朝廷の院の側近くに仕える女房・桔梗局から、少年少女連続失踪事件の解決を命じられる検非違使・孝森祐宜と椿姫絢那のコンビ。しかし事件の実行犯である忍軍楠木党・弥御影一族の手に落ちた絢那の友人・松川敦士を助けようとして単身敵のアジトに乗り込んだ絢那も捕らえられてしまった。
危うし絢那!
「んっ、んんっ…むむぅっ!!」
絢那は縛られて椅子に括りつけられている状態でアジトの一室に閉じ込められていたが、その外の廊下では、風祭兵庫介と白夜叉の伽羅の二人が何やら立ち話をしている。
「…何をお考えですか?」
「あの松川敦士という小僧、今時の若者にしてはなかなか見どころと根性のあるやつだ、と思ってな…。このまま操り人形の御輿として使い捨てるには惜しい。俺としては、もう少しアイツが大物に育ってくれてからの方が斬りがいがあるんだが」
「ハハハ…お戯れを」
「フフフフッ…戯言だ。気にするな」
冗談のつもりだったのか、それとも本気だったのか、伽羅との雑談を切り上げた兵庫介は「さてと…」と呟くと、扉を開けて絢那のいる部屋へと入る。
「俺は無辜の民草を斬る剣は持ち合わせてはおらん。だからあの女子大生は助けてやった。だが検非違使の娘、お前は別だ。朝廷の犬を務めている以上、お前もいつでも命を捨てる覚悟は出来ていよう。正直、女を斬るのは俺も気が進まんが、この際やむを得まい。悪いが、お前にはここで朽ち果ててもらうぞ」
身動きの取れない絢那の目の前で刀を抜く兵庫介。もはやこれまでかと覚悟を決めた絢那は静かに眼を瞑る。だがその時――!!
突然部屋の中に乱入して来たのは、狐の耳と尻尾を生やしたオッドアイの瞳の少女――普段から絢那が使役している式神の楓子だ!
「絢那をいじめるなァァッッ!!」
絢那との間に割り込まれるように突然突進されて、一瞬怯む兵庫介と伽羅。さらに続けて孝森祐宜も中へと突入する。
「絢那、無事かッ!?」
「んんんぅーっ!?(先輩!?)」
そしてパトカーのサイレンの音が近くで鳴り響いてきた。その音は徐々にこちらへと近づいて来る。
「兵庫介様ッ!?」
「…チッ、この場は一旦退くぞ!」
警察も駆けつけて来て騒ぎが大きくなり形勢不利と見たのか、兵庫介と伽羅は配下の忍者たちと共にその場から逃げ去るのだった。
「絢那、大丈夫?」
「アホ! だから一人で先走るなって言うとるやないかッ!」
「申し訳ありません。私が軽率でした…」
「まあ説教は後にするとして、今はそんなことよりも松川敦士はここにおったんか?」
「…そうだった! 先輩、松川くんが吉野の老人の元へ連れ去られて大変なんです!」
絢那から「吉野の老人」と聞かされ、一瞬絶句する祐宜。
「吉野の老人やて!? ホンマか…。まさか最後にそんなとんでもない大物が黒幕に控えとるとわな…」
「松川くんは私のために…! 急いで助けに行かないと!」
「よしっ、すぐに追いかけるで!!」
敦士VS吉野の老人
ここは奈良の吉野山の奥地にある、吉野の老人の邸宅。
松川敦士は、薄暗い和室の奥に座っている男を見て、思わず息を呑んだ。
白髪の長髪を一房一房整えたその男は、顔に厚く白粉を塗り、真っ白な肌を異様に際立たせていた。その口元は、お歯黒が黒々と光り、どこか不気味で異質な雰囲気を醸し出している。華美な十二単のような衣装に包まれ、まるで歴史書から抜け出してきたようなその姿は、現代の空間にはあまりにもそぐわなかった。
「よくぞ参られた、松川敦士殿。麻呂が”吉野の老人“と呼ばれておる者でおじゃる。」
その男――吉野の老人は、穏やかに微笑むと、まるで舞台役者のように流れるような動作で扇子を広げた。その語尾の「おじゃる」という響きが、どこか底知れぬ不気味さを増幅させる。
敦士は一瞬、硬直して言葉を失ったが、すぐに声を絞り出した。
「…なんなんですか、あなたは? どうして俺…じゃなくて、僕をここに呼んだんです?」
「ふふふ、驚くのも無理はないのう。」
吉野の老人は扇子で口元を隠し、目を細めた。その様子はまるで敦士を試すようでもあった。
「そなたの血筋にまつわる重大な秘密を知る必要があるのじゃ。もう兵庫介から聞いたと思うが、そなたは松川織部正信光公の子孫にして、後南朝の御流れを汲む者。そなたの血脈こそ、南朝再興の旗印にふさわしいのじゃ!」
「…え?」
