BRAVERS EDITION　episode.66

急遽、崖崩れ現場の対処に出かけた牧村光平たちの留守を狙って、妖魔結社ザイザムが沢渡優香やフィリス=ミラ=エクセリアたちの残る霧深温泉郷のホテルを襲撃した！

※文章は、chatGPTで生成しております。

奈落の底からの脱出

足元が崩れ落ちるあの瞬間の感覚が、まだ全身にこびりついていた。

落下。衝撃。そして闇――
加藤段十郎は、昨夜、黒百合と百合鴉のアジトとされる山荘に踏み込んだ直後、予想だにしなかった罠に嵌められた。

古びた床板の下に仕掛けられていた深い落とし穴。
しかし運命は、彼にまだ“役目”を終えさせようとはしていなかった。

「……くっ……！」

中ほどで崩れた古い梁と木材に、肩と腰を挟まれる形で辛うじて宙づり状態になり、地底まで真っ逆さまという最悪の事態は免れた。とはいえ、身動き一つにも激痛が走る。
そこから脱出するまでの十数時間は、まさに地獄だった。

冷気と湿気が染みる穴の中で、段十郎は傷だらけの身体を少しずつ動かし、木材をどけ、梁を押しやり、自らの肉体と精神を削りながら出口を探した。
助けは来ない。叫んでも、山中の夜に声が吸い込まれるだけだ。

だが――彼はあきらめなかった。

「……まだ……終われるかよ……！」

拳を握りしめ、痛む腕に力を込める。
やがて、朝の光が地上から差し込んできた頃――
段十郎は、血と泥にまみれながらも、自力で穴の縁に手を掛け、這い上がった。

そして、今。

「……静かだな」

正午を回った陽光が、山荘の薄汚れた窓から差し込む中、段十郎は改めて建物の中を慎重に探索していた。

昨夜は罠に気を取られたあまり、山荘の内部をまともに見られていなかった。だが今は違う。
戦場帰りの獣のような目で、段十郎は家具の隙間、壁の彫り、床板の軋みまでを一つ一つ確かめていく。

「……あの二人、黒百合と百合鴉……今は外出中ってとこか？」

廊下を進んでいた段十郎は、ふと足を止めた。

静まり返った建物の中――
それでも、確かに感じる。空気の違い。息遣いの気配。壁越しにかすかに聞こえる、抑えられた呻き声。

「……この部屋か」

傷ついた体に鞭を打ちながら、段十郎は慎重にドアノブに手をかけた。金属の冷たさが、神経を研ぎ澄ませる。

ギ……と、音を立てないようにドアを開ける。

中には、かすかな光が差し込むだけの薄暗い部屋。
埃の積もったカーテン越しに見えたのは――

「っ……！」

床に座らされたまま、手足を縛られ、口を塞がれていた若者たち。
その目には疲労と怯え、そして驚きが宿っていた。

「動くな。今、すぐに縄を解く」

段十郎は身を低くして部屋に飛び込み、手際よく縄と布製の猿轡を外していく。

「た、助けてくれてありがとうございます。」

「あなたは…誰なんですか…？」

助け出された4人は、大学生らしき若者たちだった。
スポーツマン風の体格をした小寺洸介。冷静沈着な雰囲気の桜庭陽平。お嬢様のような佇まいを見せる鳳凰院優。そして茶髪ポニーテールの快活な少女、漆崎亜沙美。

「アスカロン財団・特務エージェント、“ライトシーカー”の加藤段十郎だ。お前たちを助けに来た」

「アスカロン財団……！？ あの、スーパーヒーローを支援しているっていう……？」
優が泣きそうな顔でそう言い、段十郎はうなずいた。

「この山荘にはまだ敵が潜んでる可能性がある。手短に聞かせてくれ。……銀髪の若い女を見なかったか？」

「銀髪……？」

段十郎の問いに、学生たちが顔を見合わせる。

「あ……たぶん……」
真っ先に口を開いたのは桜庭だった。

「昨日……その、俺たちがこの部屋に閉じ込められて間もなく、銀髪の女性が一人、助けに来たんです。でも、百合鴉って女に見つかって、逆に捕まって……！」

「拘束されるときにスタンガンを押し当てられてたみたい。背後から襲われて、抵抗する暇もなかったみたいで……」
亜沙美も悔しそうに言った。

「リネア……！」

段十郎の顔が険しくなる。彼の相棒――リネア＝フリーデン＝ヴァイサー。
類い稀な魅了能力を持つ銀髪の女性エージェント。彼女が捕らえられているという情報は、心臓を鷲掴みにされたような感覚を彼にもたらした。

