今期待の新星である若手アクションスター・左文字賢龍の密着取材に臨んでいる小寺洸介、桜庭陽平、鳳凰院優、漆崎亜沙美ら、いつもの鷺島国際大学報道部取材班の4人だったが…。
CM撮影
午前の撮影が終わると、スタジオの空気が一気にやわらいだ。
主演の左文字賢龍がヒロイン役・鳳凰院優を抱きかかえるクライマックスのカットがOKになると、現場から拍手が起こる。優は照れくさそうに「はぁ……緊張したぁ」と息を吐き、カメラマンからも「初めてとは思えない自然な演技だったよ」と褒められた。
昼休憩を挟み、賢龍の午後のスケジュールは、スポンサー企業・トライスター・スポーツの新作テニスウェアCM撮影。
ロケ地は郊外の広いテニスコート。太陽が高く昇り、白いコートラインが眩しく輝いていた。
移動車のドアが開き、サングラス姿の賢龍が颯爽と降り立つ。
白を基調としたスポーツウェアに身を包み、ラケットを肩に担ぐ姿はまるで雑誌の表紙そのもの。スタッフの間からも「さすが左文字さん……」「本物のアスリートみたい」と感嘆の声が漏れる。
報道部の洸介、陽平、優、そして亜沙美の4人もその場に居合わせていた。
というのも、優がヒロインの代役を務めてくれたお礼にと、賢龍が「もしよかったら午後の撮影にも同行してくれませんか?」と直々に誘ってくれたのだ。
「え、俺たちも映るの!?」
陽平が驚くと、助監督がにやりと笑う。
「うん、背景のモブとしてね。テニスしてる大学生グループって設定。ウェアはそっちにあるから、着替えて準備お願い」
控室に入ると、4人分のテニスウェアが用意されていた。
洸介はピーコックグリーンと白のスポーティなウェアを、陽平は青の爽やかなスタイルを、亜沙美は黄色のポロシャツにショートパンツを、そして優は紺のラインが入った白色のウェアに袖を通す。
「わぁ……優、似合ってるじゃん!」
亜沙美が笑顔で親指を立てる。
「ちょ、ちょっと……そんなこと言わないでよ、恥ずかしいから!」
優は頬を赤らめながらも、ラケットをぎこちなく構えてみせた。

やがてカメラが回り始める。
主役の賢龍は、テニスコート中央で真剣な表情を浮かべ、スローモーションでサーブを打つ。
白球が空を切り、スパーン!と音を立ててネットを超えるたび、スタッフたちはモニター越しに歓声を上げる。
その背後――。
報道部の4人は背景で自然にラリーを続けていた。

