巨大重工メーカー「亜斗夢重工」の社長・綾瀬秀太郎は、実は特撮ヒーローオタク。
彼は社内に極秘の「スーパーヒーロー事業部」を設立し、パワードスーツ《重機装士ヴァルダー》を開発する。
装着者に選ばれたのは、大学生・皆上遼馬。
彼はヒーローとして戦う一方、恋人の綾瀬早弥香との関係や日常生活との両立に悩みながら活動を続けている。
一方、早弥香は親友ルナ=ハートウェルと共に遼馬を追って横浜へ向かい、そこで遼馬の知人である久我美輝や恋中七香たちと出会う。
美輝はパルクールチーム「グラビティブレイカーズ」の一員で、見た目に反して高い戦闘能力を持つ少年だった。
また、美輝に憧れる後輩・耀 斗仁威や、その妹・瑪愛莉との交流を通じて、過去に不良グループとの事件があったことも明らかになる。
その一件をきっかけに、斗仁威は美輝に強い信頼と憧れを抱くようになった。
その裏では、悪の天才科学者・暗黒大博士が暗躍を開始。
新型パワードスーツ《デモンスブルー》を開発し、横浜を舞台に動き出す。
配下のエージェントも現地に潜入し、「ヴァルダー打倒」と適合者探索を進めている。
さらに、地球防衛組織ブレイバーズも動き出し、事態はヒーロー・企業・裏組織が交錯する大きな戦いへと発展しつつある。
――そしてその裏で、遼馬は妹・陽莉との穏やかな日常も過ごしながら、迫り来る新たな脅威にまだ気づいていなかった。
接触
錆びついた鉄骨が軋む音が、廃工場の天井から鈍く響いていた。
窓ガラスはほとんど割れ、外から差し込む冬の冷たい光が、埃にまみれた床をぼんやりと照らしている。
かつて不良グループ「スラッシュ・ドッグス」が拠点としていたこの場所も、今では敗残兵の溜まり場に過ぎなかった。
「ちくしょー……!」
鉄くずの山を蹴り飛ばしながら、不良Aが吐き捨てる。
「あの時、あと一歩だったんだぞ!? あとちょっとで、あの生意気な斗仁威の野郎を潰せたってのによ!」
「言っても仕方ねぇだろ……」
壁にもたれかかっていた不良Bが、力なく応じる。
「リーダーはパクられて、仲間もほとんど散り散りだ……もう俺たち、終わりだよ」
「全部……全部あいつらのせいだ!」
不良Cが歯ぎしりする。
「久我美輝……あの女みてぇなツラした野郎と、その仲間ども! あいつらさえいなければ、今頃俺たちは——」
言葉は最後まで続かなかった。
――コツ、コツ、コツ。
乾いた足音が、工場の奥から静かに響いてきたからだ。
三人は同時に顔を上げる。
暗がりの中から現れたのは、異様な男だった。
全身を黒いスーツで覆い、顔は覆面とゴーグルで完全に隠されている。人間らしさを感じさせない、無機質な風体。
その男は、まるでこの場の主であるかのように、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「フフフッ……諸君、お困りのようだね?」
低く、湿った声が空気を震わせる。
「……あぁ?」
不良Aが眉をひそめた。
「誰だてめえは?」
「おいおい……」
不良Bが立ち上がり、鉄パイプを肩に担ぐ。
「ここはコスプレ大会の会場じゃねぇぞ? 変態は帰りな」
次の瞬間、彼は躊躇なく踏み込み、鉄パイプを振り下ろした。
――ガンッ!
しかし。
「なっ……!?」
手応えは、なかった。
気づいた時には、男の腕が背後から首に回されていた。
「ぐっ……!」
関節を極められ、体が一瞬で硬直する。
鉄パイプが床に落ち、乾いた音を立てた。
「は、放しやがれ!!」
「静かにしたまえ」
男はまるで子供をあしらうような口調で言った。

そのまま軽く力を込めると、不良Bは抵抗する間もなく膝をつかされる。
「てめぇ……!」
不良Aが拳を握りしめる。
「俺たちとやろうってのか!?」
「慌てるな」
男はゆっくりと手を離し、不良Bを解放した。
その動きには一切の無駄がなく、逆に不気味な余裕を感じさせる。
「私はお前たちの“敵”ではない」
「……は?」
不良Cが目を細めた。
「味方だとでも言う気か?」
「その通りだ」
男は、わずかに口元を歪めたように見えた。
「お前たちの組織の立て直しに手を貸してやろう。加えて――」
一歩、距離を詰める。
「お前たちをここまで追い込んだ連中への“復讐”にも、な」
その言葉に、空気が変わった。
不良たちの目に、わずかな光が戻る。
「……そいつは、本当か?」
疑いと期待が入り混じった声。
「もちろんだ」
男は即答した。
「ただし――」
その声が、低く沈む。
「お前たちには、私の“仕事”も手伝ってもらうがな」
「仕事……?」
「難しいことではない」
男はゆっくりと背を向け、闇の奥へと歩き出す。
「力が欲しいのだろう? 復讐を果たす力が」
足音が再び響く。
「ならば、その対価を支払え」
振り返ることなく、言い放つ。
「フフフッ……」
不気味な笑い声が、廃工場の中に長く残響した。
――その瞬間。
不良たちはまだ知らなかった。
この出会いが、自分たちを“人間”ではいられない領域へと引きずり込む、最初の一歩であることを。
襲撃
夜の横浜。
海から吹き上げる冷たい風が、ビルの谷間を抜けて走り去っていく。

