスの利いた、氷点下の一瞥が黒猫を射抜く。
      『待って待って! 私、詐欺師と違うから!』
      「いや、どう見ても胡散臭いだろ!」
      『それは認めるわよ! そりゃあ、こんな怪しい念話で話しかけてくる黒猫なんて怪しさ爆発だもんね。でもね……あなたにとって悪い話じゃないんだから』
      「詐欺師はみんなそう言うんだよッ!」
      『いやいや、聞いて! 魔法少女だよ? あなたの憧れの!』
      「ハッ、ざけんな。アタシは正義の味方(ヒーロー)なんかじゃない。光り輝くのはルミナちゃんの役目。アタシは……」
      『遠くから見ておくだけでいいの?』
       ルナフィリスの低く、確信に満ちた声が、紫乃の脳髄を直接揺さぶった。
      「……は? アタシがルミナちゃんの隣に並び立つ……?」
       想像しただけで、心臓が爆発しそうだった。おこがましい。尊すぎる推しの隣を、このアタシが歩くだなんて。
      『ふふ、誰もそんなこと言ってないわ。だれが並んで立てと言ったの?』
      「……はぁ!?」
      『さっき、あなたの心を覗いて話したこと……。あなた最近、ルミナに熱くなりきれてないでしょ……?』
      「何言ってんだよコラァッ! ルミナちゃんはアタシにとってもっとも尊ぶべきもので、最高の推しなんだよ!!」
      『でも……物足りてないでしょ……?』
      「っ……!」
       紫乃は言葉を詰まらせた。痛いところを突かれ、ブラウスの胸元をぎゅっと握り締める。
      「物足りないとか、そんな贅沢なことを……アタシが思うわけ……」
      『ルミナって……敵がいないわよね~。いつもあっさり勝っちゃうんだもん。面白くないわよね~?』
      「……」
      『魔法少女は、強敵と戦い、傷つき、それでも立ち上がるのが美しいんでしょ?』
      「それは、ある……」
       紫乃のヤンキー口調が、一瞬にして限界オタクの早口へと融解していく。丸メガネを震わせ、拳を握る。
      「うん、それは確かにそう……! 絶望の底から、泥に塗れて、それでも前を向いて立ち上がる姿が、また最高に美しく輝くのよ……っ! でも……っ!」
      『いつか彼女の脅威となる存在が現れて、彼女を窮地に追い込むかもしれない。でも……そうなったら彼女は……大丈夫かしらね~?』
      「どういう意味だよッ!?」
      『う~ん、今は大丈夫だけど。……例えば、彼女の体を目的とした最悪なヴィランが、これから現れたとしたら……?』
      「どこのどいつだぁぁぁッ!!! 脳みそ丸ごと消し炭にしてやるよコラァッ!!!」
      『まだいないわよ、落ち着きなさいな。それより、彼女を間近で見つめ、彼女を完璧に追い込み、その最高に美しい姿を引き出す……その特権、それを他の奴に渡したい? それとも自分で――』
      「……テメエ、何が言いたいんだよ」
       紫乃の額に、ドス黒い、だが烈しい情熱の魔力がチリチリと集束し始める。
      『話を戻すわね。並び立つ必要はないってことよ。何も魔法少女は、正義の味方である必要はないってことよ?』
       ルナフィリスが、黒猫の口元を不敵に、最高に邪悪に歪ませた。
      『それ、アタシに――』
      『そうよ。星彩のルミナのライバル、悪の魔法少女になれって事よ』
      「アタシが……ルミナちゃんの……宿敵(とも)に……っ!!」
