安土市内で小学生誘拐事件が発生。幸い程なくして被害者の友貞稜太は無事に救出されるが、稜太は自分を助けに来た者たちの中に、同じクラスメイトの桐橋勇人の姿を目撃していた。稜太から相談を受けた親友の稲垣健斗は、勇人に直接問い質すべく森の中で彼と対峙する。勇人から話を聞いた健斗は、ブレイバーズ関係者の個人情報が外部に漏れていると確信。詳しく調べるため、その足でブレイバーズ本部セントリネル・ハブへと向かい、稜太の父・友貞利彦上席主任研究員にも会って話を聞くが、大した手掛かりは得られなかった。その翌日、健斗や稜太の通う小学校に勇人に続く新たな転校生・相模路香が現れた。そして今度はブレイバーズ科学技術顧問の天岸博士の一人娘・アンジェリカ愛優美が何者かに誘拐され――。
※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。
深夜の作戦会議室
ブレイバーズ本部――セントリネル・ハブ。
その中枢に位置する作戦司令室には、いつになく重苦しい空気が垂れ込めていた。
円卓を囲むように集まったのは、若き長官・牧村光平をはじめ、秘書官の沢渡優香と錦織佳代、科学技術顧問の天岸明彦博士とクリストフォロ=エヴァルド=コルティノーヴィス三世――通称クリス。そして技術革新部上席主任研究員の友貞利彦、隊員の獅場俊一、寺瀬詩郎、稲垣千秋だった。
沈黙を破ったのは優香だった。
タブレット端末を操作しながら、淡々と、しかし声の奥に抑えきれない緊張を滲ませて状況を説明する。
「本日夕刻、天岸博士のご自宅に何者かが侵入したの。当時、博士はセントリネル・ハブにいたので不在で、在宅していたのは愛優美さん一人。状況から見て、自室で勉強中のところを連れ去られたのは間違いないわ」
千秋は思わず拳を握り締めた。
詩郎の顔色も、みるみるうちに青ざめていく。
「犯人からはすでに脅迫メッセージが届いています」
優香は一瞬言葉を切り、全員の顔を見渡してから続けた。
「愛優美さんの命と引き換えに、友貞主任が進めている研究開発プロジェクトの即時中止を要求しています」
その瞬間、友貞が椅子から身を乗り出した。
「……人命には代えられません」
苦渋に満ちた声だった。
「研究プロジェクトは中止しましょう」
天岸博士は、眼鏡の奥の目を細め、静かに首を振った。
「友貞君。私に気兼ねする必要はない」
「しかし、このままではお嬢さんの命が……!」
友貞の声には、研究者としてではなく、一人の父親としての感情が滲んでいた。
天岸は、背筋を伸ばし、はっきりと言い切った。
「テロリストの要求には屈しない。それが国際常識だ」
そして一呼吸置き、言葉を重ねる。
「それに、私はこれでもブレイバーズ隊員の端くれだ。その隊員の家族として生まれた以上、娘も――いざという時の覚悟は、できているはずだ」
「そんなの……!」
鋭く声を上げたのは寺瀬詩郎だった。
椅子を蹴るように立ち上がり、天岸を真っ直ぐに睨みつける。
「愛優美を見捨てるって言うのかよ! アンタ、それでも父親か!?」
詩郎の感情が高ぶるのに呼応するように、彼の両目《サイボーグアイ》の瞳が眩く光る。
張り詰めた空気が、一気に張力を増す。
だが次の瞬間、詩郎の肩に、どっしりとした手が置かれた。

