検非違使秘密任務禄　その五

来島陽依の誕生日パーティーを翌日に控え、その陽依と仲良くテニスを楽しんでいた孝森祐宜と椿姫絢那。だが、絢那が陽依と間違えられて何者かにテニスコートから誘拐された！
祐宜は、来島家別荘にメイドとして潜入していた三刀谷真玲と合流する。

※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。

情報整理

物置部屋の中。埃を被った古びたスチール棚に囲まれた薄暗い空間で、祐宜と真玲は互いに小声で会話を交わしていた。

机代わりの木箱の上に広げられた数枚の資料。そこに載っていたのは、一人の男の顔写真と簡潔な経歴。

「……絢那さんを陽依さんと間違えて誘拐した犯人は、おそらくこの男よ」

真玲が指差したのは、無精髭をたくわえ、憔悴したような目をした中年男の顔。名は、野田武志。五十五歳。

「翠琳が調べてくれたの。元は町工場の社長だったそうよ。父親の代から続く小さな金属加工業。だけど、数年前に倒産してる」

「原因は？」

「来島士門の投資詐欺。表向きは“未来型エネルギー事業”への出資話だったけど、実際はその資金がどこにも使われた痕跡はなかったらしい。野田は全財産を突っ込んだ挙句、工場も潰れて、従業員も家族も全部失ったわ」

祐宜は腕を組んで資料を見つめたまま、沈黙した。

「……けど、なんでその時に来島は捕まらんかったんや？」

「検察、マスコミ、政治家……あらゆる方面に根回しして、もみ消したみたいね。直接的な証拠も、故意に曖昧にされた。力技よ。アスカロン財団も当時は証拠不十分で動けなかった」

「……なるほどな。そら恨まれても仕方ないわ」

資料の野田の顔が、どこか虚ろな怒りを湛えているように見えた。彼の怒りの矛先は本来来島士門であるはずだった。それが、娘の陽依――そして、彼女と間違えられた絢那へと向かってしまった。

物置部屋から廊下へと出た祐宜は、しばらく歩いた先で偶然通りかかった来島士門と出くわす。

「祐宜くん、ちょっと来てくれないか？」

場の空気が一変する。真玲と目を合わせた祐宜は、無言で頷き、部屋を出た。

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応接室へ案内された祐宜を出迎えた士門は、例によって人当たりの良い、だがどこか芝居がかった笑顔を浮かべていた。

「祐宜くん、絢那さんの件は……誠に申し訳ない。陽依の友人として、彼女を守ろうとした君にも、心から感謝しているよ」

「はあ……」

表面上は丁寧に頭を下げる士門の口調に、妙なよそよそしさを感じながら、祐宜は眉をひそめる。

「実は、先ほど再び犯人から連絡があった。要求は変わっていない。身代金は三千万円だ」

そう言って、士門は傍らの執事に目配せをし、黒いアタッシュケースを持ってこさせた。中には札束が、まるで模型のように整然と詰め込まれていた。

「……ずいぶん用意が早いんですね」

「……私としても、絢那さんの無事を最優先したい。今回は私の責任だ。だから、金はすべて私が用意する」

士門は椅子から腰を上げ、祐宜の前へと進み出る。

「それから、犯人側は“身代金の運搬役”として、陽依の友達である君を指名してきた」

「……はあ！？ なんで俺が！？」

「君が交渉の場に出てくれた方が、犯人も安心するのだろう。警察にはまだ通報していない。これも犯人の要求の一つだ」

一見すると絢那の身を案じての行動。だがその態度の裏に、どこか作為的なものを祐宜は感じ取っていた。

（……やけに話がスムーズすぎる）

とはいえ、今はそんなことを詮索している場合ではない。絢那の命が懸かっているのだ。

「……わかりました。引き受けます」

祐宜はアタッシュケースを受け取り、立ち上がった。

「ありがとう、祐宜くん。私も絢那さんの無事を祈っているよ」

士門はそう言って、いつものように穏やかな笑顔を浮かべた。

だがその笑みの裏側に、果たしてどんな本心が隠されているのか――祐宜は見極めることができなかった。

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祐宜はアタッシュケースを手に、指定された郊外の廃工場へと足を向けていた。

