安土市内で失踪した大学生の捜索・救出作戦を命じられた獅場俊一と寺瀬詩郎の二人は、何故かアフリカのナミビアに向かうことに。現地で地球連邦軍のセレスティア=スパークル少尉(愛称はセリィ)と合流した二人は、彼女の案内でナミブ砂漠にあるオメガ・ヴェール基地へと向かう。そこで二人が見たのは、驚きの光景だった。
※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。
多文化共生
エレベーターを降りてから、マシューズ大佐の先導で地下都市を歩く。
人工の太陽が降り注ぐ街並みは穏やかに見えたが、その光の下で起こっている出来事は必ずしも理想的とは言い難かった。
広場の一角では、地球人のビジネスマンと異世界人の鍛冶職人が声を荒げて口論している。
「お前の作る鉄器は規格外すぎる! 流通させられるか!」
「こちらの世界の基準など知るものか! 剣は剣として使えれば十分だ!」
その隣では、青い肌を持つ異星人の少年が、地球人の子供たちに混じってサッカーボールを蹴っていた。だが小さな衝突が原因で、少年の異星特有の体液が芝にこぼれると、親同士が慌てて子供を引き離し、不安そうな視線を投げ合った。
俊一と詩郎は思わず顔を見合わせる。
和やかに暮らしている光景の裏に、文化や価値観の違いが生む軋轢が隠されているのを痛感したのだ。
「多文化共生と美辞麗句で並べ立てるだけなら、子供でも簡単だ」
マシューズ大佐の声は重く響いた。
「だが無計画な異邦人の受け入れは、いずれ遅かれ早かれ、必ずお互いにとって不幸な結果を招く。だからこそ、今はどの程度まで地球に受け入れるべきか、どのような基準や仕組みを築いていくべきか……手探りの状態が続いているのだ」
詩郎は口をへの字に曲げ、肩をすくめる。
「……それで、俺たちに社会科見学をさせるためだけに、わざわざアフリカくんだりまで呼んだわけじゃないんだろ?」
「勿論だ」
大佐の視線が鋭さを増す。
「そろそろ本題に入ろうか」
その言葉に合わせるように、彼らは地下都市の中央区画にある重厚な建物へと足を踏み入れた。そこは軍の作戦司令部――堅牢な装甲扉が並び、制服姿の兵士たちが厳しい表情で出入りしている。
セリィが胸を張り、誇らしげに言った。
「ようこそ、オメガ・ヴェールの中枢へ!」
オペレーションルームの扉を開くと、そこに待っていたのは一人の女性だった。
腰まで届くほど長く、美しい銀髪。光を受けて淡く輝き、風に揺れる度に楽器の弦のように音色を奏でそうな印象を与える。
そして何より目を引くのは、顔の両側からすっと伸びた細長い耳――地球の人類には存在しない特徴。まるで剣と魔法のファンタジーの物語に出て来るエルフのようだ。

「はじめまして。ブレイバーズの獅場俊一さんと寺瀬詩郎さんですね? お話は伺っております」
柔らかな声が響いた。知性と気品を兼ね備えた眼差しが、二人をまっすぐに射抜く。
俊一は思わず息を呑む。
「あなたは……?」
マシューズ大佐が静かに答えた。
「紹介しよう。こちらはイレイアナ=メロディス女史。異世界タシェニュヴルアのグランベルミア王国に仕える宮廷魔術師団の一人で、現在はここオメガ・ヴェール基地でグランベルミア側の駐在代表を務めておられる」
俊一と詩郎は揃って背筋を伸ばし、この異世界からの賓客を前に言葉を失った。
いよいよ本題へ
静まり返った会議室に、セリィが両手をぎゅっと握りしめ、一歩前に出た。
その瞳はいつもの天然さとは別人のように真剣で、俊一と詩郎を真っ直ぐに見据えている。
「単刀直入に言いますね。草川律希さんと桐尾史奈さんは――異世界転移に巻き込まれた可能性が高いです」
「なっ……!?」
