鷺島国際大学芸能音楽学部ダンス&ヴォーカル学科1年生の漆崎亜沙美は、同大学のサークルである報道部に体験入部するため、小寺洸介、桜庭陽平、鳳凰院優の3人に同行して瀬戸内海の無人島・羽孔島(はくしま)を訪れていたのだが、島内のとある寂れた小屋の中に監禁されていた人気アイドル・琴川玲奈を発見、救出した。しかしそれと入れ替わるように、今度は優が行方不明になってしまう。森の中の廃屋地下にあった謎の坑道の奥の地下牢に閉じ込められていた優を助け出した洸介と亜沙美だったが、その隙に船着き場のある砂浜で待機していた陽平と玲奈が犯人に連れ去られてしまった!
陽平、絶体絶命!
縛られた状態のまま船室から外へ連れ出され、漁船の甲板の先へと連れて来られた桜庭陽平は、今にも海に突き落とされようとしていた。
「くっ…僕をどうするつもりだ!? 放せ、放せーッッ!!」
「悪いな。俺が用があるのは、あのアイドルのお嬢ちゃんだけなんだ。お前にはここで魚の餌になってもらうぜ」
「や、やめろーッッ!!」
危うし、陽平!!――しかしここでサイレンが鳴る。
海上保安庁の巡視船数隻がいつの間にか漁船を取り囲み、アッという間に数名の海上保安官が漁船へと踏み込み船長と陽平を取り囲んだ。
「動くな! 人質を解放してゆっくりと手を上げろ!」
「ば、バカな! 何でこんなにも早く巡視船が!?」
事件の真犯人である船長はあっけなく御用となり、陽平と玲奈の二人は海上保安庁によって無事に保護された。そして巡視船の方から小寺洸介、鳳凰院優、漆崎亜沙美の3人が漁船へと乗り移って来る。
「よかった。桜庭くんも玲奈ちゃんも無事だったのね!?」
「き、貴様らッ! 島に置き去りにしたはずなのに、どうしてこんなところに!?」
両手に手錠を嵌められ逮捕された船長が、悔しそうに洸介たちに島から脱出できた訳を尋ねる。
「羽孔島はちょうど昼の3時ごろになると潮が引いて、人が住んでいる隣の島と陸地が繋がるのよ!」
「そして隣の島の住民の人から海上保安庁に連絡してもらって、アンタの漁船の特徴を話して警戒網を敷いてもらったわけ」
「地元の漁師のくせにそんなことも知らなかったところを見ると、やっぱりお前、漁船の船長というのも嘘だったみたいだな」
「ちっ、ちきしょー! よもやそんな方法があったとは…!!」
偽船長は地団太を踏みながら海上保安官たちに連行されて行ったのだった。
玲奈との別れ
やがて琴川玲奈の所属している大手芸能事務所から、彼女を迎えるための車が到着した。
「鷺島国際大学報道部の皆さん、この度は危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました。皆さんがいなかったら、今頃私はどうなっていたことか…」
「いやー、どういたしまして」
「怪我がなくてよかったよ」
「なぁに鼻の下伸ばしてんのよッ!!」
「イテテッッ!!」
焼きもちを焼いた優が、背後から洸介と陽平のお尻をつねった。
「いずれ改めてきちんとお礼に伺います」
「そんな、大したことはしてないから、どうかお気遣いなく」
「それでは皆さんお元気で」
玲奈は事務所の用意した車に乗って去って行った。とりあえず健康状態に異常がないかどうか病院で簡単なチェックを受けてから、東京に帰るらしい。
「あーあ、行っちゃったね」
「さあ、結局取材どころじゃなかったけど、俺たちも帰るか」
エピローグ
その後数日経って、琴川玲奈本人出席による誘拐事件騒動の記者会見が行われた。
その後の警察と海上保安庁の合同捜査によると、あの偽漁船船長の正体は闇のプロダクションのエージェントだったらしい。地下に潜伏し、主に大金を出す上流階級層の表に出せないような需要や欲求を満たすため、違法な芸能活動やいかがわしい接待を著名タレントに強いる組織があるらしいのだ。今回の件がきっかけとなって、そういった芸能界の闇事情にも司法のメスが入ることを祈らずにはいられない。
