作:有栖川飴璃 様
目に眩しくないイエローのTシャツに、純白のショートパンツ。
豊かな黒髪を耳の後ろで、きっちり二つ結いにした女性─まだ少女と表現出来る幼さのある─が、先程から電柱にくっついている。
藤永沙織。穏やかな印象と可憐さを持ち合わせている、十九歳の大学生。
彼女の目的は、前方を行く中年男。
彼はどうやら、友人のストーカーであるらしい。
推理小説を愛している沙織は、探偵の真似事で尾行をしているところだった。
男が路地裏へ曲がる。慌てて沙織も後を追った。
すると、なんと男が待ち伏せていたではないか。
驚いて声も出ない沙織。この辺りは空き家が多い。その一棟に、強引に引き込まれた。
麻縄で、震える沙織を縛っていく男。皮膚に触れるきつい感覚が、恐怖を増幅させていく。
「私を縛って、どうする気ですか……ッ。解いてください!」
この男は、友人のストーカーの筈。それなのに、沙織を見下ろす目はぎらぎらとしているではないか。
「お嬢ちゃん……可愛いね。君のお友達よりも、気に入っちゃったよ」
ストーカーだけあって、友人の人間関係は把握していたのだろう。少なくとも、沙織と友人の繋がりは知っているみたいだ。
「早く、家に帰してッ」
「ちょっと、うるさいなぁ。……お口を、塞いであげるね」
そう言って、男は布を持ち出した。それを、抵抗する沙織に無理矢理噛ませる。
「んんーっ、ふぅ……ッ、んむー!」
「うんうん。中々似合ってるよ、猿轡」
善行でもしたかのような表情の男を、恨めしく見上げる沙織。
どうしよう、これじゃ助けも呼べない……ッ。
沙織が心中で嘆いたと同時である。男がふと思い出した風に目線を外した。
「野暮用を忘れてたよ、行ってくるね」
ペットを相手にしているつもりなのだろうか。
とても気軽に、男は出て行く。閉まった扉の音を聞き、沙織は茫然としていた自分を振り払った。
大好きな探偵達は、どんなピンチも乗り越える精神を持っている。
沙織は冷静に、周りを見渡した。散々とした室内。
壁から、建付けの際に使う釘が中途半端に出ていた。
芋虫のように移動して、釘へ麻縄を擦り付ける。何度も。
すると、音を立てて漸く千切れたではないか。急いで、身体を束縛している全ての麻縄を取り払う。
最後に、猿轡も解く。
「早く、逃げないと……!」
もしも中年男が戻ってきて鉢合わせになったら大変だ。
沙織は、裏口から逃げることも忘れない。
走って助けを求めに行く最中、恐怖と興奮に脳は支配されていた。
コメント
これは懐かしい話ですね、続きを書かせて頂いたのを思い出しました。
つづくっていうことは…あの文も載せて頂けるのでしょうか…?
改めて読んでみると…
「立ち上がり窓を叩こうにも、手を後手に縛られているだけでなく、別の縄で足首の縄に連結されている、逆海老反り状態、所謂ホッグタイという縛り方で拘束されていた。
沙織の出来ることといえば身を捩り縄を軋ますぐらいで、身を起こし窓を叩くことなど出来る筈もない。」
この部分が邪魔ですね…そもそもホッグタイがおかめ御前様の趣味ではなかったですからね…
ここを除けば、http://okamenogozen.blog.fc2.com/blog-entry-293.htmlを背景にしてのhttp://okamenogozen.blog.fc2.com/blog-entry-428.htmlの沙織ちゃんを横向きで挿絵とか作れるかなって思いました。
むしろあの文を廃棄しての、おかめ御前様の新たなオリジナルの沙織ちゃんピンチストーリーを読んでみたい気もします。
はい、旅鴉様に書いていただいたあの続きのストーリーも「続・探偵の災難」として載せる予定です。お察しの通りホッグタイ部分は改変させていただきます。すみません…。
他にも旧ブログのコメント欄に投稿されたSSも、随時新ブログに転載していく計画です。