      『あら? 目の輝きが変わったわね。やっぱり私の目には狂いがなかったかしら。私はずっと思ってたのよ。あの子、このままライバルがいないのって、逆につまんないんじゃないのかって。そもそも、好敵手(ライバル)がいない魔法少女ストーリーなんて面白くないでしょ?』
      「うん、それは、そう……っ!!」
       紫乃の脳内で、至高のシナリオが完璧に組み上がっていく。
       ルミナちゃんを輝かせるための、絶対的な闇。最強の、そして最愛の悪役。
      『あなたにはね……星彩のルミナの「プロデュース」をするのよ。その唯一無二の権利を得るの。……ルミナ推しとしては、これほどの栄誉はないでしょ?』
      「……ハッ。そう言って、ルミナちゃんをアタシに倒させて、世界を支配しようとかわけわからないこと考えてんじゃないでしょうね、この化け猫?」
       ジロリと丸メガネを直して睨む紫乃に、ルナフィリスはケラケラと笑声を響かせた。
      『そんなつもりだったら、あなたみたいなルミナ大好き人間なんか選ぶわけないでしょ! 世界征服なんてダサいこと、アタシも興味ないわよ』
      「たしかに……。ルミナちゃんを本気で抹殺しようとする奴がいたら、その時はアタシが真っ先に殺すしねッ!!」
      『そうそう! でも、傷ついたルミナちゃんも見てみたい……でしょ?』
      「……うん♡」
       紫乃の顔に、うっとりとした、限界突破したオタクの恍惚の笑みが浮かぶ。
      『だから私はあなたを選んだの。闇の魔法少女として……色んな意味で、めちゃくちゃ闇が深いあなたをね……』
      「それ、絶対褒めてないだろコラァ!!」
      『褒めてるわよ。あなた、アタシとそっくりなんだもの』
      「一緒にするな化け猫ッ!!」
      『元は人間よ……まあ、色々あってこうなっちゃったけど。……で、どうするの? 佐々倉紫乃』
       夕闇の底に沈んだ路地裏で、佐々倉紫乃の時間は完全に凍りついていた。
       肩の上の黒猫――ルナフィリスが放った『元は人間よ』という言葉の奇妙な重みと、網膜を焼き切るような青白い雷撃の残光が、脳の奥で激しく火花を散らしている。
      「アタシが……悪の、魔法少女……」
       ぽつりと呟いた言葉が、自分のものとは思えないほど白白(しらじら)と夜の空気に溶けていく。
       お気に入りの、清楚な白ブラウスの裾をぎゅっと握り締める。手のひらには、まだ先ほど男たちを消し炭手前までパージした、自作の改造スタンガンの冷たい金属の感触が残っていた。
       ――迷い、狼狽していた。
       名門女子高に通う「近づきがたいお嬢様」としての佐々倉紫乃の理性が、全力でブレーキをかけている。
      (待て、落ち着けアタシ。何に変な電波(念話)に流されてんだよッ。魔法少女っていうのは、純粋なきらめきで世界を救う至高の存在だ。それを……悪のヴィラン? ルミナちゃんの前に立ち塞がる『敵』になるだと? 冗談じゃねえ、そんなの、ただの最悪なストーカー(犯罪者)じゃねえかよ……!)
       学校に通い、母親の押し付ける「お上品な優等生」の仮面を被り、裏で孤独に株の画面を睨みつけるだけの、セリフのないセピア色の日常。それに耐えていられたのは、ただ遠くからルミナちゃんのまばゆい色彩を見つめていられたからだ。
      「アタシは……ただのファンでいいんだ。ルミナちゃんが怪我もしないで、いつも通り圧倒的な主人公補正(きらめき)で勝って、それを特等席(画面越し)で拍手して、2秒で限定グッズを決済して……それが、正しいオタクのあり方だろ……」
       自分に言い聞かせるように、震える手で丸メガネのブリッジを押し上げる。
