テニスコートの玉砕
放課後の静かなテニスコート。橙色の夕日が部活の終わりを告げるように、コートを照らしていた。椿姫絢那はテニスラケットを片手に、汗を拭いながら部活動の締めを終えようとしていた。
「椿姫!」
ふと名前を呼ばれて振り返ると、男子テニス部の松川敦士がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。彼の表情は真剣そのもので、何か大事な話があるのだと直感的に分かった。
「松川くん、どうしたの?」
ラケットを抱え直しながら、絢那は問いかけた。
敦士は息を整え、一瞬視線を逸らした後、覚悟を決めたように絢那の目を見つめる。
「椿姫、俺と付き合ってくれ!……いや、付き合ってください!」
彼の声は夕暮れの空気を切り裂くように響いた。周囲の部員たちも気まずそうに距離を取り、二人を見守る者は誰もいなかった。
絢那は驚きのあまり一瞬固まった。松川敦士は女子の間で評判の良い男子だ。真面目で、運動神経も良く、誰にでも優しい。彼が告白してくるなど、絢那にとっても予想外のことだった。
だが、心に浮かんだのは別の感情だった。
「ごめんなさい…」
その一言に込めたのは、ただの拒絶ではなかった。絢那は自分の立場を痛感していた。彼女は椿嶺神社の跡取り娘であり、巫女としての責任を負い、さらに朝廷の密命を受ける検非違使でもある。法で裁けぬ悪を討つ任務は、いつ終わるとも知れない危険なものだ。
私生活で誰かと特別な関係を築くなど、許されるはずがない。
「ガ━━(;゚Д゚)━━ン!」
敦士はその場に固まった。頭では理解しているのだろうが、心が追いつかないのが明らかだった。彼の肩が落ち込み、沈痛な表情が浮かぶ。
「…あ、あの、松川くん?」
申し訳ない気持ちで、絢那は声を掛けた。しかし、敦士は苦笑を浮かべ、手を軽く振る。
「い、いや…何でもないよ。気にしないでくれ。今日のことは忘れてくれると、嬉しい…」
そう言いながら、敦士はフラフラしながら背を向けて去って行った。その背中には深い失意が漂い、絢那は胸が痛んだ。
(ごめんなさい、松川くん。でも、私にはどうしても譲れないものがあるの。)
絢那は握り締めたラケットを見つめ、自分の選んだ道の重みを改めて感じた。夕日がゆっくりと地平線に沈む中、彼女は静かに息を吐き、再び前を向いた。
それは、巫女であり検非違使でもある彼女の、決して揺るがぬ覚悟だった。
その様子を傍で見ていたのは、絢那の親友であり、同じテニス部の石上美紀だった。金髪のツインテールが揺れる美紀は、ラケットを片手に歩み寄る。
「ねえ、絢那」
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて、問いかけた。
「なんで敦士のプロポーズを受けなかったの?」
絢那は一瞬言葉に詰まりそうになったが、なんとか微笑みを作りながら答えた。
「べ、別に…そういうんじゃないから。」
「ふーん、本当に?」
美紀はニヤリと笑い、さらに絢那をからかうように声を弾ませた。
「あの緑髪の先輩のことが好きなんでしょう?」
絢那の顔が瞬時に赤く染まる。「緑髪の先輩」とは、京都凰晟館大学文学部歴史学科1年の孝森祐宜のことだ。絢那の高校にも時々顔を出す彼は、検非違使としての絢那のパートナーでもある。当然、そのことは誰にも明かせない秘密だ。
「違います。先輩とはそんな関係じゃありません!」
即座に否定する絢那。しかし、美紀はそんな彼女を見てますます笑顔を広げた。
「そうやって頑なに否定するところがますます怪しいんだよねー!」(・∀・)ニヤニヤ
美紀の揶揄に、絢那はため息をつきながらも苦笑した。夕日に照らされたテニスコートで、二人の笑い声が静かに響いていた。
指令
その夜、椿姫絢那は京都の静寂に包まれた屋敷へと足を運んでいた。そこは、朝廷の機密を担う桔梗局が居を構える場所であり、検非違使としての彼女が重要な任務を受けるために訪れる場だった。
屋敷の中に足を踏み入れると、木の床が静かに軋む音が響く。奥の部屋で待つ桔梗局のもとへ、絢那は祐宜とともに向かっていた。
「お局様、椿姫絢那と孝森祐宜、参上いたしました。」
絢那が襖の向こうに声をかけると、静かに「入りなさい」という桔梗局の声が返ってきた。二人は襖を開けて部屋に入り、畳の上で正座をする。
桔梗局は薄暗い部屋の奥に座しており、その目は冷静で鋭い光を宿していた。絢那と祐宜にとって彼女はただの上司ではなく、尊敬すべき存在でもあった。