詩郎が椅子をきしませて立ち上がった。驚愕に声が震える。
「異世界転移だって!?」
マシューズ大佐が深くうなずき、落ち着いた低音で続けた。
「実はこれまでも、地球人が異世界へ転移してしまう事例はいくつか報告されている。だが、それはいずれも自然発生した超常現象……いわば偶発的事故によるものだった」
俊一は眉をひそめ、息を呑む。
「捜索されて無事発見された地球人の中には、異世界での暮らしが気に入り、自由意思で現地に留まる決断をした者も少なからずいた」
大佐の言葉は淡々としていたが、その裏には重みが潜んでいた。
セリィが言葉を継ぐ。
「ですが、どうも今回の事例は……これまでとは違うようなんです」
「これまでと違う?」
俊一の問いに、イレイアナが静かに前へ進み出た。
銀髪が揺れ、尖った耳が光を受けて輝く。
「クサカワ=リツキさんとキリオ=フミナさん――その二人が地球から姿を消した時刻と、ほぼ同じ日の同時刻。我がグランベルミア王国の領内でも、怪しげな魔導反応が検出されております」
詩郎の目が大きく見開かれる。
「それって、つまり……」
マシューズが重々しく頷いた。
「その日本人大学生二人は、人為的に引き起こされた異世界転移に巻き込まれた。つまり、何者かによって強制的に異世界へ連れ去られたということだ」
俊一は拳を握りしめ、声を荒げた。
「それじゃあ――誘拐じゃないですか!」
会議室の空気が一層張り詰める。
イレイアナの碧眼が鋭く光り、セリィは唇を噛みしめた。
そしてマシューズは静かに頷きながら、これから二人に課す使命の重大さを暗に告げていた。
異世界誘拐の動機とは?
会議室の空気が一段と冷たくなる。詩郎が腕を組み、眉を寄せて訊いた。
「でも、犯人はいったい何が目的で……?」
俊一は写真を見返しながら、静かに推理を始めるように口を開いた。
「誘拐された二人が考古学部の学生ってことと、何か関りがあるのかな。発掘現場で何かヤバいものを掘り出したとか、誰かの目に触れちゃいけないものを見つけたとか……」
「専門家を狙うなら学生よりも、教授か博士を狙うんじゃないか?」と詩郎が疑問を呈する。「学生だと資料もデータも不完全だろうし、狙う価値が低い気がするんだが」
マシューズ大佐は細く笑い、しかし言葉は重かった。
「誘拐した側が、地球における学生と教授の学識レベルの違いをきちんと認識していれば、の話だがな…。今回の手口を見るに、そこまで緻密な“目利き”をした形跡はない。無論、犯人側から身代金の要求などのコンタクトも一切ない」
イレイアナがため息交じりに前へ出る。銀の髪がわずかに揺れ、顔には痛みが浮かんでいた。
「大変申し上げにくいのですが……私たちの世界で、とある根拠のないデマが広まっています」
「どんなデマだ?」俊一が短く促す。
イレイアナの声が静かに、しかし断固として落ち着いて告げる。
「『地球人の若い男女の肉を食らい、その生き血を啜れば不老不死が得られる』――というものです。根拠は全くありません。しかし噂は噂を呼び、暗躍する者たちの口実あるいは要求として利用されている可能性があります」
その言葉が部屋を貫いた。俊一の頬が上気し、即座に立ち上がる。
「何だって!? そりゃ大変だ。早く助けに行かないと!」
詩郎は顔を青ざめさせながらも冷静さを保とうとした。
「でも、どうやって異世界に渡るんだ? 偶発的な事故じゃないってことは、橋渡しする手段があるってことだろ?」
セリィは自分の髪飾りに無意識に触れながら、真剣な表情でうなずいた。
「それが、本件でお二人をここにお呼びした理由です。故意に発生させる――あるいは既存の転移点を制御する方法を持つ連中がタシェニュヴルア側にもいて、今回の事件にも関与している。そこを突かなければいけません」