「その後、リネアさん――多分その人だと思うんですけど――は連れて行かれたっきりで、僕たちもそれっきり何も……」

「どこへ連れて行かれたか、分かるか？」

「い、いえ……ただ、一度だけボスらしい女が『霧深温泉のホテルに行く』って言ってたのを聞いたような……」

「霧深温泉のホテルか……」

段十郎は小さくうなずくと、一度その部屋から出て山荘内をくまなく調べ回り、すぐに戻って来て手早く4人に状況を説明する。

「今は山荘に敵の姿はないが、戻ってくるのも時間の問題だ。お前たちはこのままここを離れて、山道を下って警察の駐在所を探せ。俺は――霧深温泉に行く」

「でも、あの……！」

洸介が何かを言いかけるが、段十郎の目が静かに、しかし強くそれを制する。

「俺の“相棒”が、まだ捕まってるんだ。悪いがお前たちと一緒について行ってはやれん。大の男が二人もいるんだ。お前たちが仲間の女の子をしっかりと守ってやれ！」

そう言い残すと、段十郎は振り返ることなく、洸介たちより先に山荘を後にした。

「どうする、小寺？」陽平が、洸介にこれからどうするかを相談する。

「………」深く何かを考え込む洸介…。

詩郎の帰還

霧深温泉郷のホテルでは、一見静けさを取り戻していた――ように見えた。

だがその静寂を破って、紫色の機獣――サーベルタイガーレギウスが、山道を駆け抜けホテルの裏手に姿を現す。変身が解け、その中から現れたのは、紫髪の青年――寺瀬詩郎だった。

「はぁ……はぁ……」

額にうっすらと汗を滲ませ、息を切らしながらホテルの玄関を押し開ける。中は意外なほどに静かで、崩れや混乱の跡も見えない。フロント付近には、見知った顔――沢渡優香と錦織佳代がいた。

「……詩郎くん！？」

「詩郎！？　どうしたの！？　光平や俊一たちと一緒に崖崩れの現場に向かったんじゃなかったの！？」

二人が駆け寄ってくる。

「ハァ……優香さん、姐あねさん、無事か！？ ああ……よかった……」

思わず膝に手をつき、安堵の息を漏らす詩郎。彼の胸の奥にあった不安が、二人の無事な姿に少しだけ和らぐ。

「気になることがあって……途中で引き返してきたんだ。他のみんなは……？」

「奥のロビーにいるわよ。お客さんもようやく落ち着いてきてくれて……」
優香がやや微笑みを浮かべ、そう応じた。

「……そうか」

詩郎は一礼し、ロビーへ向かおうと一歩を踏み出す。

その瞬間――

「――っ！！？」

背後から鋭く迫る気配。振り返る間もなく、優香と佳代が飛びかかってきた！

「な、何をするんだ二人とも！？💦」

咄嗟に身を引き、詩郎は二人の蹴りと掌打をかわす。足場を取って構えを取ると、目の前の“彼女たち”の瞳に、一切の感情が宿っていないことに気づく。

「……お前ら、優香さんや姐さんじゃないな！？」

鋭い視線で睨みつけ、低く問い詰める。

「本物の二人をどこにやった……！」

しかしその問いに、女たちはただ嗤うだけだった。

「フフフフフ……」
「アハハハッ……詩郎ったら、鋭いわね」

次の瞬間――彼女たちは顔を覆っていた変装マスクをバリッと剥ぎ取り、同時にその身を包んでいた衣服を一瞬で脱ぎ捨てる。

現れたのは、深いガーネット色の戦闘服に身を包んだ、妖魔結社ザイザムの戦闘員たち。

その装束には、胸部の黒い蝙蝠を模った紋章が怪しく際立っている。

暗号を送れ！

暗く静まり返ったロビーに、緊迫した空気が張り詰めていた。
黒ずくめの戦闘員たちと一進一退の格闘を繰り広げていた寺瀬詩郎は、突如現れた女の声に動きを止める。

「――そこまでだよ、寺瀬詩郎、いや…サーベルタイガーレギウス！」

悠然と現れたのは、全身を深紅と黒のコートで包んだ、頭部に二本の角を生やした妖艶な美女。不気味な青白い肌と、冷たい紫の瞳が印象的な女――戦略諜報参謀ビオベミラだった。