「絢那、祐宜。」
桔梗局の声が静かに響く。
「最近、京都で10代後半の少年少女が相次いで行方不明になる事件が発生しているのは知っているわね。」
絢那は緊張した面持ちで頷いた。
「はい、報告書で目を通しました。」
「うん。それがやな、ちょっと厄介な話になっとる。」
横で腕を組んで聞いていた祐宜が口を開く。その声は飄々としているが、鋭いものを感じさせた。
「楠木党の名前が浮かび上がっとるねん。南北朝時代の南朝の流れを汲む忍軍やけど、最近はめっきり姿を見せへんかった。せやけど、この事件、どこかそいつらの臭いがする。」
桔梗局は祐宜の言葉を受けて頷き、さらに話を続けた。
「そう。この事件には彼らが関与している可能性が高いと見ているわ。絢那、祐宜、あなたたち二人には、この行方不明事件の調査と真相の解明を命じます。」
「はい。承知しました。」
絢那は深く頭を下げた。
「ほな、さっそく動き始めるか。絢那、お前の準備はどうや?」
「先輩、私はいつでも準備万端です。」
祐宜は口元に薄い笑みを浮かべながら立ち上がる。
「ええ心構えや。ほな、行こか。」
二人は桔梗局に一礼し、屋敷を後にした。月明かりが二人の影を伸ばし、冷たい夜風が頬を撫でる中、彼らは事件の調査に向けて静かに歩き始めた。絢那の胸の中には、不安と使命感が入り混じった複雑な思いが渦巻いていた。
つづく。
コメント
新年の初めてのストーリーはやっぱり巫女さん絢那ちゃん、そして早速容姿端麗、真面目で、運動神経も良く、誰にでも優しい…っという、ある意味特徴のない、どう足掻いても主人公の噛ませにしかならない松川君の告白を断る絢那ちゃん、罪な娘だ…
>「なんで敦士のプロポーズを受けなかったの?」
いきなりプロポーズは色々すっ飛ばしすぎだろ…っていきなりギャルジョーク(?)をかますのは、金髪美女の石上美紀ちゃん、また良いキャラが出てきましたね~、この娘はオタクに優しいギャルなのでしょうか?
絢那ちゃんの心の中にはやっぱり、あの緑髪の先輩…孝森祐宜くんが…って本当に髪の毛緑だったんですね…
それで早速桔梗局に呼び出される祐宜くんと絢那ちゃん、今年に入って初の検非違使のお仕事…ってこの世界はエターナルサマーでしたかね?
今度の敵は…楠木党…名前からして”悪党”ってのが解りますね、どんなキャラクターが出てくるのか楽しみですね!
> いきなりプロポーズは色々すっ飛ばしすぎだろ…っていきなりギャルジョーク(?)をかますのは、金髪美女の石上美紀ちゃん、また良いキャラが出てきましたね~、この娘はオタクに優しいギャルなのでしょうか?
松川敦士くんも今日のプロポーズに至るまで、いろいろな葛藤を乗り越えたり着実な布石を念入りに打ったりしてきたのでしょう。そして万全と思える準備と決意を得ての告白が玉砕したのですから、お気の毒さまでした。
石上美紀ちゃん、今のところ敦士くん同様モブ扱いですが、人気が出てきたらレギュラー化の道もあり得るかもしれませんね。
> それで早速桔梗局に呼び出される祐宜くんと絢那ちゃん、今年に入って初の検非違使のお仕事…ってこの世界はエターナルサマーでしたかね?
その通りです! 肌の露出が少ない長袖厚着がまかり通る秋や冬が物語の舞台になるなんてありえねー!💢…と言いたいところですが、祐宜くんも絢那ちゃんも秋服の設定はあるんですよね。真冬は無理でも春や秋ならセーフかもですね。
> 今度の敵は…楠木党…名前からして”悪党”ってのが解りますね、どんなキャラクターが出てくるのか楽しみですね!
Leonardo.AiのモデルLeonardo Anime XL(Character sheet)のおかげで忍者系(くノ一含む⇦ここ重要)のイラスト素材を大量生産できました。楽しみにお待ちくださいませ。
今度は、ちょっとラブコメ要素込みな展開になりそう・・・
楠木党・・・もしや悪党と言われたあのお方のご無念晴らすべく・・・?
> 今度は、ちょっとラブコメ要素込みな展開になりそう・・・
管理人はDIDやGIDも好きですが、同じくらい青春ラブコメも大好きなのです( ̄ー ̄)ニヤリ
> 楠木党・・・もしや悪党と言われたあのお方のご無念晴らすべく・・・?
かの大楠公の流れを汲む忍者集団も、時代が流れるにつれて金次第で暗〇や誘拐も請け負うテロリスト集団に堕ちてしまったのでしょうか? それとも……。