一同は短い沈黙の後、議題を整理するように口々に可能性を挙げ始めた。議論は徐々に組織立てられていく。
「可能性その一」――俊一が示した仮説は、考古学的遺物と転移現象の結びつきだ。「学生がフィールドで掘り出した何かが、場所や時刻と結びついて“開口”を生んだ。遺物そのものが触媒になり得る。だから考古学部の学生が狙われた」
詩郎は首を傾げ、すぐに別の角度を付け加える。
「ただし、教授の方が掘り出しの権限や知識は持ってるはずだ。もし狙いが『知識』や『解析』なら教授を狙うはず。だから遺物目的だとしても、犯人もしくは雇い主が『若い体』そのものを目的にしている可能性もある」
「可能性その二」――イレイアナが声を潜める。彼女の表情は曇っていた。
「噂――不老不死を求める者たちの需要です。噂が真偽を問わず価値を生み、闇市場で『生体儀礼』や『儀式用の生け贄』として地球人を求める者が出てくる。もしそうなら、年齢や健康な若者という属性が重要視される。考古学部というのは、単に彼らがフィールドに滞在していて“取り込みやすかった”に過ぎないかもしれません」
マシューズが補足する。
「つまり、二つの主たる流れが考えられる。『遺物・地点が目的で、そこにいた人間は便宜上の標的』か、『若い人間の身体そのものが目的で、彼らは値踏みされ選ばれた』。また、両者が結びついている場合もある。遺物や転移ポイントを開くことと、儀式を行うことが同一の連中によって為されている可能性だ」
詩郎は腕組みしたまま眼を泳がせる。
「それに、人為的な転移という点を見れば、相当な知識と制御技術がいるはずだ。単なる野盗や祭祀集団の域を超えてる。国を跨ぐ組織か、異世界側に根を持つ勢力、あるいは両側にルートを持つ商人――そんな連中が関与しているはずだ」
「もう一つ考えられるのは『実験』だ」俊一が言う。「転移技術を試すために、手近な被験者を使った。対象の選択が学生だったのは、倫理や反撃能力が弱いからだ。あるいは、学生の行動範囲やログが解析しやすいという単純な理由もある」
イレイアナの瞳が鋭くなる。
「我が国でも、似たような噂に基づく事件が点在していますが、目撃例の多くは“転移が起きた地点”と“古代の遺構”と近接している。直線的に考えれば、遺構を巡る争奪戦の中で人が奪われる――という線は切れません」
セリィが小さく息を吐き、髪飾りを軽く直すしぐさを見せた。
「日本の捜査当局では、失踪した学生たちの最後の位置情報、作業中に扱っていた遺物の記録、連絡先、出入りした車両や人物の目撃証言を虱潰しに当たっています。こちらでは、グランベルミア側の魔導反応ログと照合しました。時間もほぼ一致しています。故意に橋をかけた痕跡がある」
マシューズは資料をスクリーンに投影する。数枚の時系列図、転移反応の波形、そして失踪者たちの最後の通信ログ。数値と線が集積して、会議室に緊張をもたらした。
「現状で優先すべきは三点だ」マシューズが結論めいた言い方をする。「一つ、失踪現場の正確な特定。二つ、遺物や発掘物の追跡。三つ、異世界側での流通ルートや黒市の摘発につなげる情報の収集。どれも迅速にやる必要がある」
俊一は拳を握りしめ、小さくうなずいた。
「動かしやすい選択肢から潰そう。まずは現地での聞き取りと遺物の現物確認だ。学生のノート、GPS、写真、教授の研究ノート――どれも手がかりになる」
詩郎は眉を吊り上げ、毒づくように付け加える。
「そして、もし噂が本当に利用されているなら、被害は増える。市井の若者が狙われる前に手を打たないと、取り返しがつかなくなる」
イレイアナは小さく首を振り、目にうっすらと涙を宿した。