「……誰だお前は……！？」

詩郎が憎々しげに名を呼ぶと、女は愉快そうに笑った。

「我が名は、妖魔結社ザイザムの戦略諜報参謀ビオベミラ。寺瀬詩郎、お前は忘れてるでしょうけど、私はお前が悪の組織にいた頃にも一度会ったことがあるのよ」

「――何っ！？ 貴様、俺のことを知ってるのか！？」

「ええ。でも――もう終わりよ。あなたの仲間たちも、ホテルの宿泊客も、すでに私たちの手中にあるのだから」

詩郎の表情が凍りつく。

「なん…だとっ！」

「お前一人で、何人を守れると思う？　一人でも傷つけられたら、それはあなたの責任。そうでしょう？」

じわじわと詩郎の心を責め立てるビオベミラ。彼女の背後では、戦闘員たちが鎖で拘束された宿泊客たちを連れて現れ始めていた。

詩郎は歯噛みしながら拳を握る。

「くっ……卑怯な……！」

そのとき――
突然、詩郎のスマートフォンが着信音を鳴らした。液晶画面には「獅場俊一」の名前が表示されている…。

「電話？ ふふっ、いいタイミング。出なさい」

ビオベミラは冷たい笑みを浮かべながら命じた。

「……分かっているね？　余計なことを喋ったら、人質がどうなっても知らないよ？」

「……くっ、分かってるよ!!」

詩郎は深く息を吸い、電話に出た。

「もしもし、詩郎か？　そっちの様子はどうだ？」

俊一の明るい声。詩郎は一瞬、言葉を探した末、押し殺すように答える。

「すまない……俺の勘違いだったみたいだ。ホテルには何も異常はない。みんなも無事だ」

「……なんだよ。お前がいきなり『ホテルの方が心配だ』とか言い出して引き返すから、びっくりしたんだぜ」

「その……すまん」

「まあいいさ。こっちも復旧作業は無事に終わった。もうじき俺たちもホテルに戻るから」

「……俊一！」

詩郎の声に、俊一は一瞬言葉を切る。

「ん？　どうした？」

「おい、人質がどうなってもいいのか？ 余計なことを喋るんじゃないよ……！」

ビオベミラが小声で威圧してくる。詩郎はわずかに目を伏せ、だが次の瞬間、抑えた声で言葉を放つ。

「そっちは気をつけろよ……こっちは“カマイタチが出た”みたいだからな」

「……えっ??　ん、ま、まぁ……分かった。それじゃあまたあとでな」

俊一は一瞬戸惑いながらも、適当に曖昧な返事をして、電話を切った。

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――数分後、崖崩れの復旧が終わった山道の現場では。

「――でさ、詩郎が電話で、なんか変なこと言ってたんだよ」

俊一は、肩に巻いたタオルを外しながら、牧村光平と稲垣千秋に語っていた。

「『カマイタチが出た』って……何の冗談だよ、全く意味が分からなくて……」

「“カマイタチ”って、あの風の妖怪のこと？　風もないのにそんなの出るわけ……」
千秋も、やや呆れたように眉をひそめる。

だがそのとき、光平がふっと表情を引き締め、低く呟いた。

「……いや、詩郎のやつ、暗号を送ってきたんだ」

「えっ？」

「“カマイタチ”ってのはな……」
光平はポケットからスマホを取り出し、数年前のネットニュースの記事を開きながら続けた。

「かつて中近東の地域で某テロ組織が行った“人質籠城作戦”のコードネームがそれだ。“カマイタチ”＝“建物ごと占拠し、人質を取って敵の動きを封じる”――そういう作戦の隠語だったそうだ」

「なっ……！」
俊一と千秋が驚愕に目を見開いた。

「詩郎はそれを思い出させることで、**“ホテルが敵に占拠され、人質が取られている”**ってことを、俺たちに知らせようとしたんだ」

「……そんな……！　じゃあ、詩郎くんは勿論、他のみんなも今、敵の中に……！？」

ホテルに残っている仲間たちの身を案じる千秋。その時、そんな光平たちに何者かが声をかけて来た。

「その通りだぜ！」

「誰だ！？」「あ、あなたは…！？」

光平、俊一、千秋の3人の目の前に現れたのは、ライトシーカーの加藤段十郎であった。

つづく。

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