二つのラケットバッグ
某月某日、珍しくサークル以外の友人たちとテニスを楽しんだ藤永沙織は、スポーツで気持ちよく汗を流した後、更衣室でシャワーを浴び、テニスウェアからいつもの私服に着替えて、その日は平穏に友人たちと別れたのだが、テニスコートの管理棟から外へ出るところで不審な中年男とすれ違いざまにぶつかってしまった。しかも運の悪いことに、その中年男は沙織のラケットバッグと全く同じメーカー、同じ型、外見が瓜二つな物を持っ通り、沙織も中年男もぶつかった際に双方が持っていたラケットバッグを床に落としてしまったのだった。
「あっ、ごめんなさい💦」
「チッ、気をつけろッ!!」
ぶっきら棒な男は自分の物だと思ったラケットバッグを拾うと、さっさと立ち去ってしまった。
「何よぉー!そっちからぶつかって来たくせにー!!」(○`ε´○)プンプン!!
男の態度に憤慨した沙織だったが、すぐに気を取り直してラケットバッグを拾うとその場から離れるのであった。一方先程の不審な男は、同じスポーツ公園内のとあるベンチで別の男と待ち合わせをしていた。
「やま」
「かわ」
視線を合わさず合言葉で互いを確認した二人の男たち。一方の男が、例のラケットバッグをもう一方の男に手渡す。男はラケットバッグのジップを開いて中身を確認しようとするが……。
「おい!何だこれは!?」
「どうした??」
「これはどういうつもりだ!? 中身をよく見て見ろ!」
ラケットバッグの中身はテニスラケットやテニスボール、そして女子の物と思しき脱ぎたてのテニスウェアといったテニス用具の数々であった。
「貴様ァァッッ!! 俺を嵌めようってのかッ!?」
「ま、待ってくれ!💦 誤解だ!!……あっ、そうだ💡 あの若い娘の持ってたラケットバッグ! きっとあの時すり替わってしまったに違いない! ちきしょー、追うんだ!!」
連れ去られる沙織
「沙織~!」
「あっ、とも君!」
帰宅途中だった沙織は、自転車に乗って向こうから走って来た平瀬倫生すれ違うように出会う。倫生は沙織のサークル仲間で且つ付き合っているボーイフレンドでもある。
「沙織、友達とテニスからの帰りか?」
「うん、そうだよ」
「今日はショップのバイトにはいつ来るんだよ?」
「ちょっと寄るところがあるんだ。そっちの用事を済ましたらすぐに行くって愛実たちにも言っといて。あっ、そうだ!💡」
沙織は背負っていたラケットバッグを倫生にどんと押し付けた。
「わっ、いきなり何すんだよ!?💦」
「だって重いんだもん。せっかくだからショップまで先に運んどいてほしいなぁ~♪」
「やれやれ、相変わらず堂々とした性格してんな~。まっ、そこが沙織のいいところだけどな。いいぜ、運んどいてやるよ」
「ありがと!」
こうして先にアルバイトに向かった倫生と別れてから数分後、沙織は突然一台の車に乗った二人組の男に襲われた!
「あっ、貴方はさっきのおじさん?」
「見つけたぞ! 手間ァかけさせやがって!」
「一緒に来てもらうぞ! さあ、とっとと乗るんだ!」
「な、何するんですか!? やめてください! だ、誰か助けてぇー!! むぐぅ…んむむぅぅー!!!!」
沙織は男たちに2人がかりで羽交い絞めにされ、騒がないように口も手で塞がれて無理やり車に乗せられ、どこかへと連れ去られてしまった。
テニスショップにて
ここは藤永沙織も所属している小規模テニスサークル『TEAM FRIENDS』の面々のアルバイト先にして憩いの溜まり場でもある『朝比奈テニスショップ&スクール』である。
先にメンバーの勢川理人と岸本愛実が店を開いてバイトで働いていたところへ、沙織のラケットバッグを背負った平瀬倫生が現れた。
「倫生、どうしたんだよ、そのラケットバッグ?」
「沙織が俺に押し付けて行ったんだよ。それにしてもこのバッグ重いなぁ…。沙織のやつ、一体中に何を入れてんだ?」
テニスラケットやテニスウェアしか入っていない割には、このバッグは明らかに重すぎる。中身が気になる一同。しかし男子が勝手に女子のバッグを空けて中身を覗き見るのもいかがなものか…。そこで代わって愛実がバッグを空けて中身を確認することに。すると中からはあろうことかテニスラケットやボールでもなくテニスウェアでもなく、白い粉が小さなビニール袋に小分けされた物が何十個もぎゅうぎゅう詰めで入っていたのである。
