BRAVERS EDITION　episode.91

喫茶店Lilyで働き始めた寺瀬詩郎だったが、案の定、店の常連客である逢沢彩人、柏葉章介、柏葉美佳の3人が来店した際に彼らと出くわしてしまうのだった。

※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。

美佳の憤懣

　陽が西の空を茜色に染め始める頃、柏葉家の二階、美佳の部屋には、少女の焦燥が充満していた。

　ベッドの上、制服のまま胡坐をかく柏葉美佳の手には、スマートフォンが握られていた。その画面には、連絡先「神向寺冴佳」の名。今にも通話ボタンを押さんばかりの勢いで、美佳の瞳は燃えていた。

「音祢さんがアイツの存在に気づく前に、財団に早くアイツを追い出してもらわなくちゃ！」

　彼女が言う“アイツ”とは、寺瀬詩郎のことである。かつて悪の組織「おかめ党」に属し、琥珀高校に潜入していた経歴を持つ男。今はブレイバーズなる正義の組織に鞍替えしたという話も耳にしている。だが、美佳にとってはそれも表面上の仮面にしか見えなかった。

　その時、机の上に飾られていたクリスタルのような宝石がふわりと宙に浮かび、淡い光を放った。やがて、そこから現れたのは、小さな体にふわふわの黒い毛並み、額に赤く輝く宝石を持つ、神秘的な妖精――クロエルである。彼は美佳の魔法の相棒にして師でもあった。

「まあ待ちなさい、美佳」

　クロエルの声は穏やかだが、そこには確固たる意思があった。

「なによ、クロエル……なんで邪魔するの！？ 今すぐ連絡しないと、アイツが音祢さんにまた――！」

「君の気持ちは分かるよ。だが……私も遠くから念視で見ていた。喫茶店でのやり取り、裏手での会話、そして彼に対する皆の反応も……。私には、その寺瀬詩郎とやらが、君や財団が言うほどの悪人には思えなかった」

「はあ！？ クロエルはアイツの黒い本性を知らないから、そんな悠長なことが言えるのよ！ あんなの、また平気な顔して音祢さんを誑かして……っ！」

　美佳は唇を噛みしめながら、怒りを拳に籠めた。だが、クロエルは静かに宙を舞い、美佳の目線にまで降りてくると、彼女の瞳を真っ直ぐに見据えた。

「だからこそ、私に任せてほしいのだ、美佳。君が思うほど、あの男は“黒”ではないかもしれない。逆に、彼を敵と見做しすぎれば、君自身が見失うものがある」

　その声は、師としての慈しみと確信に満ちていた。

　美佳はスマートフォンを握ったまま、動けずにいた。彼女の中に渦巻いていた怒りが、少しずつ冷めていく。目の前に浮かぶ小さな存在は、自分が一番信頼する存在であり、これまで何度も窮地を救ってくれた相棒だった。

　やがて、美佳はスマートフォンをそっと伏せた。

「……分かったわ。でも、もし少しでも怪しい動きをしたら、すぐに通報するからね」

「その時は共に対処しよう。君の判断を信じるよ、美佳」

　クロエルはにこりと微笑むと、光の粒となって再びクリスタルへと戻っていった。部屋の中には、夕焼けの色と、少女の静かな葛藤だけが残された。

　美佳は机の前に座り直し、ふうっと深く息を吐いた。

「……はあ、ほんと、ムカつくやつ……」

　しかしその呟きには、さっきまでの怒りとは違う、どこか複雑な色が滲んでいた。

謎の来店客

　朝の陽光が木漏れ日のように差し込む、鷺島市の閑静な学園通りに佇む喫茶店《Lily》。まだ午前の遅い時間とあって、店内にはコーヒーの香りと静けさが満ちていた。

　テーブル席はほとんど空いており、耳に届くのはカップを洗う水音と、微かに流れるジャズピアノのBGMだけ。

　その扉が、軽やかな鈴の音とともに開いた。

「いらっしゃいませ～」

　カウンター奥から顔を出したのは、店長の鷹松優姫。柔らかな栗色の髪を三つ編みに結い、清楚なエプロン姿がよく似合っている。

　入ってきたのは、一見して大学生風の青年だった。黄色いシャツに、細身のシルエットと整った顔立ち。それにどことなくミステリアスな雰囲気。だが何より印象的なのは、その瞳。どこかこの世界の時間とは別の流れに身を置いてきたような、不思議な深みを湛えていた。

「失礼。寺瀬詩郎君はおられるか？」

　声もまた、若さに似合わず落ち着きと威厳を帯びている。ひとつ一つの言葉を丁寧に選ぶような、年寄り染みた物言い。

　優姫は軽く首を傾げ、申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんなさい。詩郎くん、今日はお休みなんです。お知り合いの方ですか？」

