女刑事編　第1話

小寺洸介と鳳凰院優が異世界に迷い込んでいた頃、報道部のディレクター兼プロデューサーである桜庭陽平は一人寂しくお留守番をしていた。

「ふ、ふんッ！…別に寂しくなんかないんだからな！」

オカルトや超常現象否定の筋金入りレベルの現実主義者である陽平は、洸介と優が持ち込んで来た「異世界に通じるトンネルという都市伝説のある洞窟」の取材案件を即座に却下。自分が許可しなければ二人も諦めるだろうと高を括っていた陽平だったが、その点は完全に読みが甘かった。洸介と優は自分たち二人だけでさっさと取材に出かけてしまったのである。

「何も僕を置いてけぼりにしなくったっていいじゃないか…」

本当は寂しい気持ちの陽平だったが、プライドの高さが邪魔してそれを自分で認めることが出来ないでいる。やがてむしゃくしゃした気持ちになった陽平は、部室の出入り口に戸締りをすると気晴らし目的にと外の空気を吸いにキャンパス近くの河川敷に散歩に出かけた。だがそこで彼は、向こうから必死の形相で走って来たポニーテールの綺麗なお姉さん・笹南侑衣梨とすれ違いざまにぶつかってしまう。

「…あ、おっと！　失礼」
「ちょうどよかった。君、お願いがあるわ！　このUSBメモリをこの道を真っ直ぐ行った先にあるLilyっていう喫茶店に届けて！！」
「えっ！？　あ、あの…ちょっとッ！？」
「頼んだわよ～～～!!!!!!」

侑衣梨は陽平にいきなりUSBメモリを託すと、猛スピードで走り去ってしまった。

「何だよ…。こっちはぶつかったことを謝ったのに、そっちは謝罪なしってか？」

陽平が不満そうな表情をしていると、しばらくして今度はヤクザ風の怖い風体の男数人がやって来た。

「おい、そこの兄ちゃん！　今ここをポニーテールに青いTシャツを着た女が通らなかったか？」
「えっ…？」

これがドラマか小説ならば、女性が悪い男たちに追われていることを察して、わざと女性が向かった方向とは別の道を教えたりして機転を利かすのが常道の展開だ。しかしこの時点での陽平は、残念ながらそこまで頭の回転が速くはなかったようだ。馬鹿正直に侑衣梨が立ち去った方角の道を悪漢風の男たちに教えてしまった。

「おぅ、邪魔して悪かったな兄ちゃん！　野郎ども、追いかけるぞ！！」
「オオーッ!!!!」

侑衣梨を追いかけ立ち去っていく男たちを、ボーっと見送るだけの陽平。

「何だったんだ、今のは…一体？?」

案の定、侑衣梨はあの後すぐに追手の悪漢たちに捕まってしまっていた。操業停止して久しい廃工場跡地に連れ込まれ、猿轡を噛まされ手足を縛られている侑衣梨。

「ンンングゥッ!!ンンムグゥムムムーッ!!（…何なの！あの男子！　こういう時は普通追手の男たちに私が逃げた方向とは違う嘘の道を教えて助けてくれるのが常識じゃない！　ホント信じらんないッッ！！）」

侑衣梨はかなり怒っているようだ。今更ながらあの通りすがりの青年（たぶん大学生）に大事な証拠品のUSBメモリを託してよかったのだろうか？…と後悔の念に駆られ不安になる彼女であった。
一方その彼女をこの場所に監禁しているヤクザ風の男たちはというと…？

「何っ！？　あの女はUSBメモリを持っていなかっただとぉ！？」
「へぇ、いろいろと調べましたが、どこにも持っていないようです」
「それにあの女、なかなか強情でして、痛めつけても在処を吐こうとはしません」
「…待てよ。そういえば確か、あの女を追いかけている途中で大学生風のガキとすれ違ったな。もしかするとそいつが持っているのかもしれん！」

思わぬところで災難に巻き込まれてしまった陽平。彼にも危機が迫っていた。

第2話へ続く。