さて、玲奈の所属事務所から「記者会見の後は今回の件を大学の新聞でも記事にしてよい」とのお墨付きを得ていた鷺島国際大学報道部は、早速情報解禁に踏み切り一連の経緯を学生新聞の一面に掲載した。案の定、読者の学生たちからは大反響。それどころか大手マスコミから逆取材を受けるほどであった。
そしてその騒ぎも落ち着いてからさらに数日が経ち、漆崎亜沙美がひょっこりと報道部の部室に顔を出した。
「ごめんください。みんな元気してた?」
「あっ、漆崎さん久しぶり♪」
「今日はこれを出しに来たんだけど…」
亜沙美が出したのは、一枚の入部届であった。
「嬉しいよ。ついに決断してくれたんだね!」
「ホントはもっと早く出すつもりだったんだけど、何だかみんな忙しそうだったから、つい気が引けちゃって…」
「水臭いなぁ~! そんな遠慮しなくたっていいのに」
「ともかく歓迎するわ! 漆崎さん、これからもよろしくお願いします」
礼儀正しく深々と頭を下げる優。
「あっ、その前に一つだけお願いを言ってもいいかな?」
突然、入部を前にして条件を提示して来た亜沙美は、洸介と陽平の方に向かって指差す。
「あたし、どうも堅苦しい他人行儀みたいなのは苦手なんだ。これからは君たちボーイズのことは、それぞれ洸くん、陽くんって呼ぶから♪」
「洸くん…?」
「陽くん…?」
亜沙美からの突然の提案に、目が点になるボーイズ2人。
「そして鳳凰院さん、今日からあたしは貴女のことを優って呼び捨てで呼ばせてもらうから。その代わり優もあたしのことは亜沙美って呼び捨てで呼んでほしいなっ♪」
「うん、勿論いいわよ。よろしくね、亜沙美♪」
「こちらこそヨロシク! 優♪」
こうして鷺島国際大学報道部の取材班に、正式に4人目のメンバーが加わったのであった!
コメント
遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
学生報道部の受難体質は大学内で結構噂(というか悪名?)になっているようですが、逆に度々悪人に攫われて生還できているのは強運と言えるかもしれませんね。ともあれ無事新メンバーとなった漆崎亜沙美ちゃん、今回DIDシーンがなかったのは少し残念ですが次回以降に期待ですね。今回の琴川玲奈ちゃんみたいなゲストキャラとの連縛もいろいろ見たいところです。
S-A様、新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。
ゲストキャラとの連縛もいいですね。
>偽漁船船長の正体は闇のプロダクションのエージェントだったらしい。地下に潜伏し、主に大金を出す上流階級層の表に出せないような需要や欲求を満たすため、違法な芸能活動やいかがわしい接待を著名タレントに強いる組織があるらしいのだ。
只者じゃないとは思ってましたが、新たな組織が出てきましたね~、今回だけの犯罪組織なのでしょうけど、「闇のプロダクション」って言葉が気になりますね、後々またアイドル志望の亜沙美ちゃんと絡むことがあるかもですね。
>「羽孔島はちょうど昼の3時ごろになると潮が引いて、人が住んでいる隣の島と陸地が繋がるのよ!」
「そして隣の島の住民の人から海上保安庁に連絡してもらって、アンタの漁船の特徴を話して警戒網を敷いてもらったわけ」
「地元の漁師のくせにそんなことも知らなかったところを見ると、やっぱりお前、漁船の船長というのも嘘だったみたいだな」
「ちっ、ちきしょー! よもやそんな方法があったとは…!!」