敦士の心臓は一瞬止まったかのように感じた。聞き慣れない言葉の連続に混乱しつつも、吉野の老人の言葉は不思議と響いてきた。600年以上前の出来事だというのに、その響きには奇妙な現実感があった。
「ちょっと待ってください! そんな話、俺には関係ない。たとえ先祖がどうだったとしても、僕は普通の高校生です!」
敦士は強い口調で断りを入れたが、吉野の老人は微笑みを崩さなかった。
「そう申すでない。そなたの血は運命に繋がれておる。」
吉野の老人は立ち上がり、敦士に一歩近づく。十二単の裾が床を這う音が、耳に不快に響いた。
「いやだ! そんな話、俺には何の価値もない。俺は、俺の人生を生きたいだけなんだ! 早く俺と椿姫を解放してくれ!!」
強い意志で拒絶を表明する敦士。しかし、その態度にしびれを切らしたのか、吉野の老人の表情が急変した。穏やかだった微笑みは消え、目には怒りの光が宿る。
「麻呂に逆らうというのか! ならば、そなたには実力を以て従わせるしかあるまいのう!」
吉野の老人が手を振ると、どこからともなく忍び装束に身を包んだ者たちが現れ、敦士を囲む。彼らは目元以外を黒い布で覆い、その手には鋭い刃物が握られていた。
「なんだよこれ!」
敦士は咄嗟に後ずさったが、すぐに壁にぶつかり退路を断たれる。全身に冷たい汗が流れるのを感じた。
「んんんっ!!んんーっ!!」
再び鎖と鉄枷で拘束された敦士は、屋敷の物置小屋の中に押し込められてしまった。
「フフフッ…しばらくそこで頭を冷やして考え直すんだな?」
吉野の老人配下の忍者が嘲笑うように吐き捨てて、物置の扉を閉めた。外からは鍵をかけたような音が聞こえる。
閉じ込められてしまった敦士を待ち受ける運命とは!?
突入
奈良の吉野山。夕闇が辺りを包む中、孝森祐宜と椿姫絢那は、鬱蒼と茂る木々に隠れながら吉野の老人の屋敷を見つめていた。
「先輩、もう突入しましょう! こうしている間にも、松川くんの身にもしものことがあったら…」 絢那の声には焦燥が滲んでいる。だが祐宜は冷静だった。
「絢那、ここは辛抱のしどころや。ここで根競べに負けたら、ワイもお前も、お前の友達も命はなくなるで!」
絢那は歯を食いしばりながらうなずいた。「分かりました…」
そのとき、二人の視界に奇妙な男が現れた。全身銀色の輝くボディにきらびやかなマスク、さらに派手なマフラーを身にまとったその男は、まるでコスプレのような出で立ちの異星人だった。
「大宇宙の大いなる正義の使者、吾輩はミラージュマスク! 本日も正義を遂行するため、ここに参上したのである!」
「なんやアイツは!?」祐宜が目を丸くする。
ミラージュマスクは胸を張りながら、屋敷の正門に近づいていく。その手にはなぜか印刷された求人票が握られていた。
「うむ、どうやらこの屋敷がアルバイト募集の現場らしいな! 吾輩の正義の力を存分に発揮する機会だ!」
「先輩、あれ闇バイトの求人票じゃないですか?」 「どう見てもそうやな…いや、見事に引っかかっとるで!」祐宜は呆れたように頭を抱えた。
ミラージュマスクは胸を張って門をくぐろうとした。その瞬間——。
「ドカーン!!!」
爆破トラップが派手な音とともに作動し、炎と煙が上がる。ミラージュマスクは派手に吹き飛ばされ、地面に転がった。
「ぬおおおおお! まさか罠とは! なんと卑怯な! だが吾輩は正義の味方、これしきのことで屈しないのである!」
「アホやけど、ええ陽動にはなったわ」 祐宜はそう呟くと、絢那に目配せした。
「今や! 突入するで!」
「はいっ!先輩!」
二人は静かに茂みから飛び出すと、一気に正門を越えて屋敷の中へと突入した。背後ではまだミラージュマスクがもがきながら立ち上がろうとしている。
「待つのだ、吾輩も今そっちへ――むおっ、またもや罠か!」
そんな彼の声を背に、祐宜と絢那は真剣な表情で屋敷の奥へと進んでいった。彼らの前に待ち受けるのは、さらなる危機か、それとも――。
つづく。
コメント
なんだか兵庫介殿にやたらと認められているモブからの大出世、松川敦士くん、
>俺としては、もう少しアイツが大物に育ってくれてからの方が斬りがいがあるんだが
言ってることが何気に人斬りなんですけどこのオッサン…そしてその刃がまさに絢那ちゃんに迫ろうとしたその時!?