重機装士ヴァルダーは、専用スーパーバイク《ヴァルダー・ラプター》を駆り、市街地を滑るように走行していた。
ヘルメット越しに見える夜景。その裏側に潜む異変を、彼は確かに感じ取っている。
(「暗黒大博士が横浜に潜伏」……それに「UFOの目撃情報」か。偶然とは思えないな……)
エンジン音を響かせながら、ヴァルダーは湾岸エリアへと進路を取る。
――その瞬間だった。
バシュッ!
「っ!?」
鋭い衝撃が、肩部装甲をかすめた。
火花が散る。
(狙撃!?)
即座にハンドルを切り、車体を傾ける。直後、もう一発の弾丸が背後のアスファルトを穿った。
乾いた銃声が遅れて響く。
(どこだ……!?)
視線を巡らせるが、射手の姿は見えない。高所か、あるいは——
再び銃撃。
今度は正確に進路を制限するような位置。
(誘導している……!)
ヴァルダーは歯を食いしばる。
あえて誘いに乗るべきか。それとも離脱か。
―― 一瞬の逡巡の後、アクセルを踏み込んだ。
(いいだろう。出てこい、狙撃手……!)
バイクは都市の明かりを離れ、やがて人影の途絶えた工業地帯へと突入する。
並ぶのは、廃棄された倉庫や工場群。人気はなく、静まり返っていた。
やがて、銃撃が止む。
同時に、ヴァルダーはバイクを急停止させた。
キィィィィッ——!
タイヤが火花を散らし、闇の中で止まる。
エンジンを落とし、ゆっくりと降車する。
ヘルメットのバイザーがわずかに光を反射する中——
「……出てこい。いるんだろう?」
静かに告げた、その直後。
ガシャ……ガシャ……と、周囲の物陰から人影が現れた。
ひとり、ふたり——いや、五人。
取り囲むように、半円を描く。
そして、その姿を見た瞬間、ヴァルダーの眉がわずかに動いた。
彼らの両手には、異様な装備が装着されていたからだ。
金属質の光沢を放つ、機械仕掛けのグローブ。指の関節部には駆動機構のようなパーツが組み込まれ、まるで“武器”そのものだった。
「お前ら……」
ヴァルダーは一歩前に出る。
「もしかして――耀斗仁威くんにちょっかいを出して、美輝にとっちめられた……あの不良グループの連中か?」
沈黙のあと。
ニヤリ、と。
不良Aが口元を歪めた。
「へぇ……」
嘲るような声。
「てめぇ、斗仁威や……あのヨシテルとかいう女顔野郎の知り合いかよ」
仲間たちがクスクスと笑う。
「こいつはちょうどいいぜ……!」
不良Bが、グローブを打ち鳴らした。
ガンッ、と鈍い金属音が響く。
「なんかよくわかんねーけどよォ、暗黒なんたらって変なジジイが、このグローブくれてさぁ」
その顔には、明らかな高揚が浮かんでいる。
「“好きに暴れろ”ってよォ……!」
ギュィィン……と、グローブの内部機構が唸りを上げた。
異様な駆動音。
「てなわけで……」
全員が一斉に構える。

「ぶっころしてやんぜ!!」
「やはり……暗黒大博士か!」
ヴァルダーの声に、確信が宿る。
(一般人に武装を与えて戦わせる……。やり口があまりにも悪質だ)
目の前の相手は、確かに街の不良だ。
だが――
(こいつらは“ただの敵”じゃない。装備次第では、致命傷を与えかねない……!)
拳を握る。
装甲越しに、力がこもる。
(しかも、生身の人間……無闇に強打はできない)
制圧か、無力化か。
判断を一瞬で下す必要がある。
――その刹那。
「行くぞオラァッ!!」
不良Aが地面を蹴り、突進してきた。
次の瞬間、機械グローブが唸りを上げながら振り下ろされる——!
ヴァルダーは、わずかに体を沈めた。
戦いが、始まる。
(つづく)

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