グラビティ・ブレイカーズ　第4話

突如として現れた竜門会の手下たちに襲われた恋中七香だったが、駆けつけた久我美輝と寺瀬聖佳のおかげで辛くも難を逃れた。

※chatGPTで生成した文章に、一部編集を加えております。

張天喜VS劉鉄嶺

　横浜港に並ぶコンテナ群を抜け、冷たい潮風を受けながら、ひとりの老人が無言のまま歩いていた。

　張天喜――中華街の小さな料理店「祥龍園」の店主であり、地元でも名の知れた名料理人。その穏やかな笑顔と飄々とした人柄は、多くの常連に親しまれてきた。だが今、その顔にいつもの柔和な表情はなかった。

　彼の拳は怒りに震えていた。

　（七香ちゃんを……！　あの子に何の罪があるというのだ！）

　港湾倉庫――竜門会のアジト。その奥まった空間で待ち構えていたのは、金髪に黒サングラスをかけた男、劉鉄嶺だった。張の弟子でもあったこの男は、かつては礼儀正しく、拳法に純粋な情熱を注いでいた。だが今、その面影はすっかり失われていた。

　「やあ、お待ちしていましたよ。張老師（ジャン・ラオシ）、よいお返事を持ってきてくれましたか？」

　劉はにやりと口元を歪め、両腕を組んで張を迎えた。背後には竜門会の手下たちがずらりと並んでいる。

　「答えは一つだ、鉄嶺……何故、七香ちゃんを襲った？」

　張の声には怒りが滲んでいた。だがその瞳には、一点の迷いもない。

　「……あの子は、何も関係ないはずだ。お前がどれだけ堕ちたとしても、民間人を巻き込むことはしないと信じていた」

　「信じてた？　ハハ、こりゃ一本取られましたね。けどアンタの店、あの子の行きつけでしょ？　組織に逆らった張老師に肩入れしてる人間がいれば、そりゃあ見せしめにもなるってもんです」

　「貴様……!!」

　張の拳が音を立てて鳴る。細身の身体に不釣り合いなほどの気迫が迸り、空気がぴんと張り詰めた。

　「……許さん!!」

　その言葉を合図に、張天喜が先に地を蹴った。劉も同時にサングラスを外し、鋭い眼光で迎え撃つ。

　「手ェ出すんじゃねえぞッ！　これは俺と老師の“ケジメ”だ！」

　部下たちに一喝すると、劉は三節棍を構えた。だが張は武器を持たない。素手の拳だけで、正面から突っ込んできた。

　――音が消えた。

　その瞬間、倉庫内で激しい拳の応酬が繰り広げられた。張の拳は風を裂き、足捌きは年齢を感じさせない鋭さで地面を滑る。対する劉も、荒々しいが隙のない攻撃で応じる。

　「くッ……！」

　鋭い蹴りを受け、劉が後退する。張の拳がその頬をかすめ、鋭い衝撃が響いた。

　「なかなかやりますね……さすがは俺の老師」

　乱れた息を整えながら、劉は笑みを浮かべる。だがその瞳には、明らかに焦りがあった。

　「だが……！」

　その声が低く唸った刹那、彼の身体に異変が起きた。

　全身の筋肉が盛り上がり、スーツの布地が破ける。皮膚は金属光沢を帯び、背中からは機械の配線がのたうつように露出する。頭部には曲がった角が生え、口元からは虎のような鋭い牙が現れた。

　「これが……俺の“切り札”ですよ、老師！」

　姿を現したのは、中国神話に登場する貪欲の象徴、神獣「饕餮（とうてつ）」を模した戦闘用サイボーグ。牛のような胴体に、羊の蹄、虎の牙、そして金属の装甲が融合した、異形の戦闘兵器。

　「……ッ！　そんなものに成り果ててまで、強さを追い求めたというのか……鉄嶺……!!」

　張は驚きながらも、一歩も退かない。むしろ、かつての弟子がどれだけ道を踏み外していようと、自らの拳で止める覚悟を固めていた。

　鋼鉄の咆哮が倉庫に響く。

　師と弟子。かつて同じ拳を交わした者同士の戦いは、今や異なる道を選んだ二人の運命の激突へと変わろうとしていた――。

尾行

時間は少しだけ遡る――。

　朝の中華街は、まだ店の暖簾も上がらぬ静けさに包まれていた。陽はようやく空を染め始め、路地裏に差し込む光もまだ頼りない。そんな早朝の街並みの中、一人の少女が人目を忍ぶように身を潜めながら歩いていた。

　寺瀬聖佳――中華料理店「祥龍園」の看板娘。落ち着いたカジュアルな服装の下でも隠せない凛とした美しさがあった。

　「……やっぱりおかしい」

　視線の先には、路地を曲がっていく張天喜の背中。いつものように穏やかに笑っていた店主が、今朝は唐突に「今日は臨時休業にする」とだけ告げ、誰にも行き先を話さずに店を出た。

　張天喜は、聖佳にとって単なる雇い主ではない。家族のような存在であり、料理人としても、人としても心から尊敬している師傅だった。

　（こんな朝早くに、一人で……何か、よからぬことじゃなければいいけど）

　不安と胸騒ぎが彼女を突き動かした。

　「でも、聖佳さんこそ……こんな朝からどうしたんですか？」

　「……実はね。師傅の様子が、今朝からずっとおかしいの。開店前に急に臨時休業だなんて言い出して、どこへ行くのかも教えてくれなくて」

　「えっ、喜さんが……！？」

　七香の顔から笑みが消えた。

　「ちょっと気になって……だから、こっそり後をつけてきたの」

　「だったら……私も一緒に行きます！」

　迷いのない瞳で、七香が言う。聖佳は一瞬驚くが、すぐに頷いた。

　「……分かった。でもくれぐれも気をつけて。七香ちゃんには何かあったばかりなんだから、危ない真似はしないって約束してね」

　「うん！」

　二人は息を潜めるように、再び張天喜の後を追い始めた。

　朝靄の街に、足音だけが静かに響いていた――。

（つづく）

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