「私たちは、我が国の文化や価値観が歪められ、善良な市民が害されるのを見たくはありません。噂は容易に暴走し、残虐な需要を生みます。もし人が『商品』として扱われるようなら、ここでの共生実験そのものが崩壊する」
沈黙が訪れ、全員の顔に決意が浮かぶ。セリィがふと、いつもの少しぎこちない笑みを浮かべる。
「それで、です。異世界への渡航方法や検査、現地での動き方を、こちらの作戦司令部で詳しく説明します。お二人には現地捜索の担当をお願いしたいのです」
言葉を終えると、セリィは立ち上がり、会議室の脇に伸びる別室の扉を示した。丁寧に、だが言外に強い覚悟が滲む。
「準備はいいですか。これから、実際に『向こう側』へ行くための説明をします」
俊一と詩郎は互いに一瞬視線を交わし、黙って頷いた。二人はセリィに先導され、別室へと進んで行く。会議室の残る者たちは、それぞれの資料に視線を落としながら、これから始まる捜索の重さを噛み締めていた。
ディオドスシステム
研究施設区画の重厚な扉が開いた瞬間、俊一と詩郎の視界に広がったのは、巨大な円環を成す金属の構造物だった。直径十メートル近いその環は、ただの機械ではない――表面には幾何学模様のような紋様が刻まれ、淡い蒼光が脈打つように走っている。その姿はまるで生き物の鼓動を具現化したかのようで、冷たい科学の結晶でありながらも、どこか異様な神秘を漂わせていた。

「これが……ディオドスシステム……」
俊一は思わず呟いた。噂や報告書の中でしか触れたことのなかった装置を、ついにこの目で目の当たりにしている。かつて堕神戦争の最中、ブレイバーズが異星文明の技術を解析して生み出した次元転移装置。地球と異世界を自由に往来するための“門”――それが今、彼らの眼前に鎮座しているのだ。
詩郎が低く口笛を吹く。
「これを使えば、その……タシェニュ何とかとかいう異世界に行けるんだな?」
その声には緊張と興奮が入り混じっている。
セリィは胸に手を当て、真剣な眼差しで二人に告げた。
「はい。お二人の任務を補佐するため、私も同行させてもらいます。通信士官としてだけでなく……友人として」
少し照れたように笑うが、その瞳は揺るぎない決意で輝いていた。
マシューズ大佐が一歩前に出て、力強く言い放つ。
「頼んだぞ、二人とも。いや――三人だな。必ず異世界に拉致された地球人を救出して来てくれ。これは命令であると同時に、地球に残された者たち全員の願いだ」
その声に俊一は背筋を伸ばし、詩郎は拳を固く握った。
イレイアナが一歩進み出て、銀の髪を揺らしながら静かに告げる。
「グランベルミナ王国の者たちには、すでに私から話を通してあります。必ずや、あなた方の力になってくれるでしょう。……どうか、ご武運を」
その言葉は祝福の祈りにも似て、三人の心に温かく響いた。
俊一は深く息を吸い込み、蒼く脈打つ環を見据えた。
「……行こう。俺たちの同胞を取り戻しに」
詩郎が短く笑う。
「ま、腹はくくったさ。行き先が地獄だろうが、やることは同じだ」
セリィも力強く頷き、装置の操作卓に触れる。ディオドスシステムが唸りを上げ、円環の中心に青白い光が水面のように広がっていく。
やがて輝きは安定し、空間そのものが揺らぎ始めた。
マシューズの敬礼、イレイアナの祈りを背に受けながら、俊一、詩郎、そしてセリィは一歩、また一歩と光の門へ踏み出していく。
次の瞬間、彼らの姿はまばゆい光に包まれ、研究区画から掻き消えた。
――こうして、ブレイバーズの獅場俊一と寺瀬詩郎、そしてセレスティア=スパークル。三人は未知の異世界〈タシェニュヴルア〉へと転移するのであった。
(つづく)
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