「何なの、これ…?」
「砂糖…? 塩…? いや、片栗粉か?」
「もしかして麻薬か覚せい剤じゃ!?」
「ハハハハハ、まさかぁ!!」
尋問
「知りません! 私は何も知りません!」( ノД`)シクシク…
「強情な女だ。もっと痛めつけられたいのかァッ!?」
男たちのアジトで、沙織は手足を縛られて監禁され執拗な尋問を受けていた。ひどい拷問こそされていなかったが、容赦ない平手打ちが沙織の柔らかい頬に何度も向けられた。それでも沙織は泣きながら必死に「自分は何も知らない」と男たちに訴える。
沙織は捕まってからの男たちのやり取りで、彼らが麻薬の売人であることには気づいていた。きっとあの男が持っていたラケットバッグと自分の物が、あの時の帰り際に入れ替わってしまったのだ。そして自分が持ち帰ったバッグの中には麻薬か覚せい剤の類がたんまりと詰め込まれていたのだろう。だとしたら尚の事、沙織はバッグの在処をいう訳にはいかなかった。なぜなら自分の大事な彼氏や親友たちに危害が及ぶ可能性があるからだ。
その時、沙織が持っていたスマホの着信音が鳴った。気づいた沙織が「あっ!」という暇もなく、すかさず犯人がスマホに出る。
「もしもし、沙織か? 俺だ、倫生だ。どうしたんだよ? もうバイトの出勤の時間は過ぎてるぜ。それにあのバッグの中身の白い粉の塊は一体……」
「とも君、すぐにそれを持って警察に届けて! 私はどうなってもいい! だからッッ!!」
「余計な事を喋るな!」
「んむ、んんっ、んむむぅぅー!!!!」
男の片割れが、すかさず沙織の口にハンカチを当てて塞ぐ。
「沙織!? 今の声は沙織なのか!? 一体どうしたんだ!? 返事をしてくれ!!」
「もしもし…」
「だ、誰だよアンタ!?」
「君の可愛いガールフレンドの女の子はこちらで預かってる。返してほしければ、そのラケットバッグと中身ごと交換だ。もし警察にでも駆け込みやがったら、愛しの子猫ちゃんとは二度とこの世で会えなくなるぜ」
「わ、分かった。言うとおりにする。だから沙織には指一本触れないでくれ」
「いいだろう。取引にはお前一人で来るんだ。場所と時間は後でまた連絡する」
そうしてガチャっと通話は一方的に切られてしまった。
どうする!?TEAM FRIENDS
「やっぱりこのバッグの中身の白い粉は麻薬だったのよ!」
「警察に連絡しよう」
「ま、待ってくれ!!」
電話に手を伸ばそうとした理人を倫生が止める。
「そんなことをしたら沙織が〇される! ここは犯人の言うとおりにしよう」
「でも、犯人の言うとおりに従ったところで、藤永さんが無事に帰って来る保障はないんだぞ!」
「分かってるよ。だから俺が一時間経っても戻ってこなかったその時は、警察に連絡してくれ」
「倫生…」
やがて数分後に犯人から再度の電話がかかって来て、倫生は白い粉の詰まったラケットバッグを持って一人で店を出て行った。犯人から指定された場所へと向かったのである。
「愛実、今日は早めに店じまいだ! 俺たちもこっそり後を追うぞ!」
「うん、分かった。そう来なくっちゃ! でもどうするの? 私たちが迂闊な真似をしたら、それこそ沙織と平瀬くんの命が!」
「倫生も藤永さんも死なせるもんか! 必ず2人とも俺が守って見せる!」
こうして店を飛び出した理人と愛実。果たしてTEAM FRIENDSの4人はこの危機を脱することが出来るのか!? 後編に続く!
コメント
久々に「TEAM FRIENDS」きましたね~、今回は巻き込まれパターンですね!
鞄の取り違え展開から事件に巻き込まれてしまう展開、DIDと相性良いですよね。
そして不幸にも事件に巻き込まれてしまったのは、前回なんと出演なしで亡八者様を落胆させてしまった沙織ちゃん、久々のメイン回ですね!
ラケットバッグ一杯にブツ、単価いったい幾らなんだろうか…(オイ…
そんなあきらかにヤバイところが相手、果たして「TEAM FRIENDS」だけで何とか出来るのでしょうか…そして1人沙織ちゃんを助けにヤバイブツを持って危ない奴らが待ち受けるところへと向かう倫生くん…2人は無事に新しい年を迎えることが出来るのでしょうか(まあこの世界の季節は夏でしょうが…
> そして不幸にも事件に巻き込まれてしまったのは、前回なんと出演なしで亡八者様を落胆させてしまった沙織ちゃん、久々のメイン回ですね!
