白髪館での対決

首都圏にある某公立大学に通い、同じテニスサークルに所属している勢川理人、岸本愛実、平瀬倫生、藤永沙織の4人が普段アルバイトをしているテニスショップ兼テニススクールのオーナー、朝比奈倫太郎には知られざるもう一つの顔があった。元警察庁キャリア官僚ながら天下り先の斡旋を蹴って退官後は今は小さなスポーツ用品店を細々と経営しているという華麗ながらも風変わりな経歴と、これまで数々の難事件を解決へと導き警視庁上層部すらも一目置く名探偵という顔である。理人たち4人は、学業やサークル活動、そしてバイトの傍ら朝比奈の助手としても活動していた。

そんな朝比奈に挑戦状を叩きつけて来たのが、今巷を騒がしている怪盗、白髪鬼である。
白髪鬼は決して人は殺さず傷つけず、鮮やかにターゲットとなる代物だけを瞬く間に奪い去った後、まるで煙のように現場から逃げ去ってしまう稀代の盗賊である。そんな白髪鬼が、帝国財団美術館に所蔵されている国宝級の観音像を盗み出すとの予告状を送りつけて来たのだという。警視庁と帝国財団は、直ちに朝比奈探偵に協力を要請したのだが、白髪鬼に先手を打たれ、朝比奈探偵の手足ともいうべき理人たち4人が白髪鬼に誘拐されてしまった。

白髪鬼とのテニス対決

テニスウェアに着替えるよう白髪鬼の手下から命令された愛実と沙織は大人しく従い、着替え終わってから白髪鬼の待つ部屋へと通された。そこで彼女たちは白髪鬼からある映像を見せられる。

よく見ると、熱気がムンムンとしている高温のマグマが煮えたぎる部屋の奥の方で、一人誰かが横たえられている。

「あ、あれは…！？」
「まさか…とも君ッ！？」

「うっ…むぐぅぅ！！」

なんと地獄の高温部屋に閉じ込められていたのは、仲間の平瀬倫生だった！
白髪鬼の言によると、彼は逃げ出そうとしたので罰としてこの部屋に閉じ込めたのだという。
周囲の灼熱の熱気に巻かれ、倫生はとても苦しそうだ。

「やめて！このままだと、とも君が焼け死んじゃう！！」
「彼を助けたければこの私とテニスで勝負したまえ！　君たちが勝ったら彼を解放してやろう」
「分かったわ。これでも私と沙織は高校時代はインターハイにも出場した経験だってあるんですからね！　私たち二人を甘く見るとそっちこそ大火傷するわよ！」

倫生を救うべく、白髪鬼とテニスで戦うことになった愛実と沙織だったが……。

続きは帝国財団美術館で

結果は愛実と沙織の惨敗だった。白髪鬼はウィンブルドン選手権優勝選手レベルのテニスの腕を誇っていたのだ。完膚なきまでの返り討ちに遭い、愕然としてその場に崩れ落ちる愛実たち。

「そ、そんな…強い、強すぎるッ…」
「も、もうダメだわ。とも君、ごめん…」
「不甲斐ない小娘たちだ。どれ、止めを刺してやろう」

止めの一撃を愛実たちに食らわせようと、白髪鬼が彼女たちに近づこうとしたその時——！！

「沙織、安心しろ！　俺は無事だ！」
「な、何者だ！？」

突然聞こえた声に驚いた白髪鬼が振り返ると、そこには先程まで捕まっていたはずの平瀬倫生と勢川理人、そして彼らのアルバイト先の雇用主にして探偵としての師でもある名探偵・朝比奈倫太郎その人であった。

「あ、朝比奈君！？」
「やあ、白髪鬼君。今回は私の助手たちが随分と世話になったようだね」

無事だった倫生の傍に、沙織が駆け寄る。

「とも君、本当に無事でよかった！　でもどうやって助かったの？」
「モニターを見て見ろ沙織。あれがさっきまで俺が閉じ込められていた部屋だ」
「えっ？」

なんとさっきまで倫生が横たえられていた部屋は、高温の拷問部屋でも何でもない、ただの水の池があるだけの普通の部屋だったのだ。溶岩に見えたのは赤くライトアップされた池の普通の水。他も全て高度なプロジェクションマッピングでいかにも灼熱の熱い部屋に見せかけていただけたったのだ。

「さすがは白髪鬼君。人を化かすにかけては芸術的レベルだ」
「朝比奈君、どうしてここが分かったのかね？」
「悪戯好きの君のことだ。きっと愛実君と沙織君のテニスウェアとテニス用具一式を盗み出すと予測し、あらかじめ発信器をつけておいたのだよ。そして発見した君のアジトに潜入し、ひとまず先に理人君と倫生君から助け出したという訳だ」
「さあ白髪鬼、オーナーが来た以上、お前はもうおしまいだ！　ここはもう警察が完全に包囲しているんだ！　観念しろ！」

白髪鬼に投降を迫る理人だったが、白髪鬼は不敵に笑った。

「せっかくだが、まだ勝負は終わってはいない！」

その時、突然辺り一帯が停電して真っ暗になった。その瞬間、愛実と沙織の「キャーッ！！」という悲鳴が聞こえた。ようやく部屋の照明が元に戻ると、愛実と沙織の姿は消えており、突然目の前にレールが自動的に敷かれて列車が猛スピードで走り去って行った。

「いかん！　みんな、避けるんだ！！」

大声で叫ぶ朝比奈探偵。それに呼応した理人と倫生は大きくジャンプして列車から逃れる。その瞬間、走り去る列車の窓の中から白髪鬼と縛られた様子の愛実と沙織の姿は垣間見えた。

「朝比奈君、勝負はお預けだ。それまでこちらのお嬢さん二人の身柄は預かる。彼女たちを助けたければ、明日の夜、帝国財団美術館にて幻の観音像をかけて私と勝負だ！　明日を楽しみにしているぞ！　フハハハハハ！！！」
「ウッ…ググゥッ、ウグムムゥ」
「ムゥッ…ウムゥ！」

愛実と沙織は改めて人質として白髪鬼に連れ去られてしまった！

「しまった！　愛実君と沙織君が！？」
「ちきしょう！　沙織、どうか無事でいてくれ！」
「待ってろよ愛実！　必ず助け出してやるからな！」

果たして理人と倫生、そして朝比奈探偵は、無事に愛実と沙織を救い、尚且つ幻の観音像を白髪鬼から守り通すことが出来るのか！？
残念ながら今回のお話はここまでです。この先は皆様のご想像にお任せします。