友貞稜太の場合 その一(前編)

旧ブログからの転載
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※この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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作:あきねこ 様

 その日、下校する稜太の足取りは軽やかだった。家で母の手作りケーキが待っていることを知っていたからだ。

(母さんがお菓子作ってくれるの、久しぶり!)

 別に記念日というわけじゃない。母が突然そんなことを言い出したのは、きっと最近の稜太の変化に気づいたからなんだろう。
 父は有名な病院に勤務する、腕のいい医者だ。元々忙しいのに最近は特に忙しくて、帰宅はできてもすぐに病院に戻るような状態が続いていた。
 稜太は厳しい父の言いつけに従って早く就寝しているから、父とは顔を合わせない日々が続いている。
 それが当たり前だと思っていた今まで――
 けれどある日、稜太は違和感を覚えてしまった。寂しい、というのとは少し違う気がする。自分の胸に湧いた気持ちが、まだ十二歳の稜太にはうまく言葉にできなかった。父さんが嫌いなわけじゃない。それは間違いないのに。
 ただ、もどかしい。
 でも今日はそんな気持ちも忘れられた。母が台所に立つイメージが稜太のまぶたの裏にある。

(ケーキなんていつもは父さんが許してくれないもんね)

 どんな甘いお菓子が待ってるだろう。考えると稜太の足は羽根が生えたようになる。
 帰り道は一人だった。同じ学校の生徒たちはみんな迎えがくるけれど、稜太の父はそれぐらい一人でできなさいと言った。いつも父の強い言葉を押し返すように胸を張って歩く道を、今日は無邪気に、足早に進む。
 声をかけられたのは、そんなときのこと。

「友貞稜太くん!」
「――え?」

 稜太は何気なく振り返った。

友貞稜太イラスト作成は、冬乃春雨様。背景は、みんちりえ( https://min-chi.material.jp/ )様のフリー素材より拝借しました。

 後ろの道の角から大きな黒塗りの車が顔を出して停まっている。そこから知らない男が駆けてきた。丸顔の、人の好さそうなその男性は、青くなった顔を真剣に稜太に向けた。

「――友貞先生の息子さんだね。私は友貞先生と同じ病院に勤める鈴木という者だが」
「あ……」

 稜太はたじろいだ。父は滅多に仕事仲間に稜太を会わせてくれない。どうしたらいいか分からない――ケーキのことなど吹き飛んだ稜太に、鈴木は早口で告げる。

「お父さんが病院で倒れたんだ。お母さんはもう病院に向かっている。君もすぐに来てほしい……このまま私の車で送るから」

 ――父さんが?

 ただでさえ真っ白だった頭に、その言葉がガツンと重く叩きつけられる。
 父の顔が閃くように脳裏に浮かぶ。その顔がなぜかぼやけていることに気づき、稜太は息が止まるような思いをした。父と何日も会っていなかったことを改めて思い、胸が引き絞られるように不安を訴える。
 そうだ。父さんは忙しかったんだ。
 ぐるぐると目が回った。父の顔を鮮明に思い出せないことが恐くてたまらなかった。一刻も早く父の顔が見たかった。鈴木に腕を取られ、放心の体で黒塗りの車に乗り込んだ。運転席にもう一人知らない男がいるのがちらと見えたけれど、一瞬で混乱した頭の中に消えていった。
 鈴木が隣に座った。重いドアが閉まった。いい子だね、と囁く声が聞こえた。全ては一瞬だった。
 突然襲ってきた、口を塞がれるような息苦しさ。そして得体の知れない甘い芳香――

 途切れ行く意識の片隅で、ただ車が発進する音だけが、かすかに聞こえた気がした。

後編へ続く。

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