「やめろ、詩郎」
獅場俊一だった。
低く、しかし重みのある声。
「だって……!」
詩郎は唇を噛みしめる。
「俺もな、妹の楓花を敵に誘拐されたことがある」
俊一は、遠い記憶を見るような目をして続けた。
「だから分かるんだ。博士の気持ちが。自分の娘を心配しない親なんて、どこにいるんだよ!」
その言葉に、詩郎ははっとしたように肩を落とした。
「……すみません」
拳を震わせながら、深く頭を下げる。
「一番辛いのは博士なのに……俺、そんなことも分からずに……ついカッとなって…」
天岸は、ゆっくりと首を振り、柔らかな微笑みを浮かべた。
「いいんだ」
穏やかな声だった。
「そこまで娘のことを想ってくれる友がいる。それだけで、親としては救われる。愛優美は……本当に良い友達に恵まれた」
そのとき、クリスが腕を組み、思案深く口を開いた。
「しかし、最大の問題はそこではありません」
視線を巡らせる。
「天岸家の住所を、犯人がどうやって知ったのか?です。ブレイバーズのA級ランク以上の職員の個人情報は、家族の分も含めて厳重に管理されているはずです」
光平も頷き、言葉を継いだ。
「そこなんだ。友貞主任の息子さんの件といい、ここまで同じようなことが続くとなると……考えたくはないが、内部情報が外部に――」
「……」
その瞬間。
佳代が、無言で右手をすっと挙げた。
光平の言葉が止まる。
佳代は視線をドアの方へ向け、鋭く声を放った。
「そこにいるのは誰!?」
一拍の沈黙。
そして、作戦司令室のドアが静かに開いた。
「失礼」
現れたのは、財務・管理部副部長――小金井総一郎だった。
薄く唇を歪め、ニヤリと笑う。
「立ち聞きするつもりはなかったのですが」
肩をすくめる仕草をしながら言う。
「たまたま廊下を歩いていたら……外にまで、ずいぶんと大きな声が聞こえてきたものでして」
その笑みを見た瞬間、司令室の空気はさらに冷え込んだ。
誰もが、言葉にしない不安を胸に抱きながら、小金井を見据えていた。
怪しい男、小金井。
司令室に、ひやりとした緊張が満ちる。
錦織佳代は腕を組み、わざとらしく微笑んだまま小金井総一郎を見据えた。
「プロジェクトが中止になりそうで、随分と嬉しそうですね?」
その一言は、柔らかな声色とは裏腹に、鋭い刃のように投げつけられた。
小金井は一瞬だけ目を細め、すぐに朗らかな笑みを貼り付ける。
「ハハハ、これは手厳しい」
肩をすくめる仕草を交え、軽い調子で続ける。
「確かに私は、費用対効果の観点から友貞主任主導のプロジェクトには、これまで苦言を呈してきた立場ですがね」
そう言ってから、わざとらしく咳払いを一つ。
「しかし、こういう場合にテロリストの要求を呑んではならないことくらいは、私も弁えていますよ。いやあ、こうなった以上――プロジェクトは断固として遂行すべきでしょうな。ハハハ」
その笑い声は、司令室の空気にまったく馴染まなかった。
牧村光平は、表情を変えずに言葉を切り出す。
「小金井副部長。申し訳ありませんが、今は作戦会議中です」
「はいはい。畑違いの者は、さっさと退散するとしましょう」
小金井は軽く会釈すると、踵を返した。
「それでは皆さん、失礼」
自動ドアが閉まるまでの数秒間。
誰も口を開かなかった。
その背中を見送りながら、稲垣千秋は心の中で呟く。
(あれが……財務・管理部の小金井副部長か)
(健斗から聞いてたけど……確かに胡散臭いわね。エリート官僚然としてて、妙に鼻につく感じ……)
嫌な余韻が、胸の奥に沈んだその瞬間だった。
――ピリリリリッ。
司令室に、甲高い着信音が鳴り響く。
光平のデスクに置かれた直通電話だ。
「……もしもし、こちら司令室」
受話器を取った光平の表情が、一瞬で引き締まる。
「……何? 分かった。すぐに繋いでくれ」
短くそう言って、受話器を置いた。
「どうしたの、光平くん?」
優香が即座に尋ねる。
「愛優美ちゃんを誘拐した犯人からだ」
光平は即断した。
「優香、逆探知!」
「オッケー!」
優香は即座に端末を操作し、通信解析の準備に入る。
同時に、光平は電話のスピーカーをオンにした。
「――もしもし。ブレイバーズ長官の牧村光平だ。君は誰だ?」
スピーカーから流れてきた声は、明らかにデジタル加工されていた。
男か女かさえ判別できない、無機質な音。
『人質を解放する』
一同の空気が、凍りつく。
『日時と場所を教えてやるから、身柄を引き取りに来い』
あまりに唐突な言葉に、誰もすぐには反応できなかった。
こちらはまだ、犯人側の要求を呑むかどうかすら決めていなかったというのに。
「……どういう風の吹き回しだ?」
光平が慎重に問い返す。
『親切心だ』
犯人の声が、嘲るように歪む。
『人質を“綺麗な身体のまま”返してやると言っているのだ。それとも――天下のブレイバーズともあろう者が来るのが怖いのか?』
その挑発的な言い回しに、寺瀬詩郎の中で何かが切れた。
「くっ……!」
拳を強く握りしめ、一歩前に出る。
「場所を言え!!」
声を張り上げる。
「今すぐ乗り込んでやる!!」
司令室に、怒号が響いた。
それは、若き隊員の激情であり――同時に、愛優美を思う切実な叫びでもあった。
お留守番の健斗
夜の稲垣家は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
リビングの明かりだけが点いたまま、ソファにだらしなく座った健斗は、腕を組んで天井を睨んでいた。
「……チェッ。何だよ、姉ちゃんのやつ」
ブレイバーズ本部へ向かう千秋の背中を思い出し、舌打ちする。姉に一緒について行こうとしたら「ダメ!」だと言われ、一人で留守番を言いつけられたのだ。
「子ども扱いしやがって……」
口ではそう悪態をつきながらも、姉の言いつけを破る気はなく、結局こうして一人で留守番をしている自分に、健斗は少し苛立っていた。
――その時。
ギシ……と、かすかな音が、天井の奥から伝わってきた。
健斗の表情が一変する。
(……気配?)
忍びとして鍛えられた感覚が、はっきりと異変を捉えていた。
健斗は無言のまま立ち上がり、指先に挟んだ手裏剣を一閃――!
「誰だ!?」
鋭い破空音とともに放たれた手裏剣が、天井板に突き刺さる。
次の瞬間、バキッという音とともに点検口の扉が開いて、天井裏から影が飛び降りた。
くるりと宙で身を翻し、軽やかに着地したその人物を見て、健斗は目を見開く。
「……お前!」
「随分とご挨拶じゃない?」
そこに立っていたのは、今日転校してきたばかりの少女――相模路香だった。
まるで自宅の床に降り立ったかのような余裕の笑みを浮かべている。
「またお前かよ」
健斗は眉をひそめる。
「手を組む話なら、断ったはずだぞ」
「まあまあ。そう邪険にしないで」
路香は肩をすくめた。
「今日はちょっと、耳寄りな話があるの」
健斗は警戒を解かないまま、じっと彼女を睨む。
「天岸アンジェリカ愛優美さんが誘拐された件――あれ、敵の陽動作戦じゃないかしら?」
「陽動……?」
その言葉に、健斗の胸がざわつく。
「まさか……敵の本命の狙いは、まだ稜太だっていうのか!?」
「十分、考えられる話ね」
路香はあっさりと頷いた。

