BRAVERS EDITION　episode.163

安土市内で小学生誘拐事件が発生。幸い程なくして被害者の友貞稜太ともさだ りょうたは無事に救出されるが、稜太は自分を助けに来た者たちの中に、同じクラスメイトの桐橋勇人きりはし はやとの姿を目撃していた。稜太から相談を受けた親友の稲垣健斗いながき けんとは、勇人に直接問い質すべく森の中で彼と対峙する。勇人から話を聞いた健斗は、ブレイバーズ関係者の個人情報が外部に漏れていると確信。詳しく調べるため、その足でブレイバーズ本部セントリネル・ハブへと向かい、稜太の父・友貞利彦ともさだ としひこ上席主任研究員にも会って話を聞くが、大した手掛かりは得られなかった。その翌日、健斗や稜太の通う小学校に勇人に続く新たな転校生・相模路香さがみ みちかが現れた。再度稜太が狙われると読んだ路香と健斗は、まんまと勇人を出し抜いたうえで稜太と健斗を入れ替え囮作戦を実行する。

※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。

囮作戦

ランドセルを背負い、夕暮れ近い住宅街を一人で歩く少年――友貞稜太。
その足取りはどこか心許なく、時折きょろきょろと周囲を見回しながら、家路を急いでいるように見えた。