現場のリサーチもせずに行動をおこしたのか…まさかこんな間抜けな三流だったとは…
でもまあ、このぐらいのちょっと抜けたぐらいの相手の方が反撃が出来そうなので、ストーリー的には盛り上がりそうですね(笑
ちなみに羽孔島は沖の孤島かとおもったのですが、割と陸に近い場所にあったんですね。
これでめでたく亜沙美ちゃん報道部に正式に入部することとなり、フレンドリーな性格を表に出てきましたね。
これから彼女が報道部と共にどんな活躍を見せてくれるのか楽しみですね。
>「アンチリア充の陰キャラな誘拐エージェント」がいよいよ動き出してくれることを密かに期待しています(^^)
…っと、前回のコメにあったので、ちょっと紹介がてらに陰キャ女の文を書いてみました…まだあんまし陰キャ感が出てないですが、性格の悪さぐらい伝わってくれればと…
プロフィールはまた近いうちにでも
エージェント『石鼠』
「やっぱり日雇いの仕事は少ないな~」
昼間からカーテンを閉め切った暗い部屋の中、スマートフォンのモニターをスライドしながら、求人情報を眺め溜息をつく1人の女。
整った顔立ちをしているのだが、上下はスウェット、寝ぐせの残るぼさぼさな髪、色気がまるで感じられない。
テーブルには無造作に酎ハイの缶がまるでビル群のごとく並べられている、まだ太陽は高いところにある。
「前のご当地ヒーローショーの怪人役はおいしい仕事だったな~、軽くボコられるだけで結構な額貰えるちょろい仕事だったからね」
そう呟きながら、女はまた冷蔵庫から取り出した酎ハイを1本開ける。
「次もどうかって言われたけど…結局本業と重なっちゃうんだよね~…」
女は気だるそうな表情をしながらリモコンのスイッチを入れる、テレビに映し出されたのはとある誘拐事件のニュースだった、何でも大学のサークルのメンバーがアイドル誘拐事件を解決したとか、そんな内容だった。
「報道部~?なんだかふざけた奴らだね、そんなお遊び素人集団にまんまとやられる組織の奴ってなんなの、ウチだったら始末対象だよ…」
そう言いながら、インタビューを受ける報道部のメンバー達を画面越しに見つめる女。
「女子アナ志望にアイドル志望か…よくカメラの前でそんなこと言えるなこいつら…むしろ宣伝になるからか…野郎どもも随分カメラに慣れてる感じ、普段からそうゆうのを意識してるのかしらね」
皮肉を混じりの言葉を呟きながら、女は冷めた目で4人を見つめる。
「すっかり英雄気取っちゃって、親の金で大学行かせて貰ってて、やってることは男女楽しくヒーローゴッコですか、なんか合宿とか称してどこぞの山でキャンプしながらバーベキューとかやってそうね、絵に描いたような陽キャなリア充って感じ~…」
女の目が鋭いものとなる。
「地獄見せてやりてぇ…」
奈落から響くような重い声が、暗い部屋に響く。
「あ~やってらんね~、他になんかやってないかな~」
ぶちぶちと文句を言いながら、女はリモコンを操作する、だがこれと言って面白い番組もなく、女はテレビのスイッチを切りリモコンを放りなげる。
「本日も何もなく終わるのか…」
女は酎ハイを一気に飲み干すとそのまま後ろへと倒れこむ、このまま眠ってしまおうかとそう思っていた時、マナーモードにしていたスマートフォンが震えだす。
電話相手の名前を確認し軽く溜息をつくと、応答をタップする。
「もしもし、お久しぶりですね仲介者さん」
『やあ久しぶり石ちゃん、そろそろ暇してるんじゃないかい?』
落ち着いた男の声が、スピーカー越しに聞えてくる。
「いきなりの挨拶がそれですか~、相変わらず嫌味ですねアンタ」
『いや、忙しいのならいいのだけど、ゴメンね…』
「い~や暇ですよ、表の仕事は殆どないですからね、色気のない女が昼間から酒飲んでますよ、悪かったですね…用がないなら切りますよ~」