>「絢那をいじめるなァァッッ!!」
来ました我らが式神楓子ちゃん!?
そしてもう1人、頼れる先輩祐宜くん!
ここで兵庫介殿VS祐宜くん、楓子ちゃんVS伽羅殿も見てみたかったですが、それだとちょっと話が長くなりますからね、それに霊的存在の式神楓子ちゃん相手に術師ではない忍びの伽羅殿では完封されそうですからね…(伽羅殿が術を使えるなら話は別ですが
そしてようやく助けられる絢那ちゃん、一緒に吉野の老人の邸宅に連れていかれるまで期待してましたが、それまた話が長くなっちゃいますからね…💦
そしてところ変わって、とにかく色んなキモい要素をかき集めて作られたような吉野老人の前に連れて来られた松川敦士くん、また血統の話を出され南朝再興の旗印にされそうになるが…綺麗なお姉さんならともかく、こんなキモいジジイのまつり上げられるなんて嫌だよ…
再び断る松川敦士くん、それに激昂した吉野の老人、ああデジャブ…
>「麻呂に逆らうというのか! ならば、そなたには実力を以て従わせるしかあるまいのう!」
なんでお前らはいつも強引なんだよ、もう少し宥めるなり説得を続けるなりだな…
ああ哀れ、再び拘束され物置に放り込まれる松川敦士くん、汚ぇ物置だな少しは片付けろやジジイ…
そして松川敦士くんを助け出すために、吉野邸へと忍び込むチャンスを伺う検非違使達、
>「先輩、もう突入しましょう! こうしている間にも、松川くんの身にもしものことがあったら…」
ずっと思ってたのですが、この娘って考えなしに動くこと多いですね…祐宜くんいないと100回〇んでませんか?
まあ、そんな無鉄砲な娘だからよく捕まってくれるわけですけどね。
ここはチャンスを伺うべしと冷静に判断する祐宜くん、さすが年上のお兄さん!
そしてそのチャンスが…ってここでミラージュマスクとは、意外な人間が現れましたね、そしていつもながらの馬鹿っぷりで騒ぎをおこしてくれました…まあ良い陽動にはなってくれましたが。
まあ…ミラージュマスクも馬鹿ではありますが…堂々とチラシで闇バイト募集すんなよ吉野の老人…
> 来ました我らが式神楓子ちゃん!?
今回の楓子ちゃんのAIイラストですが、とても可愛らしく且つカッコよくてよく出来ていて、管理人は気に入っております。ちなみにオッドアイは上手く生成できなかったため、後から管理人の手で青い目を描き加えました。
> ここで兵庫介殿VS祐宜くん、楓子ちゃんVS伽羅殿も見てみたかったですが、それだとちょっと話が長くなりますからね、それに霊的存在の式神楓子ちゃん相手に術師ではない忍びの伽羅殿では完封されそうですからね…(伽羅殿が術を使えるなら話は別ですが
バトルシーンはAIに書かせる手もあるのですが、ご推察の通りそれだと話が長引いてテンポが悪くなるので省略しました。その代わり次回第6話(最終回)にて、祐宜くんと吉野の老人の割とガチバトルなシーン(勿論AIに書かせました…💦)をご用意しておりますので、バトルシーンが好きな方はお楽しみ頂ければと存じます。
> なんでお前らはいつも強引なんだよ、もう少し宥めるなり説得を続けるなりだな…
まあ悪党のすることですから。何せ堂々とチラシで闇バイト募集するような人ですし(;^_^A アセアセ・・・
> ずっと思ってたのですが、この娘って考えなしに動くこと多いですね…祐宜くんいないと100回〇んでませんか?
> まあ、そんな無鉄砲な娘だからよく捕まってくれるわけですけどね。
そうですとも! せっかくイラストのストックも溜まって来たことですし、これからも絢那ちゃんには懲りずに無鉄砲に動いてもらって敵の罠に落ちて捕まってもらわなければ!