稲垣家リビング背景は、Stable Diffusion Onlineで生成しました。
「……っ!」
健斗は拳を握りしめる。
「だったら、こうしちゃいられねえ!」
勢いよく玄関へ向かおうとする健斗の背中に、路香が慌てて声をかける。
「ちょっと! どこ行くのよ!?」
「決まってんだろ!」
振り返り、言い切る。
「稜太の家だよ! あいつを守らないと!」
しかし、路香は落ち着いた声で制した。
「慌てないの。もう友貞くんの家なら、桐橋勇人の仲間たちが、しっかりガードしてるみたいよ」
「……勇人が?」
健斗の脳裏に、あのどこか掴みどころのない転校生の顔が浮かぶ。
ただの同級生――そう片付けるには、あまりにも不自然な存在。
路香は意味深に微笑んだ。
「ええ。だから今夜は、静観が正解ってわけ」
―――
一方その頃。

深夜の友貞家の邸宅前には、人気のない道路に溶け込むように、一台の軽貨物車が路駐していた。
しかしそれは、ただの配送車ではない。

車内は薄暗く、複数のモニターが淡く光っている。
ブロンドのロングヘアに、氷のように冷静な眼差し。
20代後半のフランス人女性――コードネーム《アフロディーテ》が、監視カメラにハッキングした映像を確認しながら告げた。
「今のところ、異常なしよ」
「了解」
隣の席では、赤毛に赤い顎鬚を蓄えた北欧系の男――《ポセイドン》が腕を組んでいた。
彼は後部座席で静かに待機する勇人に視線を投げる。
「それにしても、ヘルメス。あの時、警護対象に顔を見られたのは、マズかったんじゃねえのか?」
「……」
勇人――コードネーム《ヘルメス》は、表情を変えない。
「ハッキリ顔を見られたわけじゃない」
淡々と言い切る。
「あの程度なら、どうとでも言い繕える」
「ふぅん……だがそのせいでブレイバーズやアスカロン財団も、お前の素性に勘付きつつあるみたいだけどな」
空気が一瞬、張り詰める。
そこへ《アフロディーテ》が、軽く手を叩いた。
「ハイハイ、その話はそこまで」
視線はモニターから外さない。
「今は任務に集中して。夜は長いわ」
誰もそれ以上、異を唱えなかった。
こうして、友貞家は静かに守られたまま、
何事も起こらぬ夜が過ぎ――やがて、朝の光が街を照らすのだった。
(つづく)

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