       だが、その濁ったブレーキを、ルナフィリスの金色の魔眼が、あざ笑うように鋭く射抜いた。
      『嘘をおっしゃいな、紫乃。あなたの魂の奥底の歪んだ情熱(ロック)は、もうとっくに限界突破して響いているわ。……本当に、あのあっさり勝つだけの、ピンチの欠片もない退屈な予定調和のステージで満足できるのかしら?』
      「っ……!」
      『魔法少女(ルミナ)はね、もっと過酷な、泥に塗れた地獄のどん底に落とされて初めて、その内に秘めた絶対一等星の輝きを1000万倍に爆発させるのよ。……あの子の、誰も見たことのない最高のきらめきをプロデュースしたくない? 傷だらけになりながら、あなたを「宿敵」と睨みつけるあの気高き瞳を、一番近くで独占したくないかしら?』
       脳髄に直接流れ込む、甘く、そして凶暴な悪魔の囁き。
       その瞬間、紫乃の脳内で、バラバラだったパズルのピースが完璧な爆音を立てて噛み合ってしまった。
      (――ああ、クソ、そうだわ……ッ!)
       ルミナちゃんがボロボロになりながらも絶対に諦めずに杖を構え直す、あの王道にして至高の「神回」のシチュエーション。それを指をくわえて待つだけなんて、トップヲタとして耐えられるわけがない。
      (他の無粋なヴィラン組織(ゲスども)や、大人の政治の都合(アスカロン財団)なんかに、ルミナちゃんのステージを横取りされてたまるかよ。ルミナちゃんをピンチに追い詰め、世界一美しく引き立てて、そして最後に……あの光の手で完璧に終わらせてもらうのは、世界で唯一、このアタシだけの特権なんだよッ!!)
       ハッと顔を上げた時、佐々倉紫乃の顔から、お淑やかなお嬢様の光彩は完全に消失していた。
       丸メガネの奥の瞳が、どす黒く、けれど何よりも烈しい歓喜を孕んだ金色の魔光へと染まっていく。
      「……ハッ、あははははッ!! 言うじゃねえか、化け猫ッ!!」
       ブラウスの胸元をむんずと掴み、昏い愉悦に身悶えしながら、父親譲りのドスの利いたロック調のヤンキー口調が、夜の住宅街に吠え猛った。
      「テメエのその最高にエモくて悪趣味なプロデュース、乗ってやるよッ!! 誰が並んで立つかよ! 誰が世界征服なんてダサい目標掲げるかよッ!! アタシが世界一の絶対悪(ヴィラン)になって、ルミナちゃんを絶望のどん底まで可愛くお仕置きして、世界で一番気高く輝かせてやるからなァッ!!」
       彼女の内に眠っていた規格外の「深い闇」が覚醒し、周囲の空間がピキピキと凍りつくような禍々しい魔力で満たされていく。
      『ええ、その意気よ、ノクタ。流石はアタシが見込んだ――』
      「――って、やばいッ!! 契約の余韻に浸ってる場合じゃねえんだよコラァッ!!」
      『えっ!?』
       一瞬にして、ノクタは血相を変えてスマホの画面を睨みつけ、凄まじい早口の限界オタクモードへと引き裂かれた。
      「アスカロン財団の限定ゲリラ通販で、ルミナちゃんの『スター・エトワール・ブレイク仕様・完全先着1名・等身大シリアル入りアクスタ』の決済ボタンが解禁されるまで、あと15秒しかないじゃんッ!! クレカの入力! 入力ッ!! テメエのせいで初戦(神回)の契約に時間食っちまっただろうがッ!! ルナフィリス、今すぐアタシの部屋の回線速度を魔法で10000倍にブーストしやがれえええッ!!」
      『ちょっと、異世界の魔女の契約の重みを何だと思ってるのよォッ!?』と、初対面にして最高位の魔法使いを完全にピキらせる、最悪で最高な「絶対悪」のプロデューサーコンビが、ここに最速のスピードで爆誕したのだった。

