本編
ここは、シェヴューツァンド王国とサファガ帝国の国境を管理する検問所であるセバロス砦。
今まさにキャラバン隊が通行手形を役人に提出してまんまと通過してしまおうとしていたその時、後方から追いついて来たシャイン王子一行がキャラバン隊を呼び止めた。
「その行商隊待てェェィッ!!」
「…な、何事でございますか!?」
「その行商隊の荷に不審の点あり! 王子の命により荷を改める!!」
「畏まりました。どうぞお調べを」
意外なことにあっさり素直に取り調べに応じるキャラバン隊。直ちにシャイン王子配下の兵士や関所の役人たちが荷改めを行うが、どこにも連れ去られた鳳凰院優の姿はなかったのである。
「王子、奴らの荷物を隅々まで調べましたが、特に怪しい点はありませんでした」
「………」
部下からの報告を聞いて、シャインは何かを深く思案するように暫し沈黙する。
「どうやら疑いも晴れたようでして。それでは私どもはこれにて」( ̄ー ̄)ニヤリ
キャラバン隊は国境を越えてサファガ帝国側へと立ち去ってしまった。
「王子、よろしかったのですか…」
「ああ構わん。僕の読みが正しければ、おそらく今頃ユウさんは…」
一方こちらは、セバロス砦へと続く道の手前の分かれ道で別の方向へと進んだ先にあるビガン岳である。この丘の上に、キャラバン隊に成り済ましていた筈のサファガ帝国工作員部隊の一人である時空魔法士と、地面に打ち立てられた杭に縛り付けられている鳳凰院優の姿があった。どうやらセバロス砦に辿り着く直前で別行動を取っていたようだ。
「んんっ、んんーん。んんっんーんっ!!」
口に猿轡を噛まされたまま丸太で出来た杭に鎖で巻かれてしっかり固定されている優。その周りの地面にサファガ側の時空魔法士は何やら時間をかけて魔法陣のようなものを杖を使って描いている。
セバロス砦の検問所で荷改めがあることを事前に予測していた工作員たちは、本隊が囮となって荷改めを受けている間に、少し離れた別の場所で転送魔法を使って優の身柄をサファガ帝都まで送ってしまおうと画策していたのである。
「ふぅーっ、ようやく魔法陣は完成したぞ。ここからの距離なら帝都までの転送も十分に可能だ」
「んんんぐむぅーっ!!」
「シェヴューツァンドのバカ王子がキャラバン本隊に気を取られている間に、これから転送魔法の詠唱を始めるぞ! 異世界から来た娘よ、これからはお前も偉大なる邪神アルドーにその身を捧げるのだ!」
いよいよ時空魔法士が転送魔法の術式を開始しようとしていたその時、突然魔法陣が白く眩い光を放った!
「な、何だ!? 私はまだ詠唱を始めていないぞ!」
「んんんぐぅ~!?」
なんと光り輝く魔法陣から現れたのは、小寺洸介だった!
「な、何者だお前は!?」
「んんっ!?(小寺くん!?)」
「テメーが悪者だな!? 食らえコノヤロォ!!」
「ひ…火の聖霊よ、邪神アルドーの名の下に力を……ぐぼわぁぁっ!!!!」
時空魔法士がファイアーボールの魔法の呪文詠唱を終えるよりも先に、洸介の繰り出したストレートパンチが相手の脇腹に炸裂した。どうやら攻撃魔法は得意でも腕っぷしの方はさっぱりだったらしい時空魔法士は、口から泡を吹いて気を失い倒れている。洸介はすぐに優を拘束していた鎖を解いた。解放されて自由になった途端に洸介に抱き着き号泣する優。
「ゆ、優…??」
「小寺くん、怖かった、怖かったよぉぉ!! でもきっと助けに来てくれるって信じてたァァッッ!!」
「遅くなってごめんな。怖かったよな。もう大丈夫だから…」
洸介に優しく介抱され、ようやく彼女は泣き止んだ。
「…(´Д⊂グスン。でもどうしてここが分かったの? そもそもどうやってここに…?」
「シャイン王子のおかげさ。王子は最初からキャラバン本隊は囮で、優は国境検問所の直前で別行動で引き離されて、時空魔法で帝国側に送られるだろうと予測していたんだ。だから俺はシェヴューツァンド王国の時空魔法士の力で敵の時空魔法の発動地点を探知してここまで転送してもらったって訳さ」
「何だかよく分からないけど(´Д⊂グスン…とにかくありがとう。(´Д⊂グスン」
エピローグ
こうして事件は無事に解決し、数日経って満月の夜を迎えた。
導きの洞窟入り口で洸介と優はシャイン王子とその直属の騎士団から見送りを受ける。
「いろいろとお世話になりました」
「こちらこそコウスケさんとユウさんのおかげで、サファガの工作員の時空魔法士を一人生け捕りにすることが出来ました。捕虜にした工作員を材料に今後の対サファガの外交交渉もおかげで優位に進めることが出来るでしょう」
「そいつは何よりだ。俺も少しはお役に立てたのかな」
「洞窟の中は一本道です。このまま奥まで進んで行けば貴方たちの世界へと帰れるはずです。お二人には魔法の暗示をかけさせていただいたので、向こうの世界に着く頃には自然とこちら側の世界のことは全て忘れている筈ですが…」
「シャイン王子、いつか地球とヘイファロレアが平和に交流できる日が来ることを祈っています」
「ありがとう。どうか2人ともお元気で」
こうして学生報道部2人きりの短い間の異世界大冒険は終わった。無事に地球へと帰った洸介と優は、異世界ヘイファロレアでの出来事は全て忘れてしまったが、彼と彼女の心の奥底には、異世界での思い出がしっかりと刻み込まれていることだろう。
次回予告?
