朝廷の院の側近くに仕える女房・桔梗局から、少年少女連続失踪事件の解決を命じられる検非違使・孝森祐宜と椿姫絢那のコンビ。
忍軍・楠木党
「んっ、んんっ…!!」
その少女は、京都の中心市街地から遠く離れた廃工場に監禁されていた。昨日の夕方、帰宅途中に正体不明の黒ずくめ集団によって拉致され、それ以来ずっとここに閉じ込められたままだ。周囲には忍者のような黒ずくめの男たちがしっかりと自分を見張っている。
「伽羅様、調べがつきました。どうやらその娘はハズレです」
「そうか…」
報告に来た忍者の一人が、彼らの頭領らしい女忍者にそっと耳打ちする。
「もはやその娘は我らにとっては無用の長物。すぐに始末いたしましょう!」
刀を抜いてその切っ先を少女に向ける忍者の一人。
「んんっ!? んむぐぐっ!!んぐむむーっ!!💦」
少女は泣きながら命だけは助けてくれるよう懇願するように、必死に呻き声をあげる。
「待て、兵庫介様が何と仰るか…」
「伽羅様、忍びの世界に情けは不要。それにこれは吉野のご隠居様のご意向でもあります」
伽羅と呼ばれた女上忍は、少女の命を奪うことにまでは難色を示すが、結局部下の反対に押し切られてしまう。だがそこへ他に制止する声が響いた!
「待てぃ!!」
「これは兵庫介様!?」
突然現れた素浪人の風体をした男。名を風祭兵庫介といい、その優れた剣の腕と知力によって京都政財界の名士たちから一目置かれていた。兵庫介の姿を見た忍者たちは、たちまち整列して畏まる。
「かの大楠公の流れを汲む忍者軍団の精鋭・楠木党も、今や金次第で〇しも請け負う夜討ち強盗に成り下がったか」
「兵庫介様、お言葉が過ぎましょう!」
「黙れッ! いいから女は放してやれ。吉野のご老人には、俺から話しておく。伽羅!」
「ハハッ…」
兵庫介に促された伽羅は、拘束されている少女の目の前に立ち、その顔をじっと見つめる。
「いいかい? 無事に家に帰りたかったら、アタシの目をよ~く見るんだよ」
「んんんっ…」
伽羅は少女に催眠術をかけ、拉致監禁されていた間の記憶を全て消したうえで、無傷で解放したのだった。
「ところで伽羅、次に狙う目星は既についておろうな?」
「その点は抜かりなく…。すでに動いております」
「検非違使どもが動き出しておるようだ。くれぐれも不覚を取るなよ?」
敦士に迫る危機
次の日曜日、松川敦士は近所の運動公園でひとり黙々とテニスの壁打ちに励んでいた。彼のラケットから放たれるボールが規則的に壁に当たり、跳ね返る。そのたびに力強い音が公園に響く。失恋の痛手を忘れるためにも、体を動かして気分を紛らわせようとしていた。
「松川敦士君ね?」
突然、聞き慣れない声が背後からかけられた。
「??」
敦士は振り返り、声の主を見つめた。そこには見知らぬ女性が立っていた。黒いコートを羽織り、大きな帽子を深く被って顔を隠している。まるでスパイ映画に出てくるような雰囲気の怪しい女――楠木党のくノ一・白夜叉の伽羅の変装だ。
「何か用ですか?」
敦士は少し身構えながら問いかけた。
「驚かせてごめんなさい。貴方と少し話がしたいの。」
つづく。
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