      • 旅鴉 より:

        今回もまた掲示板占領しちゃってるかな…
        新キャラ、常闇のレギーナ・ノクタのサーバント
        一匹狼ってプロフィに書いてるのに、ちゃっかり部下1人飼ってます…

        https://cdn.bsky.app/img/feed_fullsize/plain/did:plc:54f5z4vfq6z47dx6anbdx7ix/bafkreia3ucem5h65u33vebzwnbkdyoqdzc7ihi76tfhohw23ewav4owqka

        本名:岩動 剛(いするぎ ごう)
        年齢:34歳
        表の職業:日雇い労働者(建設現場・解体作業などのガテン系)
        裏の姿(サーバント名):「ヘル・ギガース」
        【経歴・過去の悲劇】
        かつて有名プロレス団体で活躍し、マット界を震撼させた元悪役(ヒール)レスラー。当時のリングネームは『マッド・ボルケーノ』。
        高い実力を持ちながらも「自分には正統派の華がない」と自覚しており、主役を引き立てるための悪役に誇りを持って徹していた。しかしある日、親友である正統派レスラーから真剣勝負(ガチンコ)を挑まれたことで運命が狂い始める。ラフプレーの一切ない純然たる決闘の末、試合中の不慮の事故により、自らの手で親友を死なせてしまった。
        仲間から責められることはなかったが、耐え難い自責の念と、外野からの容赦ない誹謗中傷に心をへし折られ、試合中の負傷を理由に逃げるようにプロレス界を引退。過去のすべてを捨て、日雇い労働で食い繋ぐ虚無の日々を送っていた。
        【契約への経緯】
        絶望の底にいたある日、かつて自分の大ファンだったという少年と出会い、その純粋な言葉に少しだけ心を救われる。しかしその後、少年は悪質な「闇バイト」の詐欺グループに騙されて加担させられ、組織から命懸けで脱走して岩動に助けを求めてきた。
        少年を護ろうと半グレ集団に立ち向かった岩動だったが、近代兵器の前に銃撃され、瀕死の重傷を負う。死の直前、ちょうど戦力(手駒)を欲しがっていた闇の魔法少女「常闇のレギーナ・ノクタ」に遭遇。少年を護る力を得るため、彼女と『契約』を交わし、強大なサーバント「ヘル・ギガース」へと生まれ変わった。
        【性格・スタンス】
        典型的な悪役レスラーの生き様通り、「根は不器用で非常に心優しい人物」。
        主役(ルミナ)を最も輝かせるためにあえて絶対的なヒールを演じようとするノクタ(佐々倉紫乃)の歪んだ美学に対し、かつて正統派の親友を引き立てるために悪役に徹していた自分自身の過去を重ね合わせている。彼は世界を壊したい「ヴィラン(悪)」ではなく、役割を全うする「ヒール(悪役)」。そのため、裏社会の半グレや、心底腐りきった本当の悪党を激しく嫌悪している。

        闇の魔法少女「常闇のレギーナ・ノクタ」の忠実な僕、地獄からの巨人…

        https://cdn.bsky.app/img/feed_fullsize/plain/did:plc:54f5z4vfq6z47dx6anbdx7ix/bafkreigzebqsrmmssyzmglimfs4qrvdf7tmfpk6gsm6ozmxrstzw7sqopi

        名前:ヘル・ギガース
        正体:岩動 剛(元悪役レスラー『マッド・ボルケーノ』)
        立場:闇の魔法少女「常闇のレギーナ・ノクタ」直属の唯一無二のサーバント(私兵)
        外見:赤と黒を基調とした屈強な全身タイツ。悪魔のような角の生えた覆面を被り、夜のネオン街に威風堂々と立ち塞がる。
        【契約の背景(ノクタの妥協)】
        「ヘル・ギガース(地獄の巨人)」というギリシャ語と英語が混ざった中二病全開の名前は、主であるノクタ(佐々倉紫乃)が命名した。
        実は、彼をサーバントにするのはノクタの本意ではなかった。可愛い魔法少女系が大好きな紫乃にとって、むさ苦しくてゴツい筋肉大男は最も嫌悪する「タイプ外の不純物」だったからである。しかし、銃撃され死にかけていた彼の高い素質に目をつけたルナフィリスから「前線で盾にするなら、何より丈夫な方が良いわよ」と言葉巧みに唆され、しぶしぶ魔力を分け与えてサーバント(手駒)として救い出した経緯を持つ。
        【強化性能・戦闘スペック】
        人外のフィジカル:元々プロレス界トップクラスだった肉体に、ノクタの闇の魔力が融合。超人的な筋力と驚異的な耐久力を誇る。
        知覚・再生の向上:五感が極限まで鋭敏化。さらに傷を瞬時に修復する「再生能力」をも手に入れ、文字通りノクタの軍勢における【最強の兵隊】となった。
        認識阻害の不在:ノクタとは異なり「認識阻害魔法」が展開されていない。そのため、正体バレを防ぐために、戦場では【必ず覆面で顔を隠し続けなければならない】という致命的な制限を持つ。
        【戦闘スタイル・プロレスラーの業】
        ヒール殺法と無限の凶悪ギミック:
        基本スタイルは重量級のプロレス。悪役時代のラフプレー(凶器攻撃)を得意とし、ノクタの創造魔法(亜空間収納)によって、影からいくらでも凶器を取り出して使用できる。さらに、目潰し用の「毒霧攻撃」といったクラシックなヒール戦術も織り交ぜる。
        ムエタイとの融合(立ち技の補完):
        かつてタイへの武者修行を経験しており、高度なムエタイの技術を完全習得している。プロレス特有の投げ技や寝技、関節技だけでなく、鋭い蹴りや膝蹴りといった「立ち技」までも一級品。
        致命的な「プロレス脳(癖)」:
        強大無比なスペックを持つが、長年染み付いたレスラーとしての悲しい「習性」が最大の弱点となっている。
        1.【受けの美学】:致命傷にならない限り、まず「あえて相手の攻撃を正面から受けてしまう」癖がある。
        2.【アピールとタメ】:敵がグロッキーになった際、舐めプをしているわけではないのだが、プロレスの癖で「わざわざ大技のタメ(予備動作)を作る」か「なぜか周囲の観客(外野)へ向けて大袈裟なアピールをしてしまう」ため、無粋なヒーローたちに隙を突かれて反撃を喰らうことが多い。

