漆崎亜沙美、正式参入！　その一

大学カフェテリアにて

とある日の講義の合間の昼休み、鷺島国際大学芸能音楽学部ダンス＆ヴォーカル学科１年生の漆崎亜沙美とその親友である熊川悠里は大学構内にあるちょっとおしゃれなカフェテリアで仲良く昼食を取っていた。

「ごめんね亜沙美。私、亜沙美の忠告を聞かなかったばかりに悪徳芸能事務所の言うがままになって、そのせいで亜沙美まで危ない目に…」
「もうっ！ その話ならもう言わない約束だよ？」

以前、悠里は詐欺まがいの悪徳芸能プロダクションに騙されて、レッスン料と称して多額の金を巻き上げられていたが、亜沙美と鷺島国際大学報道部の活躍によって悪徳芸能プロダクションの悪事が暴かれ、事件は一応の解決を見たのだった。

「それで、騙し取られたお金は？」
「半分はすぐに戻って来るみたい。でもそれ以外のお金はあの社長がすでに使い込んでたみたいで、回収は難しいだろうって弁護士さんが…」
「そう…だったんだ……」
「自業自得だよね。親友である亜沙美の忠告を聞かずに、あの社長のいいなりになってたんだから…」
「違う！ 悠里は何も悪くないよ！ 悪いのは全部あの社長！」
「ありがとう亜沙美。慰めてもらってすごく嬉しいよ…」

そして二人の話題は、今回の事件解決に貢献した報道部のことに及ぶ。

「実はさぁ、アタシ、報道部の人たちから入部しないか？って声を掛けられてるんだ♪」
「えっ！？」:(´ºωº｀):

何故かその話を聞いた悠里の表情が一瞬で固まった。

「どしたの悠里？」
「絶対にやめといた方がいいよ亜沙美！！」

悠里はいきなり血相を変えて亜沙美の入部に猛反対し始めた。

「どうして？」
「報道部の噂を知らないの！？ あの人たち、毎回結構やばいネタを追っかけては怖い人たちに捕まったりして、その度に縛られて監禁されたりした経験を何度もしてるって言うじゃない！」
「へぇ～そうなんだ…」
「へぇ～そうなんだ…じゃないってば！！ 亜沙美も危ない目に遭ったらどうするの！？」
「でもあの人たち、今度また取材に出かけるんだって。瀬戸内海に浮かぶ無人島の美しい自然を撮りに行くとか言ってたよ。アタシも実は体験入部って形で一緒に行かないかって誘われてるんだ。そんな危険な事にはならないと思うけどなぁ…」
「そりゃあ、私だって今回のことでは報道部の人たちにはお世話になったから、あの人たちの悪口は言いたくないけど、でも考え直して！ お願い！」
「う～ん……」

心配する悠里から報道部への入部撤回を懇願されて困ってしまった亜沙美だが、とりあえず体験入部だけでも試してみてから結論を出すと逆に悠里を説得し、次の連休を使って亜沙美は報道部の取材遠征に同行することとなったのである。

羽孔島へ到着

瀬戸内海に浮かぶ数ある小さな離島の一つで、温暖な気候の下、未だ手つかずの美しい大自然が残る無人島・羽孔島（はくしま）。よく人気アーティストがＰＶを撮影するために訪れる人気スポットである。

「それじゃあ夕方に迎えに来るからね」
「はい！ありがとうございます！」

羽孔島に渡るためにチャーターした漁船のおじさんに礼を言うと、早速小寺洸介、桜庭陽平、鳳凰院優の3人は撮影のための準備に取り掛かった。

「アタシも何か手伝うよ」
「う～ん、そうだなぁ…。とりあえず漆崎さんは今日は体験入部だから、しばらくそこで見学してて。あとで機材の詳しい扱い方を教えるよ」
「うん、分かった」

見渡す限り美しいブルーオーシャンと砂浜、そして可愛い小動物たちのいる生い茂った森。どう考えても犯罪などとは無縁な場所だ。”悠里、やっぱし取り越し苦労だったんだよ”と心の中で語りかけ、安心感にふけっている亜沙美なのであった。しかし……

やはり事件が！

「んんっ、んんーっ!!」

同じ羽孔島の現在報道部の面々がいる場所からはかなり距離の離れたところに、今は使われていない廃屋同然の一軒の小屋が…。その小屋の中に一人の少女が監禁されていた！？
果たしてこの美少女は何者か！？ そして如何なる理由でこの小屋の中に監禁されているのか！？
早くも報道部の近辺で事件の匂いが漂い始めていたのを、まだ洸介たちも亜沙美も知らない。

つづく。