だが、その「稜太」は本物ではなかった。
十数分前、本物の稜太と衣服を取り換え、顔立ちも声色もそっくりに化けた稲垣健斗だった。

（……来るなら、そろそろだな）

健斗は内心でそう呟いた、その瞬間だった。

キキィ――。

不自然なブレーキ音とともに、黒いワゴン車が歩道脇に滑り込む。
同時に、四方から黒サングラスに黒スーツ姿の屈強な男たちが現れ、稜太（健斗）を囲んだ。

「坊や、友貞稜太君だね？」

低く、感情のない声。
健斗は一瞬だけ唇を噛み、すぐに怯えた子どもの表情を作る。

「……お、おじさんたちは、だれ……？」

次の瞬間、背後から気配が迫った。
冷たい金属の感触が、背中に押し当てられる。

「ひっ……！？」

わざと震える声を出す健斗。

「声を出すな」
男の声は淡々としていた。
「大人しくそこの車に乗れ」

逆らう素振りを見せる間もなく、健斗はワゴン車の後部座席へと押し込まれた。
ドアが閉まり、車はすぐに発進する。

窓の外を流れていく見慣れた住宅街。
それを横目で追いながら、健斗は心の中で冷静に状況を整理していた。

（よし……完全に食いついたな）

やがて車は人気のない倉庫街の一角で止まり、健斗は男たちに連れられて建物の中へと引きずり込まれた。

薄暗い監禁部屋。
床はコンクリート剥き出しで、湿った空気が肌にまとわりつく。

健斗は床に座らされ、両手をロープで後ろ手に縛られた。
さらに口にはガムテープが貼られ、声を出せないようにされる。

「うっ……ううっ……」

健斗はわざとらしく肩を震わせ、泣き真似をした。
それを見た黒服男は満足そうに口の端を吊り上げる。

「フフフ……しばらくそこでいい子にしてろよ？」

ガチャン、と無骨な音を立てて扉が閉められる。
外から鍵が掛かる音が響き、男たちの足音が遠ざかっていった。

しばらく、健斗はそのまま動かなかった。
呼吸を整え、耳を澄ませる。

……人の気配は、ない。

「…………（さてと）」

健斗は次の瞬間、身体をくねらせ、指先を器用に動かす。

――縄抜けの術。

数秒後、ロープは床に落ちていた。

「雑な縛り方だな」

口からガムテープを剥がして立ち上がった健斗は、軽く跳躍し、天井の点検口に手を掛ける。
音を立てないように蓋を押し上げ、そのまま天井裏へと滑り込んだ。

埃と木材の匂いが鼻を突く。
暗闇の中、健斗は忍び足で天井裏を進み始めた。

（あの黒服どもが集まってる部屋……どこかに必ずある）

獲物はすでに巣の中。
あとは――真相を掴むだけだった。

敵の目的

天井裏は、ひんやりとした埃の匂いに満ちていた。
稜太――否、稲垣健斗は、腹ばいになったまま慎重に進み、目的の位置でぴたりと動きを止めた。

下方に、微かな声。
健斗は点検口の扉に指を掛け、息を殺してほんの数センチだけ持ち上げる。

きぃ……という音すら立てない、忍びの所作。

覗き込んだ先には、薄暗い部屋と、黒スーツの男たち。
その中心に立つ男――他よりも態度に余裕があり、部下たちが一歩距離を取っている。どう見てもリーダー格だった。

男はスマートフォンを耳に当て、愉快そうに口角を吊り上げている。

「フフフッ……ブレイバーズめ。まんまと囮に引っ掛かったようだな」

健斗の瞳が細くなる。

「天岸アンジェリカ愛優美はこちらへの注意を逸らすのが目的で誘拐しただけとも知らないで、ご苦労なことだｗｗ」

（……やっぱりな）

健斗は心の中で呟いた。
やはり今回の事件は単なる誘拐ではない。最初から二重、三重に仕組まれた罠だった。

リーダーの声は、なおも続く。

「これでアンタも横領がバレずに済みそうだな。あのガキの父親が進めているプロジェクトも、これで終わりだろう」

（横領……？）

健斗の眉がわずかに動く。

（誰と話してんだよ……クソ、肝心なところが聞こえねぇ）

電話の向こうの声までは、天井裏までは届かない。
じれったさを噛み殺しているうちに、リーダーは通話を終え、スマートフォンをポケットにしまった。

「おい」

短い号令。

「そろそろ、あのガキの様子をもう一度見て来い」

「分かりました」

部下の一人が、監禁部屋の方向へ歩き出す。

「………（やべぇ！💦）」

健斗の背筋に、一瞬で緊張が走った。
考えるより先に身体が動く。

点検口を静かに閉じ、音を殺して天井裏を引き返す。
板を踏む位置、体重の掛け方――すべて計算済みだ。

（間に合え……！）

監禁部屋の真上まで戻ると、健斗は即座に元の点検口から降り、床に着地する。
そして散らばっていたロープの傍らで何事もなさそうに立つ。

ガチャリ。

扉が開き、黒服の男が顔を出す。

その視線が、解かれた縄と立っている少年を捉えた瞬間――

「……な、なんだと！？ こ、このガキ！ いつの間に縄を！？」

男は思わず一歩後ずさった。

健斗は、即座に“怯えた小学生”の仮面を被る。

「ま、待ってよ！ 逃げるつもりはなかったんだ！ ただ……縛ってる縄が痛くて、もがいてたら……自然と解けちゃったんだよ……」

涙声。震える肩。
完璧な演技だった。

「……おかしいな」

黒服の男は顎に手を当て、首をかしげる。

「そんなに緩く縛ったつもりはなかったんだが……」

疑念はある。だが、“ただの子供”という先入観が、それ以上の思考を止めさせた。

「まあいい。もう一度縛ってやる。小僧、両手を後ろに回せ」

逆らう素振りを見せることなく、健斗は素直に従った。

次の瞬間、男は今度こそ本気でロープを締め上げる。
腕に食い込む痛みを、健斗は歯を食いしばって耐えた。

仕上げに、再び口にガムテープ。

「よし……これなら大丈夫だろ」

黒服の男は満足そうに頷くと、部屋を出て行った。
鍵の掛かる音が、やけに大きく響く。

静寂。

健斗は床に座り込んだまま、小さく息を吐いた。

「………（ちっきしょう……）」

腕に走る鈍い痛みを感じながら、心の中で毒づく。

（ホントにきつく縛りやがって……こりゃ、今度は縄抜けするのに一苦労しそうだぜ）

だが、その口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。

――情報は、もう十分だ。
あとは、この状況をどうひっくり返すか。

忍者の少年は、次の一手を静かに思案していた。

（つづく）

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