「桜庭くん、もうちょい左!カメラに尻向けないで!」
「おっと、了解!」
「洸くん、顔が真剣すぎるよ! もうちょっと楽しそうに!」
「無理言うなって!💦」

その後、コートの一角では、亜沙美がスマホでこっそり記念撮影をしていた。
「ふふっ、これ絶対学内ニュースに載せよう。“報道部、左文字賢龍CM出演”って」
「やめてよ……!」と優が恥ずかしそうに小声で抗議するも、楽しげな空気がそのまま映像に溶け込んでいく。
撮影の合間、賢龍がふと4人の方を振り返り、にこやかに手を振った。
「皆さん、いい感じですよ。背景が生きてます!」
その爽やかな笑みに、優はつい顔を赤らめ、ラケットを取り落としそうになる。
スタッフの笑い声、ボールの弾む音、シャッター音。
午後のテニスコートには、映画の現場とはまた違う明るく軽やかな空気が流れていた。
ベラドンナの暗躍
午後の陽射しがじりじりと照りつける中、テニスコートではCM撮影が順調に進んでいた。
白いウェアの左文字賢龍が力強くサーブを打ち、スローモーションのカメラがその姿を追う。背景では、洸介たち報道部の4人が楽しげにラリーを続けている。
その和やかな光景を、少し離れた高台から双眼鏡越しに覗いている影があった。
黒のオープンカーのボンネットに腰をかけ、脚を組んでいるのは――紅い長髪を風になびかせる長身の男。
ピッチリとしたレザー調のジャケットが、その細くも鍛え上げられた身体を際立たせていた。
ベラドンナの「狩人(ハンター)」、紅虎。
彼は唇を艶やかに吊り上げ、長い指で双眼鏡をくるくると弄びながら、退屈そうに呟いた。
「……あーあ、ホントにイヤになっちゃうわ。よりによってターゲットが野郎だなんて」
ため息まじりの声は艶っぽく、それでいて蛇のように冷たい。
「どうして私好みの可愛い子猫ちゃんじゃないわけ? まあ、仕事だからきっちりやりますけど……!」
運転席に座るのは、黒髪にメッシュを入れた若い男――ベラドンナの「猟犬(ハウンド)」の一人、累児(るいじ)。
彼は苦笑しながらハンドルにもたれた。
「真面目にやってくださいよ、紅虎さん。ターゲットはあくまで左文字賢龍ッス」
紅虎は鼻で笑い、双眼鏡を下ろしてゆっくりと累児の方へ顔を向けた。
「分かってるわよぉ。でもねぇ、アンタたちこそ油断したんじゃないの? 先に“左文字賢龍の妹の身柄を押さえようとして、返り討ちにあった”って……どこの誰だったかしら?」
累児は顔をしかめて天を仰ぐ。
「それを言わないでくださいよ~。まさかあんな小学生みたいな女の子があれほどの武術の使い手だったなんて……俺も毬雄の兄貴も、完全に油断してたんスよ💦」
「言い訳すんじゃないわよ」
紅虎の声が低く響く。
その一言に、累児は思わず背筋を伸ばした。冗談めかした口調とは裏腹に、紅虎が本気で機嫌を損ねたときの怖さを、彼はよく知っている。
車内には数秒の沈黙が流れた。
蝉の鳴き声と、遠くのコートから響くボールの打球音だけが耳に届く。
累児は恐る恐る話題を戻した。
「で……どうするんスか? 賢龍は妹以上の格闘技の達人ッスよ。正面からやり合ったら俺たち、骨も残らないですよ」
紅虎は薄く笑った。
「ふふん……だから正面からなんてやらないわよ。ねぇ、累児? “狩り”ってのは、獲物を罠に誘い込むものよ」
そう言うと、彼は双眼鏡を累児に手渡した。
「ほら、あそこをご覧なさい」
累児が覗き込むと、コートの端で賢龍を見守る4人の大学生――洸介、陽平、優、亜沙美の姿が見えた。
累児が眉をひそめる。
「……あの子たちがどうかしたんスか?」
紅虎は頬杖をつきながら、ニヤリと笑った。
「ふふっ、以前にどこかで見た顔だと思ったけど、あいつら……利用できそうじゃない?」
その笑みは、まるで新しい獲物を見つけた猫科の猛獣のように妖しく輝いていた。
累児はぞくりと背筋を震わせた。紅虎が“面白そうな顔”をするときは、たいてい誰かが地獄を見る時だ。
「やれやれ……またロクでもないこと考えてるッスね、紅虎さん」
「だってぇ、狩人ってそういう生き物でしょ?」
紅虎は車のルームミラーで自分の紅い髪を整え、唇に軽くグロスを引いた。
そして遠くのテニスコートを見つめながら、甘くも冷たい声で囁く。
「――左文字賢龍…いや、“美藤賢龍”ちゃん。今度の獲物は、アンタよ」
双眼鏡のレンズの奥で、賢龍の笑顔が小さく映っていた。
紅虎の唇に、獰猛な笑みが浮かぶ。
その瞬間、静かだった夏の午後が、不穏な気配を孕みはじめていた。
(つづく)
コメント
テニスルックスペシャル❤
そして、随分とお久しぶりな気がするベラドンナ一味の皆さん・・・
紅虎様のご活躍に期待!
今回の敵はこれまたお久しぶりのベラドンナの紅虎姐さんとマリオブラザーズ、そしてターゲットは野郎、ではありますがこの展開なら優ちゃん亜沙美ちゃんが縛られるのは決定的でしょうね。そして美虎ちゃんブラザーズをボコり倒せるほど強かったんですか💦これは鍛錬を続けていたら作中最強レベルになって、アスカロン財団がスカウトに来るかも知れませんね。