「いや。不在ならば仕方がない。出直してくるとしよう」

　それだけを言い残すと、青年は店内を一瞥し、また静かに踵を返した。まるで最初からそれ以上を期待していなかったかのような、あっさりとした退店だった。

　その背中を、カウンターの中にいたもう一人のスタッフ――笹南侑衣梨が、ぽかんと口を開けて見送っていた。

　ポニーテールのヘアスタイルの彼女は、明るく人懐こい性格の持ち主。青年が完全に視界から消えたのを確認すると、ぽつりと呟いた。

「……誰ですか、あれ？ 詩郎くんの知り合いってことは、ブレイバーズの関係者ですかね？ いや～、カッコよかったですよね～♪ あの雰囲気、ちょっとズレてるけど落ち着いてて、声も渋くて……💓」

　頬を緩ませる侑衣梨に、優姫はふと考え込むように視線を扉の方へ向けた。

「……うーん、あの人、ブレイバーズには見えなかったけれど……何か違和感があったわ」

「え、違和感？ でも、変な人には見えませんでしたよ？ どっちかっていうと、紳士系？」

「そうなんだけど……何か、言葉の選び方というか……時代劇の人みたいだった」

「確かに、ちょっと古風だったかもですね～」

　侑衣梨は笑いながらも、心のどこかでその青年――黒瀬律という名も明かさずに去っていったその人物の、言いようのない印象が残っていた。

　一方の優姫も、もう一度カップを磨きながら思う。

　――あの人、詩郎くんの何を知っているんだろう。

　静かな午前のひとときに、見知らぬ来訪者の余韻だけが、ほのかに残っていた。

章介、土下座して頼み込む。

　喫茶店《Lily》のシフトの関係で今日は、寺瀬詩郎にとっても数少ない完全オフの日だった。

　だが、特にやることもない。映画を見る気分でもないし、本屋もまだ開いていない時間帯だ。仕方なく、詩郎は街の雑踏の中をぶらつくように歩いていた。時折カフェのショーウィンドウに目を向けたり、公園で鳩に餌をやる老婦人をぼんやりと眺めたり――まるで暇を持て余す猫のように。

　だが、不意にその背筋に微かな違和感が走った。

（……つけられてるな）

　気配は一つ、距離を保ちながら慎重についてくる。足取りは素人のそれだが、ある種の覚悟のようなものを感じさせた。

「もしかして、竜門会か……？」

　呟くように詩郎は独りごちる。だが振り返ることはしない。あくまで平然を装いながら、雑踏を抜け、駅前通りを歩き、人通りの少ない古い商店街へと足を向けた。目立たぬように、だが確実に尾行者を誘導していく。

　そして、人気の途切れた裏路地の角――

　詩郎は曲がり際で不意に立ち止まり、壁の影に身を隠す。そして、次の瞬間、背後から近づく気配に合わせて勢いよく腕を伸ばした。

「っ……！」

「うわぁぁぁぁぁっっ！？💦」

　詩郎が襟を掴んで引き寄せたのは、驚愕のあまり悲鳴をあげる少年――見覚えのある顔だった。

「……えっ？ か、柏葉か！？💦」

　間違いない。尾行していたのは、琥珀高校のかつての同級生で、あの柏葉美佳の兄・柏葉章介だったのだ。

「おい……いったいどういうつもりだ？」

　眉をひそめる詩郎の問いかけに、章介は一瞬狼狽したものの、すぐに何かを決意したように表情を引き締め、そして――

「頼むッ！！ 俺をブレイバーズに入れてくれ！！」

　――まさかの土下座。

「……は？💦」

　完全に意表を突かれた詩郎は、一瞬自分の耳と目を疑った。だが章介は地面に額を擦りつけるようにして、真剣そのものの様子で頭を下げ続けている。

「頼む、お前なら話がわかると思って……！ 彩人のやつ、俺には何も教えてくれねぇし、美佳に話しかけてもスルーされるし……！ だったら直接、もう寺瀬に頼むしかないと思って……！」

「……いやいやいやいや、ちょっと待て……！」

　路地の入口に目をやれば、たまたま通りかかった中年女性が足を止めてこちらを見ている。さらに、その隣のサラリーマン風の男もスマホを取り出しかけていた。

「やばいって。人目あるし、こういうの……誤解される……！」

　焦った詩郎は、慌てて章介の肩を引っ張り起こした。

「立てって！　まずは話を聞くから……場所を変えよう。こんなとこで土下座すんな！」

「……あ、はい」

　詩郎に引っ張られる形で、章介は立ち上がった。服に付いた砂ぼこりを払いながら、照れくさそうに鼻をこすった。

　詩郎はため息をひとつつく。

「はぁ……ったく。非番の日ぐらい、静かに過ごさせてくれよ……」

　そうぼやきながら、詩郎は章介を連れて、近くの落ち着いた喫茶店へと向かうのだった。

（つづく）

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