『いやいやちょっと待って、実はそろそろ君に頼みたい仕事があってね』
男の言葉に電話を切ろうとした女の手が止まる。
「私に仕事ですか…最近はあなたの情婦が頑張ってらっしゃるって噂ですが~?」
『情婦って…そんな関係ではないよ、ちなみにそのプロセルピナだけど、前の仕事でターゲットに顔覚えられた可能性があるから今回は使えない』
「はぁ~⁉お得意の催眠術とかはどうしたんですか?」
『別組織の襲撃など色々とドタバタがあって、それどころではなくてね…ついでに言うなら猟犬のメアリーも使えなくなった』
「はぁ~、あのイキリビッ〇が…おっと失礼…申し訳ありませんが奴の尻ぬぐいでしたらお断りさせて頂きます」
『いや違う違う、こっちの件はなんとか収まりついた、今回のまた別の仕事さ、まあ前回のクライアントとちょっと関りがある仕事だけどね』
「ギャラによりますけど…またこの前みたく、どこぞのおっさん拉致って首から下を土に埋めるみたいなくだらない仕事とかじゃないですよね?」
『いやいやもっと楽しい仕事だよ、ちょっとしたゲームに参加して欲しいってことらしいのだけど』
その言葉に女は頭を抱えながら答える。
「ウチらって誘拐メインでやってる裏稼業ですよね、それがゲームって…」
『その内容は私達の仕事と関係するものでね、一定期間に若い男女を指定された人数だけ誘拐するってルールらしい、それにうちのボスが絡みたがっているみたいでね』
「相変わらず物好きですねうちのボスは、ちなみにそのけったいなゲームを私1人でやれと?」
『いや、黒狗にも声を掛けている、ただ彼はちょっとテンション低くてね、彼は女の子メインだし…』
「あのヘタレ、まだ仕事選り好みしてるんですか~、私は老若男女関係なしですけどね、要は金になりさえすれば良い」
『君のそうゆう割り切ったところは好きだよ、ちなみにターゲットは君の大好きな明るくて素敵な美男美女達ばかりらしいよ』
「それはいいですね~、ちょっとやる気出てきちゃいましたよ~」
ニヤリと笑顔を浮かべる女、スマートフォンの光の照らされたその表情はなんとも不気味なものだった。
『まあまだ本決まりの仕事ではないからね、話がまとまったら改めて仕事のデータを送るよ』
「了解です、表の仕事入れないでおきますから~、しっかり営業の方お願いしますね~」
『そっちは任せて欲しい、とりあえずよろしく頼むよ石鼠』
電話を終えると女はニヤニヤとしながら天井を仰ぐ。
「久しぶりの裏の仕事だ、さあ地獄に見せてやるよクソリア充ども…」
ついに「アンチリア充の陰キャラな誘拐エージェント」が出てきましたね~!
今回も読み応えのあるSSをありがとうございます!
リア充を憎むその心、漆崎亜沙美ちゃんだけでなくTEAM FRIENDSの藤永沙織ちゃんにもその矛先が向きそうです( ̄ー ̄)ニヤリ
「仕事は選り好みせず、金さえ払ってくれればターゲットは老若男女関係なし!」というところが気に入りました(でもだからと言って本当にジジババは攫って来ないように。管理人は老人虐待は趣味ではないのです💦)。
いずれプロフィール設定も明らかになりましたら、管理人執筆のSSでも使ってみたいキャラクターですね。
> 「闇のプロダクション」って言葉が気になりますね
こちらの投稿↓を参考にしました。
http://okamenogozen.blog.fc2.com/blog-entry-153.html#comment145
> これから彼女が報道部と共にどんな活躍を見せてくれるのか楽しみですね。
亜沙美ちゃんの新規イラストも順調に出来上がってきておりますので、彼女の活躍(?)の機会も自ずと増えて来ると思いますので、ご期待ください。