        同じサーバントでもエターナルフレンド(章介くん)よりも圧倒的に強いです、エターナルライバル(彩人くん)と協力しても危ないかなってぐらいの設定にしたいかと、
        基本ノクタがルミナと戦ってる時に他に邪魔させないための番犬ですね、あと、誰かがノクタに戦いを挑んだ時に、まず相手にするのがこの男になることが多いかと。

        • S-A より:

          前話の佐々倉紫乃こと常闇のレギーナ·ノクタのプロフィールと合わせて拝読しました。以前おっしゃっていた星彩のルミナのライバル魔法少女なのでしょうが、まあとんでもないヤンデレストーカーで、こんなのに目を付けられたルミナも災難としか言いようがありませんね。全方位に中指おっ立てた挙げ句破滅する未来しか想像できませんがさてどうなるでしょうか。

          • 旅鴉 より:

            確かに全方位に中指おっ立ててる娘ですね、各方面への暴言集が出来てるようなヤバい女ですから…
            ルミナ至上主義の他いらね的な感じで暴れてる、完全な出る杭ではあります、この尖がった娘がこの修羅の国でどこまでやれるか見てみたいと思っています。

        • > 今回もまた掲示板占領しちゃってるかな…

          いや、むしろどしどし占領しちゃってくださいませ!
          『プリンセスの休日』編が終わったら、ノクタ一味(仮称)の項目記事も作らないといけませんね(^^♪

    • > 兵庫介目立ちませんか、堂々と銃刀法違反してますし、職質されませんか…?

      それはまさに当ブログ作中世界における七不思議の一つです。
      吉野の老人のコネと力で、「刀剣類携帯許可証」みたいな物を持ち歩いているのかも…。

      > まあ、明徳爺ちゃんは気づいてたっぽいですけど…流石長い人生を送ってきただけのことはありますね~

      これでグラビティ・ブレイカーズの関連・周辺人物でヴァルダーの正体を知っているのは、美輝くんと明徳老人の二人になりました。他のグラビティ・ブレイカーズのメンバーたちや七香ちゃん、彩葉ちゃんにもネタバレされる日は果たして来るのでしょうか…?

      > 三枝に協力するのってなんかやですよね…人のやる気を無くさすタイプですよねアイツ…

      三枝のおっさん、散々な言われようww

  2. JUDO より:

    白セーラー&緑チャイナに(*´Д`)❤

    それにしても、”王国の公爵家は野心を抱いて王位をとって変わろうとする”という隠れた国際法でもあるのでしょうか(;^_^Aときおり、我が国の中世~近世においても”家老一族が大名一族にとって代わろうとする”というよく見られた現象と似たようなものでしょうかね~( ̄▽ ̄)

    • > 我が国の中世~近世においても”家老一族が大名一族にとって代わろうとする”というよく見られた現象と似たようなものでしょうかね~( ̄▽ ̄)

      戦国時代ならよくある下剋上で済みますが、もしこれが江戸時代だったら幕府にとって大名改易の絶好の口実に…。
      御公儀の天領がまた増えますね( ̄ー ̄)ニヤリ

タイトルとURLをコピーしました