向かう先に、絢那の姿があると信じて。

たとえどんな罠が待ち受けていようとも――。

身代金受け渡し

廃工場の空気は湿って重たく、錆びた鉄の匂いが鼻をついた。夜風に軋むトタン屋根の音が、まるで誰かのすすり泣きのように響く。

その中央、朽ちかけた機械が並ぶ空きスペースに、男と一人の少女がいた。

「絢那！」

祐宜が鋭い声で呼びかけると、絢那はすぐに顔を上げた。テニスウェア姿のまま、後ろ手に縛られて椅子に括りつけられている。だがその瞳は怯えておらず、むしろ落ち着いていた。

「先輩……！」

祐宜の姿を確認した絢那が声をあげたその時、中年男が立ち上がった。

「おい、お前……来島の秘書って聞いてたが、ずいぶん若いな。まだ学生じゃないのか？」

「何言うとんのや？」祐宜は静かに睨み返す。「俺を運搬役に指名したんは、あんたちゃうんか？」

男――野田武志は、顔をしかめた。「は？ そんなこと言った覚えはないぞ？」

一瞬の沈黙。祐宜は、すべてを察した。

「……やっぱり、そうかい。来島士門……おっさん、やってくれたな」

自分が身代金の運び役に犯人側から指名されたという来島の話は、全くの嘘だったのだ。自分は単に“巻き込まれるため”に送り込まれたのだと、祐宜は理解した。

「おい、絢那。……もうええやろ。いつまで捕まったままのフリしとんのや？」

その言葉に、絢那が軽く肩をすくめて微笑んだ。

「ですよね、先輩」

次の瞬間、彼女の体がしなやかに動いた。縄の中からスルリと手首を抜き、ひと蹴りで椅子を後方へ倒す。そのまま軽やかに立ち上がると、野田の腕を取り、祐宜が後ろから脚を払うようにして、二人がかりで押さえ込んだ。

「ち、ちくしょう！　何がどうなってやがる！　放せー！💦」

「大人しくしてください！」

絢那の声が鋭く響いた。冷静な瞳は、すでに完全に状況を掌握している。

祐宜は一歩前へ出ると、手にした黒いアタッシュケースを地面に置いた。そして、何の躊躇もなくガチャリと開き、その中身を全て床にぶちまけた。

野田の目の前に広がる紙の山。札束に見えたそれは、一番上の一枚だけが本物の一万円札で、あとはすべて新聞紙を綺麗に切り抜いた偽物だった。

「……こんなこったろうと思ったで」

祐宜の言葉に、野田はその場に崩れ落ちた。

「……こんなはずじゃ……なかったのに……。あの人の言う通りにしてれば……来島に復讐して、ついでに大金も手に入るって……」

「あの人……？」絢那の目が鋭くなる。「他に誰か黒幕がいるんですか？」

だがその問いに答える前に、祐宜が首を傾げた。空気の振動。空間の歪み。足音ではない、気配のざわつき。

「絢那……お客さんや」

祐宜の声と同時に、外から足音が何重にも重なって響いた。金属のブーツ、遮蔽物を蹴る音――廃工場の出入り口を囲むように、暗い影が次々と現れた。

全身を黒い戦闘服で固め、サブマシンガンやハンドガンを構える数人の男たち。明らかに訓練された動き。武装した傭兵だった。

「来島が……送り込んだんやな」

そう呟く祐宜の目が、冷たく光る。

「……絢那、野田を守れ。おっさんにはまだ、聞かないとあかんことがある」

「……了解です」

祐宜は静かに背中から愛刀を抜いた。

鞘から抜かれた瞬間、空気が揺れる。

刀身は夜空を切り裂くように淡く青く輝き、微かに風の鳴るような音が聞こえた――祐宜の愛刀「空鳴（そらなり）」。

彼の呼吸が整う。傭兵たちがざわめく。その気配だけで、彼らは目の前の青年が只者でないことを悟っていた。

「来るなら来い。まとめて片付けたる」

その言葉と共に、廃工場の静寂は、一瞬で地獄の咆哮に変わるのだった――。

（つづく）

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