亡八者様からの熱烈なプッシュの声を受けて、今回のメイン人質は沙織さんにしてみました。尤も他の3人にもしっかり縛られてもらうつもりではありますが( ̄ー ̄)ニヤリ
> 2人は無事に新しい年を迎えることが出来るのでしょうか(まあこの世界の季節は夏でしょうが…
大晦日に後編を投下して本年中に完結させるつもりでしたが、結局気が変わりまして大晦日には中編を投稿することとし、沙織さんたちには申し訳ないことになりましたが解決編となる後編は年明けに持ち越しにしました。SSを書いてて、すぐに事件を解決させちゃうのは何だか勿体なく感じて来ちゃいまして(;^_^A アセアセ・・・
沙織さんだ沙織さんだ~~、ぐふふ…。
……気色悪いですね、すみません。
いやあ、いつ見てもいいですねえ、沙織さんの囚われ姿。
特にその御御足が……なんて書いてると、倫生君に殴られそうですが。
かなり危機的状況のTEAM FRIENDSですが、きっと主役補正が何とかしてくれることでしょう(オイ)。
当方のキャラとコラボしていただけるとのことで、まことにありがとうございます。
姉弟の設定は、自分の中ではこんな感じにしてます。
姉・中村友美
年齢・19~20歳くらい(高校を卒業して間もないというイメージ)
身長・162~163㎝くらい
職業・フリーター
弟・中村弘樹
年齢・高校1年生くらい 姉と4歳ほど離れてる感じで
身長・163~164㎝くらい 姉とほとんど変わらないイメージ
職業・学生 地元の高校に通ってる(友美さんも同じ学校の出身)
友美さんの服装はおしゃれよりも動きやすさ、機能性重視
見える見えないを気にしなくて済むのでショーパン姿を好む
(ほんとは作者の性癖だけど……ゲフンゲフン)
真冬でも生足で寒さにはめっぽう強い
弘樹君の服装は目立つのを嫌うので地味、おしゃれに興味ないのでダサめ。
友美さんの性格は活動的で明るくて社交的、友人が多い
誘拐されたり事件に巻き込まれたりしても、よほどのことでなければすぐ立ち直れる強さの持ち主
弘樹君の性格はおとなしく、ややコミュ障、自分の殻に閉じこもりがち
ただ、姉が危機に陥ると性格が豹変、○○もいとわないくらい攻撃的になるときもある
存在感も薄く、典型的な非モテ
当然彼女いない歴=年齢
あらゆる面で対照的であるが、姉弟の仲はとても良好
……とまあ、こんなところでしょうか。
あれ着せたらダメとか、あまり細かい禁止事項を設けるつもりはありません。
他にも聞きたいことがあったら受け付けます。
それでは、よいお年を~。
> いやあ、いつ見てもいいですねえ、沙織さんの囚われ姿。
> 特にその御御足が……なんて書いてると、倫生君に殴られそうですが。
いえいえ、好きなだけ沙織さんショーパン美脚をガン見してくださいませ。倫生くんはこの通りふん縛っておきますのでw
> 姉弟の設定は、自分の中ではこんな感じにしてます。
詳細な設定ありがとうございます。
友美さんはフリーターだったんですね。てっきり女子大生だと思っていました。
やはり友美さんはミニスカよりもショーパンが似合いますね。かく言う管理人もショーパン派ですので、今から友美さんにどんなショーパンを穿かせようかと楽しみです。
そして弘樹くんにも、昭和の小学生みたいな丈短めの半ズボンを穿かせてみたい!
だんだん管理人の妄想が掻き立てられて来ましたよ~!
夏休みに軽井沢のような避暑地に家族ぐるみの観光旅行へと出かけた中村家。
両親が別の場所でショッピングをしている間、慣れない新品テニスウェアを着て初心者ながらもテニスを楽しんでいた友美さんと弘樹くん。そんな姉弟を遠くから見張っている不審者の影が!?
> あれ着せたらダメとか、あまり細かい禁止事項を設けるつもりはありません。
> 他にも聞きたいことがあったら受け付けます。
>
> それでは、よいお年を~。
いろいろとご配慮ありがとうございます。
何か聞きたいことが浮かびましたら、その時にはまた質問させていただきます。
今年は大変お世話になりました。
また来年もよろしくお願い申し上げます。