一方、小寺洸介と鳳凰院優が異世界取材をしていた頃、お留守番をしていた桜庭陽平は?というと…。
「…ふ、ふんッ!! 別に寂しいなんてちっとも思ってなんかいないんだからな!」
元来オカルトに否定的な陽平は、今回の洸介と優の取材活動に同行はしなかったのだが、「本当は自分も一緒に行きたかった」などど決して口に出すつもりはない所謂ツンデレ的な心境にあったのだが、気を紛らわせるために外へ散歩へ出かけた先でポニーテールの綺麗なお姉さん・笹南侑衣梨と偶然すれ違う。
「ごめんなさい! このUSBメモリをこの先にある喫茶店Lilyに届けて!」
「…えっ!? ちょ、ちょっと!!」
何者かに追われているらしい侑衣梨は、陽平に持っていたUSBメモリを押し付けるとどこかへ走り去ってしまう!
洸介と優が不在の間、陽平もまた別の事件に巻き込まれようとしていた。
COMING SOON
コメント
イヤよイヤよは好きのうちと申しますが、オカルト嫌いの陽平君も心の奥底ではその世界を見てみたいという気持ちは持っているのかもしれませんね。
次回は洸介君と優ちゃんが異世界ライフを送っている一方で陽平君は現実世界で鷹松優姫刑事と笹南侑衣梨婦警の両手に花状態で事件に巻き込まれるということになりそうですね。そして、異世界から帰ってきた二人は陽平君と再会するや魔法の暗示が一部解けてシャイン王子のことを思い出すということになりそうです。
> 異世界から帰ってきた二人は陽平君と再会するや魔法の暗示が一部解けてシャイン王子のことを思い出すということになりそうです。
思い出すことはないでしょうが、帰って来た洸介と優が陽平の顔をまじまじと見つめて———
洸介「なんか向こうで取材中もずっと桜庭と一緒にいたような気がする…」
優「私も取材先で危ないところを桜庭くんに何度も助けられたような気がするわ…」
陽平「???」
———みたいなやり取りはあるかもしれません。
謎のUSBメモリ・・・まさか地球の記憶が内蔵されて・・・・!?(すいません、平成で一番好きな仮面のバイク乗りなんですw)
侑衣梨ちゃん・・・女スパイか女盗賊か・・・
久しぶりに、華村ももさまにイラスト頼みたくなりました!
> 謎のUSBメモリ・・・まさか地球の記憶が内蔵されて・・・・!?(すいません、平成で一番好きな仮面のバイク乗りなんですw)
風都探偵のアニメももうすぐ始まりますね。
ファンタジー世界特有のテレポート誘拐、シェヴューツァンド王国から追ってきたシャイン王子を見事に出し抜き、今まさに優ちゃんを本国に転送しようとしている時空魔法士…サファガ帝国に飛ばされた優ちゃんにどんな運命が待ち受けているのか…物語は新たな展開に…
…って、そんなに話を盛ってしまったらライトノベル並のロングストーリーになっちゃいますよね…(^-^;)
まさかの魔法陣からヒーロー登場、王子の方が一枚上手、最初から策を見抜かれていたサファガの工作員に意外なカウンター
魔法陣の光の中から登場した洸介くん、ポッ〇じゃあるまいし、基本魔術師は接近戦では弱いもの、呪文詠唱される前に先制物理攻撃、改めて思うのですが洸介くんは割と武闘派ですね。
無事優ちゃんを助け、何とか元の世界に帰れることになり、めでたしめでたし!
さて、その頃…元の世界の方では、お留守番ボッチの陽平くんが、ポニテ美人のお姉さんとイチャイチャ展開…ではなく、自分の推し捕らわれヒロイン侑衣梨ちゃんが、またも大事件に絡んでる模様…そしてそのとばっちりで陽平くんが事件に巻き込まれる予感…
また久しぶりに侑衣梨ちゃんがとある組織に捕らわれの身になってしまう展開ですね、そして優姫さんと陽平くんとの絡みも…そして元の世界に帰って何日間の記憶が飛んでるであろう洸介と優ちゃん(時間の進み方が地球と違うかもしれませんが)、何がなんだか解らないうちに帰って早々新たな事件…学生報道部にはまだまだ退屈しない日々が続きそうですね(笑
> 自分の推し捕らわれヒロイン侑衣梨ちゃんが、またも大事件に絡んでる模様…
笹南侑衣梨を応援して頂きありがとうございます!
彼女の活躍を期待してお待ちください。